日本の原風景のようなゆったりとした時の流れ、忘れられた人情、やさしさ、思いやりが画面からあふれていて、なつかしく感じました。白黒、独特の間、まったく違和感なく映画にとけ込んでいけました(笑)。 遠い昔に経験し、忘れ去っていた静かな時の流れに戻してくれました。こんなゆったりと落ち着いた気分の映画を見たのは久しぶりそれは、自分の子供の頃、今から40年以前に戻った私がいました。 時間をゆったりと感じ、時を慈しんでいた時代。いつ頃から、時に急かされ、時を追いかけて行くようになってしまったのでしょうか?もういいよ、もうゆっくりと生きなさいと言われているような気がしました。 「東京物語」という題名のイメージとは随分違います。70近い老夫婦が尾道から、東京に住む子供たちを訪ねしばらく東京に滞在した時のことを中心に描いていました。 昭和28年の作品だから、私がまだ3歳の時。あの時代は田舎から東京に出るのは、ほんとうに一仕事。電車に乗っても、長い時間がかかりました。 そう言えば、私も小学校の一年の時、母に連れられて鈍行に乗って、東京の親戚の家に遊びに行きました。その時の東京の雰囲気は、きっとあんな感じなんだろうと思いながら見ていました。 平凡で平和な家族に起こる日常的な出来事を、淡々と描いていました。 老夫婦の幸せとさびしさ、所帯をもった子供たちのドライな冷たさそれと対比的な、戦争で亡くなった二男の嫁の温かさ。子供よりも血のつながりのない他人の方が親切、そんな言葉が印象的でした。 でも、子供も決して悪い人なわけではない。自分の生活があり、それを護らなければならない。まあ、人間ってそんなものです(笑)。 淡々とした日常を映画にするのは難しいこと、そして、2時間以上も画面に釘付けにするのですから、監督や出演者の力量を感じます。それにしてもなつかしい役者が一杯、それもみんな若々しい。その中で、特に杉村春子の演じた長女役が秀逸でした。 星は☆☆☆☆★(四つ半)です。 |