アイリスへの手紙

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 デニーロは、スタンリーの誠実で一途な役所をうまく演じていました。不器用で素朴、多くを語りません。恋におちてとは、また違った感じです。でも、うまい。どんな役柄でもそれになりきって演じられるのはさすがです。

 ジェーンフォンダは、アイリスの気が強くしっかりしているけど、心にさびしさや不安を抱えている女性をうまく演じていました。彼女もうまい。彼女は、私の好きなタイプの女性であったことが、この映画を見ていて思いだされました(笑)。思い返せば、メグライヤンの前に好きだった女優です。彼女の清純な色気が好きです。

 アイリスはホテルに泊まり、ルームサービスでコーヒーとチョコを頼むのが夢でした。そんな、現状を認め、その中で精一杯生きているアイリスに共感です。どんな小さい夢でもその人にとってはかけがえのないもの、そしてなかなか叶えられないもの。それを覚えていて叶えてあげるスタンレーの思いが素敵です。

 週に3回、そして日曜日には子供たちを外へやり、鍵をかけてセックスをしたい。これは夫をいかに愛していたかその証しです。そして、アイリスの本音でもあります。アイリスは正直な女性です。でも、「私は知らない人とは寝ないのよ。」このバランス感覚が良いですね。娘への対応でもそうで、正しいことと悪いこととの区別をはっきりつけ、それに沿って行動をしている女性です。

 アイリスは8ヶ月前に夫を亡くします。最愛の夫で、その幸せな結婚生活が目に見えるようです。だから、忘れられない。でも、少しずつ心を開いていきます。

 最初の出会いは、バスの中でひったくりに会い、それを追いかける彼女。これだけで彼女の強さ、妥協をしない、あきらめない性格がよくでています。それを助ける彼、偶然の出会いのようで必然の出会いでした。

 自転車の二人乗りのシーンはビデオの表紙にもある素敵なシーンです。ここからどれだけ映画のイメージを膨らませたことかわかりません(笑)。

 文盲であることを上司に知られて首になります。それはアイリスが彼の無実を証明するためにしたこと。しかたないこととはいえ、責任を感じる彼女。これが彼の手助けをしなければという気持ちにつながります。

 字が書けないのは、父の仕事のために50回も学校を替わったから。今までの人生で、文字が読めない苦しさ、辛さを十分過ぎるくらい味わってきました。字が書けたらどうしたいかのアイリスの質問に「小切手を切りるのが夢」と答えます。

 彼女は小学校の先生だったかもしれないね。家に黒板があったり、教える道具があったり、教え方が上手だったり……と。

 文字を初めて教えてほしいと言った時のシーンが今でも目に浮かびます。「雨の中」バスのドアが閉まる瞬間、絞り出すような感じで言った言葉……。「この勇気がすべての出発点」でも、幾たびかの挫折、それを乗り越えたのは、アイリスへの愛。お互いを大切に思い、必要と感じていたからでしょう。

こんな粋な会話もありました。

 男「二人はいつまでこんなままごとみたいな関係でいるの?」

 男「二人はいい大人の男女だよ?」

 女「女心は今微妙なところなの。」

 男「この女性のためなら、お金と時間をいくらかけてもおしくない。」

 「もう墓場には行かない。」こんな言葉に続いて、<やり直したい、2度目のチャンスをください。決して後悔をさせないから。>と言ったのは、仲直りをする時に書いた、アイリスからの手紙です。謝るのにどちらからという決まりはありません、お互いを大事で必要だと思っているのだったら…。このことからアイリスの勇気を感じました。

 彼の家に行き、発明品(彼の趣味は機械の発明でした、そして部屋にはケーキをさます素晴らしい機械が……)を見て彼女は言います。

「この町では朝起きて働き、そして寝るだけを繰り返す人ばかりだと思っていた。でも、それ以外の人も住んでいた。」このアイリスの新鮮な驚きと賞賛によって、彼は再び自信を取り戻し、文字を覚えることに挑戦をします。

 文字が読めるようになってから、図書館で声を上げて本を読むシーン。静かにと図書館員にとがめられ、「ここは図書館よ。」「わかっています。私の図書館だから。」これも素敵なシーンでした。そして、このシーンから「奇跡の人」を思いだしました。ある時を境にして、言葉が泉のごとくほとばしり出てくる。すべてが開けていくような感じなんでしょう。

 デトロイトから車で突然帰ってくる彼。そして、彼女と一緒に住むために家を買ったという彼。

 男「バスルームは一つしかない」

 女「増設ができる?」

 男「願ってやれないことはない。」

これは彼の生き方そのものであるから説得力があります。

 パン作りのラインの仕事に娘がついた時に、アイリスが娘に言った言葉「ここには将来はない」と。自分と同じ境遇にはさせたくないという母親の気持ち。でも、そのような厳しい言葉とは裏腹に、娘の出産に際して、「女の子の味方は母親しかいない」と……。やさしい言葉を……。

 <アイリスの手紙>という題名の意味深いですね。この映画を見終わった後、初めて理解できました。出世して、遠くに離れても、アイリスのことが忘れられない。スタンリーの熱さや思いが<手紙15通、バレンタインカードとクリスマスカード>に込められています。

 

 

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