ネバーランド

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 緑の公園と、さらに深い色合いのベンチが印象的でした。これからは、公園に行ったら必ずベンチに座りそうです(笑)。デップとハリモアの共演ということで見ました。そんな興味本位の見方だったけど、本当に良い映画でした。心に深く食い込んでくる映画です。

 ハリモア少年はうまいですね。チャリチョコまでどのくらいの時間が経っているのでしょうか?1年としても、この時期の少年の変化は大きいです。最初彼だと気がつかなかったほどですから。自然な演技、その年齢にふさわしい演技が良いですね。

 デップは毎度のことながらうまい。これ以外に表現のしようがない(笑)。どんな役柄でも完璧にこなしてしまいます。

 現実と夢(舞台)の境目がうまく演出されていた。特に印象深かったのは、妻の浮気がわかり、<話は明日にしようと言って>別々の寝室に向かい、妻はドアを開けて自分の寝室へ、彼はドアを開けたら緑豊かな野原で、そこで子ども達と遊んでいる。そんな場面がありました。気持ちが決定的に離れたことを象徴的に表していた気がします。これにとどまらず、現実から芝居へ移ったり、時間と場所がスリップするのがとても新鮮に感じました。ティムバートンの作品を思わせるような演出です。

 妻との不仲は何が原因なんでしょうか?二人の求めているものが違ってきた?そんなきがします。妻は、子ども達の家族と祖母を夕食に招いたのは、自分が社交界で優位な立場に立てるとの思惑からでした。だから、その目的が達せないとわかった段階から、彼らを嫌い避けます。きっと、夫のバリが舞台で成功を願っていたのも、そんな目的があったからではないでしょうか?それを敏感に感じとったバリの心は離れて行きます。妻とは逆に彼の演劇への思いは、良い作品を作ること、それが興行的に失敗であっても、評論家かどんなに酷評されようが、自分の思う作品を作りたいと思っていた。

 シルビア(ケイト)への思いは何なんでしょうか?子ども達との関係の中での彼女の存在が映画では強調されていましたが、私には逆なような気がしてなりません。彼女を好きになり、愛する中で子ども達も自分にとって大切な存在になってきた。まあ、どちらが先でも良いのですが(笑)。男と女の見方の違いかもしれません。ただ、子ども達への愛情の注ぎ方をみていると、子供が好き、自分の子供がほしかったのだと思いました。これも、夫婦の気持ちのすれ違いの一つの原因になっていたかもしれません。

 4人の少年達の中でピーター(ハリモア)の存在。一人だけ超現実的で夢とか希望とかに無縁でした。大人になることを急いでいると、バリがシルビアに言います。「大人になれば傷つかないと思っているようだ……」。ピーターの中の現実主義、それは早すぎる父の死、それをめぐる大人達の嘘。(父は死なないで、もうすぐ元気になって遊んでくれるよ。)それに幻滅を感じて、自分の殻に閉じこもっていました。それは、幼き日のバリだったのでしょう?

 このピーターに夢と希望を与えたい、それは、自分が生きてきたこと、考えてきたことを彼に伝えることでした。革表紙のノートを渡し、何でも良いから芝居を書いて見なさいと言ったこと。犬を熊と考えるイマジネーションの大切さも教えました。ないものでも、イメージで作り出せること、それを理解できたからこそ、ネバーランドも信じることができました。母を亡くしたピーターにとって、このネバーランドに母がいる、そしてイメージを膨らませればいつでも会えるという考え方は、生きる支えになるでしょう。

 ピーターパンの初演の日に、25席の空席をバラバラに作ってほしいとバリはお願いをします。その謎を考えるのも楽しかったですね。結局、孤児院の子ども達を招待したわけです。そのねらいは見事的中します。ピーターパンは子供のために作られた物語、まず子ども達が感動し楽しみ喜ぶことが一番肝心なこと、それにつられて大人も楽しめる。大人は周りの目を気にします。自分が良いと思っても、素直に表現できません。それを知っているバリは純粋な子供の目を利用します。お見事です(笑)。

 ピーターパン症候群という言葉が一時はやりました。大人になりたがらない子ども達をいうのだそうです。ピーターが<大人に成り急いでいる>という言葉がでてきた時から、違和感を感じていました。まあ、この二つは全く関係がないと考える方が正しいのでしょう。

 芝居の中のピーターパンが、子ども達に空を飛ぶ方法を教えている所がありました。<飛べると信じること>が大事でした。最後に、ベンチに座ってバリとピーターがネバーランドの話をします。それも<信じること>から出発します。ネバーランドは<天国>みたいなイメージですね。ただ、天国は今住んでいる場所にあるという言葉からも、<夢の叶う場所>と考えてもいいような気がします。夢が叶うと信じることから、 今住んでいる場所をネバーランドに変えることができます。

 

 

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