シンデレラマン

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10月8日(日)3時から半田コロナで「シンデレラマン」を見ました。前売り券を買ったら、おまけにポップコーンがついていたので、超ラッキーでした(笑)。100席くらいの小さな劇場で半分くらいの入りでした。

 主演のジムブラッドにラッセルクロウ、その妻メイにレニー・ゼルヴィガー、そしてジムのマネージャー兼セコンドのジョーにポール・ジアマッティ。3人共うまかったですが、私は特にマネージャー役のジアマッティが一歩抜きんでていた気がします。助演男優賞をとるかもしれませんね。

 1930年代のアメリカ大恐慌の時代に、家族を守るために立ち上がったボクサー、ジムブラッドのシンデレラ物語です。

 ボクシングの世界チャンピオンという華やかになりがちな物語を、静かに淡々と描いていたのでよけいに心に浸みてきました。親子の情愛の深さを感じて涙があふれ、最後まで止まりません。穏やかな感動の涙でした。得意の絶頂でも、貧乏のどん底でも、妙に盛り上げるのではなく、押さえ気味な演出がかえって感動を与えます。

 音楽がまた良かったですね。落ち着いた雰囲気を作り、時には気分を盛り上げてくれました。音楽がさらにしっとりとした名画に仕上げてくれました。

 2時間半近い映画だったけど、アッという間の一時でした。途中で中だるみみたいなものがなく、最初から一気に見させてくれました。だんだんと盛り上げ、最後のタイトルマッチのシーンで最高潮に達します。手に汗握るのたとえ通り、拳に力が入り、体が前に動きます(笑)。

 シンデレラマンという題名からハッピーエンドに終わるだろうという予想だけはつきましたが、実話だけにどんな結末かはわかりません。そんな不透明な部分が、ハラハラドキドキさせてくれました。

 映画「ロッキー」といろいろ所でダブル部分がありましたが、ロッキーは必ず最後は勝つという安心感があります。その安心感の上に、できるだけ波瀾万丈にして、ラストを盛り上げています。だから、ノックアウトシーンでも過剰な程です(笑)。でも、この映画では実話ということもあり、実際のボクシングを見ているような感じを与えてくれました。それでも、ボクシングシーンの臨場感と迫力は凄いですね。

 「ミリオンダラーベイビー」は家族を守ろうとして守れませんでした。いや、逆に離れて行きました。それに対して「シンデレラマン」は、見事に家族を守りきりました。そんな違いがあった気がします。

 ボクシングという人間の肉体を酷使する究極の仕事、それを支える妻と家族。いつケガをしたり死ぬかもしれない、死との隣り合わせの恐怖。それは、本人以上のものがあるはずです。最初の頃は全戦全勝で、圧倒的に強かったのに、それでも不安で勝敗を確かめることができず、彼が帰って来た時の顔色で勝敗を確かめるメイの姿。あの表情が何ともせつなくて、そして勝利であるとわかった時の喜び方が、けなげで可愛いから、思いっきり抱きしめて守ってやりたくなります。一度も試合場に行くこともなく、ラジオさえ聞かなかったメイが、最後のタイトルマッチのみ、控え室の彼に逢いに行きます。それは、自分のささえと愛がなければ絶対に勝てないと思ったためです。

 彼がボクサーとしての資格を剥奪された時、神に感謝したと言っていました。このことが彼のことをいかに心配していたかを表しています。

 ジムは家族を守るためには、何でもやりました。その必死さ一途さが心を打ちます。家族を貧困から守るために、ボクシングで一時は栄光をつかんだ彼が、港湾の日雇いにも行きました。右手の骨折も我慢してリングにたちました。でも、その結果がボクサーとしての資格の剥奪。その時のくやしさはいかばかりでしょう。自分にはボクシングしかない、いつかそれによって家族を幸福にしたいと思っていたのに、それが消えてしまいました。

 貧しさゆえ、息子がサラミを盗んだ時一緒に店に返しに行くシーンがありました。でも、決して大声で怒らないし殴ったりもしない。それどころか、ひざを折り同じ目線で、静かに<やったことは悪いことだ>と教える。静かにさとすから、子供も受け入れます。そして子供を<絶対によそへはやらない>と約束します。この約束を守ることが彼の支えでした。そのためには何でもしようと……。

 電気代を4ヶ月も滞納して、電気を止められ、子供たちがその寒さのために、風邪をこじらせて行きます。妻はそれに耐えられず、子供たちを身内の元へ分散して避難させます。それに怒るジム、でも妻のしたことの正しさも痛いほどわかるわけです。そして、子供との約束を守るために、彼は緊急救護局へ行きお金をもらいます。それでも足りない分を、ボクシング協会の連中が集まる事務所へ行って、援助を頼みます。その屈辱は……。でも、彼の顔にそれは表れていません。決して卑屈にならず、堂々としています。それは家族と一緒に過ごすためにしたことという誇りがあったからです。

 セコンドの役割は大きいですね。セコンド兼マネジャー、そして売り込みという営業まで担当します。セコンド役のジアマッティはものすごくうまいですね。3人ともうまかったけど、私には特に彼の演技は光っているように見えました。味があります。ジムとジョーは一心同体で、親友と言っても良いほどです。試合前には、彼の自信を蘇らせるように、誰々に勝ったのは誰?と過去の戦いの勝利を思い出せています。セコンドの重要さを改めて知りました。

 貧乏のどん底のジムに比べて、ジョーは恵まれている。贅沢な生活をしている、私などがそう感じるのですから、メイがそう感じないわけがありません。

 ジョーは資格剥奪後、一度だけとの約束で試合をさせ、それに奇跡的に勝ったジムのために再起の手助けをします。ジムはメイに<再度のチャンスをつかみたい>と訴えますがが、彼女は猛反対をします。それは、彼のことが心配だからです。そこで、そんな道へ誘ったセコンドの彼に文句を言いに行きます。自分の夫をだしに使わないでと。夫を利用して自分だけ甘い汁を吸っていると思っていたんです。彼のアパートに行くと、すべての家具が売り払われて、がらんとした部屋に妻と二人だけ。

 彼の妻がメイに言います。<男がやりたいと言っていることをとめらる?><いつも悲しむのは女だけど、それを支えて行くしかないでしょ? そこで、彼女は悟ります。

 世界チャンプのマックスとの戦い、ジムはどうして彼に勝てたのか?実力や若さはマックスの方がはるかに上でした。ハングリーな精神の差と支える者の差がでたと思います。ジムには妻と子供たちを守るという使命が、それはいつしか、家族にとどまらず困っているアメリカ国民の代表としての使命へと変わって行きます。なぜ戦うの?との記者の質問に<ミルク>とたった一言。ダウンした時に、自分の家族の貧しい姿が映りそれに発憤して起きあがります。いかに心が大切であるか?それはある意味では実力以上の結果を生むわけです。

 彼の右のパンチの威力は定評があったけど、左はそれほどでもなかった。でも、右手が骨折で使えない時、荷役の仕事で左手を使った、それによって左が鍛えられ、欠点が克服されました。それで以前よりも強くなったわけです。試合と共に、ボクシングの勘を取り戻していくジムの姿が印象的でした。

 

 

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