海を飛ぶ夢

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 海を飛ぶ夢 h18.9.22

 スペイン映画「海を飛ぶ夢」をDVDで見ました。この映画、ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞を受賞した作品です。

 海の事故で、首から下が付随になり、26年間ベットで寝たきりのラモン・サンペトロの手記を元にした実話です。

 彼は、自ら死を選ぶ<尊厳死>を望んで裁判を起こします。その裁判を助ける人々と彼を介助する家族との物語です。

 この映画は、見る前に内容を少しだけ知っていたので<悲しくて、辛くて、やるせない>映画だと覚悟をしてみました。でも、想像していたほど暗くて悲しい映画ではなかったです。

 それは、主役であるラモン役のハビエル・バルデムの演技力のたまものだと思います。彼は目が特徴です。大きな瞳で相手をしっかりと見つめ、笑顔を絶やさないで対応することが彼の大きな魅力となっています。

 彼は寝たきりである上、決して2枚目とは言えない顔つきだけど、二人の女性から愛されます。それは、彼の魅力のせいでしょう。

 どうして、いつも笑顔なの?その質問には、彼は、自分では何もできないので、自然とその対応のために、笑顔を覚えた。でも、私は彼は決してそんなずるい人間ではなく、
彼の人柄の表れなんだと思います。

 裁判所の硬直した対応法律や前例がないから、ダメという。せっかく必死の覚悟で出て行ったのに、話さえ聞いてくれない。彼の落胆と裁判所を信じたことへの愚かさはいかばかりだったでしょう。

 神父が出てきます。ラモンの紹介番組が放送された時のコメンテーターのように役割でした。

 彼は、自殺をしたがるのは、介護する家族に愛情がたりないから、愛に飢えている甘えのためであると断定をします。これに1番傷つくのが、彼の兄嫁でした。彼女の献身的な介護を知っているだけに、決して言ってはいけない言葉でした。

 兄嫁だけでなく、甥の青年、おじいちゃんと愛情に包まれた中で彼は暮らしていました。

 まあ、介護は実際にそれを体験してみたものでなければ分からない部分がたくさんあります。それは別にしても、この神父の罪は大きいです。

 神父に彼が反論をします。教会は、死の恐怖を人々に植え付けて、教会へ縛り付けている。
それは教会の保身のため。もし、死の恐怖がなければ、人々は教会には来ないと……。

 私は自殺をしたいと思ったことは一度もありません。まあ、自殺をするほどの不幸に巡りあわなかったと言えばそれまでですが……(笑)。

 それは死ぬことが怖いからです。一つは、死ぬ時は<さぞ痛いだろう>ということ。そして、もう一つは、死後の世界です。この未知なる世界が、未知なる故に怖い。

 ラモンは、死後の世界を生まれてくる前の世界と言っていました。何もない世界、
それは自分の生まれる前がわからないのと同じように……。

 でも、最後に彼の尊厳死に手を貸して彼女に、死んでからの世界で、何か合図を送ってくれと頼まれ承知をするシーンがありましたが、何とも、ほほえましいものでした。

 彼女は最初、自分の現実の苦しさから逃れるために苦しみを乗り越えて生きている彼を支えとして生きていこうとしています。

 それを彼から指摘されます。本当の友人なら、相手の気持ちを大切にするもの。自分のために生きてくれというのは、おかしいと……。最後は、その意味を彼女は理解し、彼のために力を貸します。

 弁護士のフリア、なかなか素敵な女性でした。知的でスレンダー、愁いを含んだ仕草は朔太郎好みです(笑)。

 彼女は、脳血栓性痴呆症。いつか彼と同じ状態になると予想をして、彼の力になろうと弁護を引き受けます。そして、発作。彼女は車椅子の生活になり、彼と同じ苦しみを感じます。

 いや、彼よりも、今までの楽しい生活や未来の生活に希望を持っていただけに、辛いものがあります。その絶望の彼女の支えになったのが彼です。攻守逆転ですね。そして、いつしか友情が愛に変わっていく。

 彼の本を出版した後、一緒に死ぬことを約束します。でも、彼女は約束を破ります。それは、夫の存在があったからかな?

 人は生きる権利があるのと同じで、人は死ぬ権利がある。かれは、こんなことも言っていました。自分は生きる権利ではなくて、義務であった。だから、せめて<尊厳死>の権利がほしいと。

 死の恐怖、死後の恐怖を超えて死にたいと思うのは、今が辛いから。生きているとは言えないから。

 でも、一般的に人が自殺をすれば家族や友人に大きなショックを与えます。今回の彼は、26年間の苦しみ故に安らぎさえ与えてくれます。
 

 

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