単騎、千里を走る h18.11.3
父と息子の確執とその修復を描く物語。母親の死に深く関わる父、でも、何も語らずに北国の漁村へ逃げて行く父親。それを許すことができず、その後十数年の断絶と確執が続く親子。
夫が重病で入院したことをきっかけに、なんとか関係の修復をしてもらいたいと嫁(寺島忍)が、夫(中井貴一)に黙って、父親を病室に呼ぶが、頑として会わない。そこで、せめて夫の活躍の場を知ってもらおうと渡したビデオには、中国の仮面舞踊を研究する息子の姿が……。
しかし、検査の結果は肝臓癌。それも末期の……。それを聞いた父(高倉健)は、息子のために何かしてやりたいと、息子のやり残した仕事のために、単身中国に渡り、仮面舞踏劇「単騎、千里を走る」の撮影に挑戦します。この劇は三国志の関羽の話だそうで、息子のため単身中国に渡った父の心境と重なるものがあります。
言葉も地理も全くわからない、父はなんとか撮影を試みるがそのたびに、次々に試練が訪れる。それを息子のためにと、必死の粘り腰で乗り切っていきます。
中国の仮面舞踏家と私生児との微妙な関係を見て、父は自分と息子の姿を重ねます。
息子が中国の仮面舞踊の研究に夢中になったのは、自分の姿をそこに見たからです。
自分も父親も本音を仮面の下に隠して生きてきたのでした。
中国の自然、特に山の景色は素晴らしい。そして、人間の温かさ、人の良い中国人が素直に描かれていて、感動しました。通訳、役人、警官と……。
また、村の人が日本からの旅人1人のために、村人総出の食卓で迎えてくれるシーンは、感動的でした。そして、私生児を村の子供として育てるという考え方も素晴らしい。
豊かさの中で失っていくものがあり、それは、人情。そんな人情を若い頃は、嫌っていた私も、「いいなあ」と思わせるものがそこにはありました。
寺島忍はここでも存在感のある、良い演技をしていました。超美人というわけではないけど、色気というか男心をそそる何かがあります。
寡黙で表情を出さない父親、高倉健のはまり役です。普通なら絶対無理と言われれば、あきらめる所を、何とかしたいとの情熱から後に引かない頑とした表情はさすがです。
監督チャン・イーモウは、いろいろ良い作品がありますが、私は、<初恋がきた道>が一番好きです。その作品と同じように、のんびりとした中国の農村の雰囲気とほのぼのとした、人情を見せてくれました。でも、50年も前には日本のどこにでもあった風景です。
中国側の出演者は、ほとんど素人だとか、通訳や村長、そして、少年と素朴で人の良さがうまく引き出されていました。さすが、名匠チャン・イーモウですね。
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