パリ・ジュテーム h19.3.25
名古屋のミリオン座で<パリ・ジュテーム>を見てきました。
なかなか味のある映画で、時間が経てば経つほど印象が深くなって行きます。
18のそれも5分というオムニバス映画ということで内容の薄いものになってしまうのではと心配をしていましたが、考えて見れば、この5分の間に、監督の言いたいことのエッセンスが凝縮されているわけですから、それが理解できれば、深い感動がじわじわと押し寄せてきます。
18話が全部が良かったか?やはり監督の力量とか、役者の演技力によって印象に差が出てくるものであって、それは仕方ないと思います。
私は、一番印象に残っている作品は<地下鉄の話>です(*^_^*)。
これがコーエン兄弟の作品なんですね。コーエン兄弟のことは、この作品を見るまで知りませんでした。彼らの作品はおそらく一つも見ていないと思います。でも、今回の作品を見て、興味が湧きましたので、機会があれば、過去の作品を見てみようと思います。
アメリカ人観光客になったスティーヴ・ブシェミは、少し前にDVDで<ビッグフィシュ>を見ていたので、すぐにわかりました。ハトが豆鉄砲を食らっているような、キョトンとした顔つきが印象的でした(笑)。一言もしゃべらなかったけど、彼のあっけにとられた、茫然自失の気持ちは十分に伝わってきました。
アメリカ人観光客が地下鉄のチュイルリー駅のベンチに座って、パリのガイドブックを読んでいます。そこには、トラブルを避けるために<目を合わすな>と書かれていました。
しかし、そのフレーズを読んだ瞬間、向かう側のホームでいちゃつくアベックの男と目を合わせてしまいます。(いけないと思うとよけいに、目が合ってしまいます。そんなものです(^_^;))
アベックの男の言葉はわからないけど、相当怒っていることは伝わってくる。どうしたら良いのか?と途方に暮れていると、タイミング良く向こうのホームに電車が入ってくる。
この時のホッとする気持ちは、観光客だけでなく、映画を見ていた人に共通した気持ちだったと思います。
これで一件落着かと思ったら、男は電車に乗らない。やばい、どうなるのか?こちらのホームに来るのかと思った瞬間。アベックの女がこちらにホームに来て観光客に突然ディープキッスをします。
これでは火に油をそそるようなもの、そして案の定、男は観光客をぼこぼこにして、
二人は抱き合って去っていきます。
そして、殴られた男の足下には、ルーブル美術館で買った土産物が散乱しています。
カウボーイの存在を信じていた息子をなくした母親の息子に対する強い思いを描いたのは、諏訪敦彦監督の作品でした。私は彼のこと全く知りませんでしたが、作品を見ても、この映画の監督18人に選ればれたことからも優秀な監督であることがわかります。
『ショコラ』や『イングリッシュ・ペイシェント』のジュリエット・ビノシュが、今までの作品とは違って雰囲気で、悲しみに支配された母親役を熱演していました。子供のことしか考えられない人にとって、人生の最大の不幸は、若くして子供を失うこと……。その子供に会うことができるなら、何でもする。そんな母親の願いが奇跡を産み、死の国への道案内役のカーボーイを呼びよせます。
馬にのったカーボーイが、石畳の広場に颯爽と現れます。広場は古き歴史をもったヨーロッパの象徴、そして、パリは一際似合います。
<路地と広場>これが都市の形成の中での日本と西洋との大きな違いです。日本にはない広場を日本人の監督が描いたことがものすごく面白いですね。
諏訪敦彦監督によると、この物語は、死んだ息子を悲しむあまり、墓に入って息子を取り戻そうとする母親を描いた、アンデルセンの『墓の中の子ども』を下敷きにしているということです。
映画の撮影でパリにやって来たアメリカ人女優のリズは、ドラッグ中毒でした。ある日、売人ケンからドラッグを受け取った後、代金を払おうとしたけど、高額紙幣しかなかったので、後はチップのつもりで、それで払おうします。でも、ケンはチップを受け取ろうとしません。
そこで、お金をくずすためにカフェでビールを一緒に飲みます。ケンはリズが女優だとわかると、撮影が見たいというので、ケンのことに興味をもったリズは彼に電話番号を知らせます。そして、撮影が終わった後、急に彼に会いたくなってリズは、撮影現場にドラッグを注文するのですが……。
女優は売人が、正確な金額を受け取ることから、彼の真面目さ、誠実さが感じ、そこに現実逃避する自分との違いを見て、好意を持ちます。だから、そんな彼に会いたくなって電話をした。でも、撮影現場には彼がくると思いこんでいたのに、違う人がきます。その時の彼女の落胆…………。腕時計をくすめる男、それによってケンとの差を際だたせています。
街の印刷所に、英国の女性客が通訳のガスパールと共にやって来ます。そのガスパールが、印刷所の下働きの青年エリに興味をもって「君の顔に見覚えがある、特別なオーラを感じるんだ。前世で会ったんじゃないかな」などと、何かと話しかけます。でも、エリは反応を示しません。関心がないのかと思ったが、念のためと思って電話番号を渡します。
じつは、エリは英語しか話せなくて、彼の言葉がわからなかったのです。店主から、話を聞いたエリは、必死でガスパールの後を追いかけます。
この作品は、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のガス・ヴァン・サント(脚本・監督)のものだそうです。それにしては、意味のよくわからない作品だと思っていました。何でも、あの印刷所のあったマレ地区は、現代アートのギャラリーが多いことでも有名だが、実はパリでもっともゲイの多い地区でもあるそうです。それで、この作品の意味がわかりました。男同士(ゲイ)の運命的な出会いだったわけですね(笑)。
2人の悪友と一緒にセーヌ河岸でナンパをしていたフランソワの物語。
ものすごくフランス的ですよね。ナンパはイタリア男だったかな?綺麗な女性が通りかかったら声をかけるのが礼儀だと聞きました。でも、この少年達はあまりうまくない。なれていないのかもしれません。
フランソワは目の前で転んだアラブ系の若い女性をとっさに助けます。彼好みの女性だったからでしょう(笑)。彼女が美しい髪を包み隠してしまうのを見て、「どうして髪を隠すの?」とたずねるフランソワに、彼女はベール<ヘジャブ>をかぶるのは自分のためであると答えます。
自分を持ったしっかりした女性です。そんな彼女に彼が一目ぼろしたのも無理はないでしょう。
パリは移民の多い街。アフリカ系、アラブ系、アジア系と……。それを象徴するような映画でもありました。<へジャブ>は自分のため、決して強制ではないという言葉にイスラムに女性の強いメッセージを感じました。(宗教的な女性蔑視だと思いこんでいました)
パントマイムの男の物語。パントマイムこそ、パリによく似合います。この映画は全て無言でしたが、言葉以上にアクションに気持ちが出ていました。愛する伴侶を見つけて生まれた可愛い少年が背にしていた大きなカバンが印象的でした。あれは、フランス版のランドセルで「カルターブル」というのだそうです。
ヴァンパイヤの話。
幻想的な映像でした。ヴァンパイアの美貌もさることながら、特別小さな瞳がインパクトありました。あんな、ヴァンパイアなら血を吸われてみたいバカな男は誰でもそう思うものです(笑)。
覗き部屋での男女の話。
パリのピガールは、風俗店が立ち並ぶパリ随一の歓楽街だそうです。日本の新宿のような街かな?
覗き部屋で一体何が起こったのか?と観客に思わせておいて実は二人芝居の相手同士だったというオチ。まるで、芝居を見ているような感じを受けました。
この作品のリチャード・ラグラヴェネーズは『マディソン郡の橋』『モンタナの風に抱かれて』などの脚本で、超一流の脚本家の地位を確立したそうです。それを聞くと、作品が輝いてくるから不思議です(笑)。
また、女性はファニー・アルダンで『永遠のマリア・カラス』『8人の女たち』に出ています。どこかで見たことがあると思ったわけです。この映画、知れば知るほど、凄い監督、凄い俳優揃いですね。
突然、盲目の学生が電話で恋人から別れを告げられた話。その瞬間、彼の脳裏には今までの出来事が走馬燈のように走ります。でも、それは彼女が次に演じるための芝居の練習でした。この意外性が面白かったのですが、ハッピーエンドにしては、彼の浮かない顔が印象的でした。
最初は突然の別れでびっくりはしたけど、彼は内心では、別れが近いことを感じていたいやそれを彼が求めていたのかもしれません。この恋がいつまでも続くものではないから……。それに気づいた彼、近い内にはそんな予感を感じたので、いつか二人は別れると思う。
別れに動揺し、今までの出来事をたどる彼、その時の過ぎゆく様、二人は立っていて動かない。後のものがものすごいスピードで動く、それが好きでした。
ナタリー・ポートマンは、スターで華があって、彼女が出てくると華やかになって行きます。印象に残った映画の一つです。
末期の白血病を患った妻と一緒に過ごすことに決めた男、刻一刻と死に近づく妻。
こうして始まった男と女の最後の濃密な日々彼は、妻に恋する男を演じることで、妻に2度目の恋をする。
エスプリの効いた面白い映画でした。人間の微妙な心理をついたものです。人は、良き人と思われたいという感情が強く、まして、自分の妻が近い内に死ぬとわかれば
ほっておくことはできない。そして、そんなやさしい自分を演じていることから、いつしか「恋している自分に恋をしている」状態になります。
シャンプーのセールスマンをする男の物語。
これはよくわからない映画でした。最初は美容院への売り込みに苦労をするが、マダムに気に入られて、色々な髪型を提案する。でも、最後の「君はいまの髪型がいちばんステキだ」これがオチかな?
監督のクリストファー・ドイルは『花様年華(かようねんか)』『HERO』、『レディ・イン・ザ・ウォーター』などを作っている。この作品の13区は、ヨーロッパ屈指のチャイナタウンであるそうです。
郵便配達をする女性のパリでの“特別な1日”の物語。 平凡だけど心に強く残る作品でした。パリへの一人旅は、長年の夢で、そのために日常生活を切りつめ我慢をしてきました。でも、いざその夢が叶うとそれほどの感動はない。どんなことでもそうですが、夢を実現するまでの過程が楽しいものです。
同じ感動を味わえる人物の大切さ。これは旅をより楽しいものにします。そして、旅先での出会いの難しさとそれに期待する虚しさ。日常生活こそ大切にすべきである。
アレクサンダー・ペイン(脚本・監督)は
『アバウト・シュミット』や『サイドウェイ』の監督だそうです。この作品と、アバウトシュミットは、心の奥に潜む寂しさ、一人であることは共通していますね。
また、この映画の郵便配達の女性はマーゴ・マーティンデイルで、ミリオンダラー・ベイビーでの、あの憎たらしい母親役でした(>_<)。
パリ郊外の団地に住む移民のベビーシッターの話。 この映画もあまりよくわからなかったけど、後で考えるとしみじみと悲しみが伝わってきました。電車やバスを何度も乗り継ぎ、長時間かけて高級住宅街へいきそこでベビーシッターをやる。
自分にも同じような子供がいるので、朝出かけに自分の子供をあやすために子守歌を歌う。それが、ベビーシッター先の子供をあやす時にも歌われます。
それが、なんともせつないですね。同じ人間に生まれたのに、環境や境遇の違いで
こんなに大きな差が出てしまう。その矛盾がやりきれない。
年の離れた男女が意味深な会話をしながら歩いている話。
「俺を信用してくれ」、「ギャスパールに人生を支配されそうで恐いの」、「下手に逆らわなければ、俺たちが会うチャンスはもっと増えるさ」こんな会話から、見る側にギャスパールはひも、もしくは暴力夫を連想させます。そう思わせるような会話が次々に流れていきます。でも、実はギャスパールは彼女の赤ちゃんで、今から友達と映画を見るためにおじいちゃんに赤ん坊の子守をたのんでいたのでした(*^_^*)。
たった5分の間の会話からいろいろな状況を連想させてくれました。まさしく、言葉の持つ魔術でしたね。
アルフォンソ・キュアロンは、『大いなる遺産』や『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』を監督したそうです。
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