ギルバートグレイプ

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 デカプリオがうますぎる、これが一番印象に残ったことです。知的障害児の役になりきっている、というよりもそのものでした。彼は、どのくらいの時間をかけて役作りをしたのでしょうか?先ほどインターネットでこの映画のことを見ていたら、オーデションの時から、知的障害児になって受けたとか、彼のこの役にかけて意気込みが感じられる話です。アイアムサムのショーペンとはまた違った知的障害児を見せてくれました。彼は精神薄弱児ですよね?でも、時々自閉症児のような、こだわりも見られました。例えば、タンクの上に登るとか、木の上に登るなど……。人から注目をされたいという衝動がおきるのでしょう。

 彼の顔は綺麗で2枚目、だからアーニーの役になりきるために、顔に細工をしていたような気がします。彼は、タイタニックで突然でてきてスターになったと、私は思っていましたが、でも、この映画を見て彼は演技派の役者であるとはっきりわかりました。そうすると、アビエーターの演技も再評価をしなければいけないかもしれません。抑えた演技だったとも考えられます。この映画でアカデミーの助演男優賞を取りました。あの演技なら当然でしょう。きっと、近い将来念願の主演男優賞も手に入れるでしょう。この映画を見てそう確信しました。

 アーニーは、18歳までは生きられないと言われていました。彼が生きたこと、これは彼にとって幸せなことだったのか?そして、ギルバートにとって、家族にとって?

 ジョニーディップは、感情をあまり表にださない、好青年の役を熱演していました。彼は、24年間同じ土地にいて、これから先もそこにいるしかないと考えていました。何の刺激も面白いこともない町、そしてこれから先も……。 それは、家族という重石があるからです。でも、彼はそれを運命とあきらめ、たんたんと生活をしています。世を恨んで斜に構えるわけでもなく、普通の人間としての欲望を放棄しているわけでもありません。友達との付き合い、色っぽい人妻との浮気、せつなくて可憐な恋と、適当に楽しんでいます。この人間的な生き方に共鳴をしました。彼の境遇を考えると、暗くていじけた日常がみえてくるのですが……。

 ギルバートの、浮気相手の人妻ベディ役のメアリー・スティーンバーゲンは、海辺の家にもでていました。そして、あの時も同じような役柄でしたね(笑)。なかなか男心をくすぐるような色っぽい女性です。彼女が別れのために、彼の店にきたシーンはなかなかよかったですね。彼女は、彼を浮気相手に選んだ理由を<どこにも行かない人だから>と言っていました。また、<子供たちが彼のように育ってくれることを願っていた。>とも言いました。きっと、ギルバートの家族思いな所が好きだったのだと思います。

 この夫婦の関係はどうなっているんでしょうか?夫も異常です。妻の浮気を気づかないのか、知っていてとぼけているのかよくわからない。それは、妻に関心がないから、仕事人間で家庭を振り返らないからでしょう。お金を与えておけば、愛情を与えたことになると考えていたようです。それは、妻や子供たちに対する接し方でわかります。

 彼女は、夫からかまってほしかった。そして、いつもそばにいる人がほしかったのが、ギルバートを相手にした理由の一つでしょう。 彼女は夫を殺したのでしょうか?限りなく灰色に近い黒ですが、真相はわかりません。でも、これをきっかけにして彼女は町から旅立つ決意をします。

 ギルバートの恋人役ベッキーを演じたジュリエット・ルイスは、ボーイッシュでキュートな女性でした。知的な雰囲気もあったしね。

 母と二人のトレーナーでの気ままな移動生活。この自由さは、ギルバートとまったく対照的です。彼女はギルバートのどこに惚れたのでしょうか?彼女に欠けていたもの、それは家族です。家族を大切にし、必死で守っている彼の姿が素敵だったから。では、ギルバートは彼女のどこに惚れたのか?彼女の自由な生き方でしょう。

 ギルバートは、アーニーには特別に優しかったですね、過保護と言えるほどに。でも、一度だけ思い切り殴りました。それはベッキーが町を出ていくとわかった時でした。彼女を引き留めたくてもそれができない、そのどうしようもない感情の爆発でした。ある意味、自然のことで決してギルバートを責めることはできません。

 ギルバートはアーニーだけでなく、母親にも優しかった。弱い立場の彼らに優しくし、断固家族を守っていくという堅い決意が見られました。

 ある日突然の父親の自殺。父親は何を考えているのかわからない?と彼は言いました。何があったのか?アーニーの問題があったのかもしれません。でも、それによって町一番の美人の母が、欲求不満の過食により250sの超肥満になります。その途中経過をギルバートは見ていたわけですが、母親を愛していたから辛かったと思います。母親も安心して甘えられる家族でなかったら、肥満にならなかったわけだし、複雑な心境だったことでしょう。彼の母親を思う気持ちの強さは、母親の死を笑いものにしたくない。だから、家ごと燃やすという大胆な発想へとつながって行きました。

 この映画のテーマは<旅立ち>ですね。一生のあの田舎町に住んでいなければと思っていたギルバートの足かせも、母親が死に、家を焼くことで大きく転換をしました。<竜馬がゆく>ふうにいえば<回天>をしたわけです(笑)。そして、姉と妹はハンバーガーショップに働き、彼とアーニーはベッキーと一緒に放浪の旅にでます。今まで待ち望んでいた自由が手に入ったわけです。

 不幸のどん底にいると、いつまでもいつまでもこの状況が続くと思いこんでしまいます。でも、そんなことはないわけで、いつかその状況は変わって行きます。特にその転換は不幸が起こった時に現れるもので、私は不幸の中にはチャンスが隠れていると思っています。まあ、そういうふうにポジティブに考えられる時は大丈夫なわけですけどね。

 

 

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