硫黄島からの手紙

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硫黄島からの手紙
h18.12.28 半田コロナ

 素晴らしい映画でした。期待をして行くと裏切られることが多いけど、この映画は期待以上に素晴らしい映画でした。朔太郎的には、<父親たちの星条旗>よりも良かったと……、で、星は4つです(笑)。

 今の自分の幸せを実感しながら見ていました。もし、自分があの時代に生きていたら……。それを考えると、ぞっとします。

 ほんとうに戦争のない、平和な日本に生まれて良かった。今この時点でも、世界中では戦争をしていたり、貧困であったり、圧政にあえいでいる国があります。

 人の運命は紙一重、どこの国に生まれるかわからないし、同じ日本に生まれても、どの時代に生まれるかで大きく人生は変わってきます。

 それを考えると、自分の運の良さ、平和な時代のありがたさを感じさせてくれた映画でした。


 クリント・イーストウッド監督はやはりうまいですね。悲惨な戦争映画を、たんたんと描くことで、見る側に、悲しみや感動がより深く伝わってきます。

 日本人の監督なら、泣かせ所を作ってこれでもかこれでもかと責めてくるのに、彼はそれをしません(笑)。でも、知らぬ間に涙がでてきて止まりません。とても静かな涙でした。

 映像をモノトーンのように抑えたことが、戦争の悲惨さとその時代の暗さを象徴していました。

 戦争映画だから、戦闘シーンもあり、残忍な映像もありましたが、それは中心ではなく、
日本兵の人生や人間観を描いた人間ドラマになっていました。

 主に、日本兵の4人の人生を重ねながら映画は進んで行きました。

 司令官である栗林中将(渡辺謙)。彼の家族への手紙とアメリカ留学の話

 2等兵である西郷(二宮和也)。彼の妻への手紙と、新妻やまだ見ぬ娘を思う気持ち。

 西中佐(伊原剛志)。彼は、ロサンゼルスオリンピックで、馬術競技で金メダルをとりました。彼は指揮官としても、優れ兵から慕われます。

 清水(加瀬亮)。彼は、憲兵隊の落ちこぼれです。

 この戦争の最大の犠牲者は、名もなき兵士であり、それを送り出し、国で待っている、母、妻、子供である。これは、日米に共通したことです。

 西中佐が傷ついた米兵を治療しその米兵と心を通じ合わせるシーンがありました。その兵士が持っていた母親からの手紙を西中佐が読むことで、そのことがわかります。

 一部の職業軍人は別にして、兵士は生きて国へ帰りたいと心から願っていました。
表面上は天皇のため、祖国のために死ぬといっていても、本心は自分の大切な人を守るためでした。

 その典型的な例が、西郷2等兵です。彼はパン屋で、新妻とお腹の中にいる子供を
おいて出征をしてきたので、生きて帰りたいの一心です。

 軍や国に対する批判を口にはしますが、それでも、兵士としての規律は守っている。
上官の命令は絶対であり、それを破ることは厳罰になり、その恐怖から従っています。
心からのものではなく、しかたなく、これが、その当時の一般的な兵士の気持ちであったと思います。

 栗林中将は、アメリカへの軍事留学の経験があり、アメリカの国力を十分知っていました。そのため、アメリカとの戦いを望んでいなかったし、戦えば、物量の差から、勝てないと思っていました。ただ、戦うとなれば、軍の司令官として職務を全うする覚悟でした。

 徹底した合理主義の元に、最善の戦略を立てます。勝てるとは思っていないが、最善を尽くし、少しでも長く持ちこたえることができるような作戦を立てます。

 兵隊はこの指揮官のためなら、死んでも良いと思うことがあり、そうさせるのが良い指揮官です。この映画では、西中佐や栗林中将がそれです。彼らが常に言っていた<自分は常に君達の先頭にいる>という姿勢が兵士をふるいたたせ、士気を高めます。

 今読んでいる真田太平記の中の、大阪夏の陣を思い出しました。栗林中将は、真田幸村にあたります。援軍がなく、兵力も少なく、勝てる見込みの全くない戦闘です。

 でも、巧妙な作戦と兵士の士気のため、5日で陥落すると言われていた島を36日も持ち応えます。この戦いだけが、米兵の死傷者の数が日本兵を上回ったそうです。これは、あの圧倒的に強い米軍を考えれば本当に凄いことです。

 上陸作戦を阻止する時の常識である、水際の攻防を避けて、敵を油断させ、深く入った所で一気に攻撃をする。これは、真田幸村がよく使った作戦。また、地下壕を掘り進め、外から見えないように秘密の基地にして、どこから、責めてくるかわからないようにしたのも、真田の奇襲作戦に似ています。

 ただ、残念なのは日本軍は一枚岩ではなかったこと。栗林中将の考え方の賛同しない、指揮官がいたことで彼が考えていた作戦が思うようには進まなかった。これも、真田幸村の立場とよくにています。大野治長や淀、秀頼に当たりのが、大本営の東条英機になるのか?大阪方の必死さと統一した作戦ができていたら、徳川に勝てたかもしれません。(まあ、統一ができないからああなったのですが……)


 日米の兵士の考え方、それを送る家族の気持ちは同じでも、徹底的に違っていたのは、それぞれの国内の事情。思想統制、食料の配給、貴金属どころか、パン屋の道具までの供出、がまん、がまんの日本に対して、アメリカでの豊かな生活。この徹底的な違いを、二つの映画で比較して見ることができました。
 

 

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