宮廷画家ゴヤは見た

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宮廷画家ゴヤは見た ミリオン座 h20.10.18

 朔的には☆は3つ半で、久しぶりに重厚な映画を見ました。
ハビエル・バンデムの怪演が見物ものです。

 18世紀末のヨーロッパは、キリスト教絶対主義の暗黒の時代でした。
私は社会主義も宗教も嫌いです。
なぜなら、彼らもひとたび権力を握れば、民衆を弾圧し、
自分達の権力の維持を図って行くからです。

 神の下での平等、差別のない国家といいながら、
教会の関係者が権力者となり、特権階級となってしまいます。
権力とは怖くて悲しいもの、それを強く感じさせる映画でした。

 宗教、社会主義、王政、軍政、
フランス革命によってできた政権や
ナポレオンも同じ穴のムジナです。
つくづくそんな時代に生まれなかった、自分の幸せを感じました。

 宮廷画家ゴヤの目を通して、
18世紀末のスペインの激動の時代を描いています。
ゴヤは主役ではないが、この映画の中では重要な役回りをしています。
私はこの役者はうまいと思いましたが、
彼が言った「今のスペインは売春婦と同じだ」
という言葉は意味が深く、心に強く残っています。

 ゴヤは肖像画や宗教画に優れた作品を多数残していますが、
私はあの柔らかく丸みのあるタッチが好きです。
そして彼が描いた、二人の肖像画、
裕福な商人の娘イネス(ナタリー・ポートマン)と
神父のロレンソー(ハビエル・バルデム)から、
この物語は展開をして行きます。

 ロレンソー神父は、異教徒に対する
今の教会のやり方に生ぬるいものを感じ
昔のような宗教裁判による弾圧をしていくべきだと考え、
それを実行することを強く主張します。

 彼はゴヤの家で肖像画に描かれている美しい娘イネスにひかれ、
邪な考えの下に、彼女を弾劾裁判の生け贄にすることを思い立ちます。
そのチャンスをねらっていましたが、
ある日居酒屋で彼女が豚肉を食べなかったことを知り、
それは彼女がユダヤ教を信じているためだと決めつけ
宗教裁判で、無実を訴えるイネスを拷問し、
それを無理矢理認めさせ、投獄をしてしまいます。

 それに対して、大金持ちの商人である父は、
娘の釈放を願いそれとひきかえに、
教会へ多額の寄付を申し出ます。
それと同時に、巧妙な策略をロレンソー神父にしかけます。
 その策略に屈した神父は、イネスの解放に必死となりますが、
上からの許可が下りず、ついには国外に追放をされてしまいます。

 そして月日が流れ、フランスへ逃れたロレンソー神父は
自由主義思想に鞍替えをして、その幹部となり、
フランス革命に力を尽くします。

 政権をとったナポレオンは、人民の解放という名目で
スペインを侵略し制服をします。
ロレンソーは、その宰相となってスペインに戻ってきます。
 フランス軍によって、宗教裁判は廃止され、
刑務所のイネスも解放されますが、20年近い歳月が経っていました。
彼女は刑務所で娘を産みますが、その子はロレンソー神父の娘であり、
生まれると同時に孤児院に預けられ、今は売春婦として生きています。

 娘に会いたがるイネスは、ゴヤの力添えによって
その願いが叶いそうになりますが、
その寸前にイギリス軍によってフランス軍は敗北し、
再びスペインに王政が敷かれ、
その混乱の中で娘と会うことができませんでした。
そして、ロレンソー神父は捕らえられ、
キリスト教への改宗を迫られますが
それを拒否し、ギロチンの露と消えます。

 清純で無垢なイネスがあまりにも悲しい、
それは美しいゆえの悲劇でした。
罪がなければ、たとえ拷問されてもそれを認めることはない。
それを認めるのは信仰心がないからと思っているロレンソー神父も、
イネスの父の拷問によってあっさりと、
その軍門に下ってしまいます。
もともと彼にはそれほど強い信仰心がなかったからかもしれませんが、
それよりも、拷問されれば認めるのが普通です。
卑怯で日和見な神父ですが、ラストで根性を見せます。
今度も改宗で生き延びるのかと思っていましたが‥‥。
 

 

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