天国と地獄

映画の目次へ 

 

天国と地獄(1963) h21.5.23 DVD

 朔的には☆は3つ半で、すばらしい作品だと思いました。
1963年の作品で、白黒ですが、古いという感じを全く受けず、
それどころか新鮮で感動をしました。

 原作はエド・マクベインの“キングの身代金”ですが、
これを日本的にアレンジした脚本がすばらしいと思います。
脚本の善し悪しが映画の成否を握ると言っても過言ではありませんね(*^_^*)。

 黒澤作品はどれも面白いです。
というか、自分にとって良い作品は面白いと言った方が正確かな(*^_^*)?
いくつか黒澤作品を見ましたが、
全てが良いとは思えないことがわかってきました。
そしてこの作品は、もの凄く面白かったから
きっと良い作品なのでしょう(*^_^*)。

 この映画は誘拐事件を追うサスペンスであると同時に、
深い人間ドラマでもあります。
そうなった所以は、誘拐犯から身代金を要求される
ナショナルシューズの権藤常務(三船敏郎)の、
人間的な苦悩にあると思います。

 映画の冒頭に、ナショナルシューズの専務を始め、
重役連中が権藤家に集まり、社長を追い出して、
新しい体制を作ることを話し合っているシーンがあります。
ここでのやりとりによって、権藤の人間性や、
今会社がどのような状況にあるか等の
全てがわかるような仕組みになっています。

 職人上がりの彼は、良いシューズを作ることだけが生き甲斐で、
そのために今の会社を手に入れようと画策します。
秘かに株の取得の手配をして、自分が筆頭株主となり、
株式総会で勝つことができる、株を手に入れるめどを立てます。
でもそのためには、すぐに5000万円の手付け金を払う必要があり、
そのお金は屋敷を抵当に入れて作り、これに全てをかけます。
そして、この背景の上に誘拐事件がおきます。

 始めは自分の子供が誘拐されたと思いこみ、
犯人の身代金の要求額である3000万円を
迷うことなく払うことを犯人に伝えますが、
それが自分の運転手の子供だとわかると
態度をガラリと変え、身代金を払うことを断固拒否し
警察に捜査を依頼します。

 しかし犯人は、間違いだと気づいても権藤に身代金を要求してきます。
それはいろいろあっても結局権藤が、金を出す人物だと踏んだからでした。
永年勤めてくれている抱え運転手の子供であり、
自分の息子の親友であり、
自分の息子の身代わりになった子供を見捨てることはできません。
そして、妻もお金を出してくれと懇願します。

 しかしこれによって自分は全財産を失い、
社会的な地位も失うことになるので悩みます。
そして、出した結論は運転手の子供のために金を出すことでした。
この人間的な葛藤によってこの映画を単なる
誘拐事件ではない、深いものとしています。

 この権藤の決意を知って、戸倉警部(仲代達也)の率いる
捜査陣は奮起し、マスコミも応援をします。

 犯人の頭の良さが映画をさらに面白くさせます。
特急こだまの洗面所の窓が開くのは7pだけ、
そこで、厚さ7pのバックを二つ用意させて、
そこに現金3000万円を入れさせ、合図で電車外へ投げさせます。

 犯人との接触は現金受渡の一回だけ、
それが緊張感を生んでいます。
警察も捜査本部を作って、必死の捜査をしますが、
その地道な捜査が実を結んで、
だんだんと犯人に迫って行きます。

 犯人は大学病院のインターンである竹内(山崎努)です。
彼は家から高台に建つ白亜の殿堂である権藤家を見上げています。
自分の家は冬は寒くて寝られない、
夏は暑くて寝られない、まるで地獄のようで、
それにひきかえ、権藤家は天国。

 ここからきっと映画の題名は来ているのでしょう。
そして、それが犯行の動機でもあります。
もっと別のもの、例えば会社がらみとか、怨恨と思わせる所もありましが
きっと現実の犯罪の動機とはそんなものなのでしょう(^^;)。

 ラストシーン、犯人は死刑となりますが、
牧師を含めて誰とも会いたくないといいますが
唯一刑の執行の前に、権藤と会いたいと言います。
なぜなのでしょうか?

 二人は刑務所の面接室で会いますが、
犯人は終始死刑なんか怖くないと強がりますが、
でも体は正直でした。

 この映画は何が言いたかったのでしょうか?
権藤は全てを捨てて、人間的に振る舞ったこと、
そこから道が開けました。

 

 

上に戻る