ヴィヨンの妻

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ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜 h21.1017 ピカデリー

 朔的には☆は3つ半でお薦めです。

 『ヴィヨンの妻』は太宰治の小説です。
なおヴィヨンとは15世紀最大のフランスの詩人で、
放浪、無頼の人であり、
小説の主人公である佐知の夫、
大谷(=太宰)と重なる所があらからでしょう。

 太宰治の小説「ヴィヨンの妻」を下敷きに、
その他の作品も加えて脚本とし、
それを根岸吉太郎監督がメガホンを撮りました。
この作品は、第33回モントリオール世界映画祭で
監督賞をとりました。

 根岸吉太郎監督には、「狂った果実」「遠雷」
「サイドカーに犬」などの名作があります。
昔から日本人は外国人の評価を気にする所がありますから、
外国で認められた作品が、
日本で話題になるのはよくあるパターンです。

 太宰治(1909年〜1948年)は、昭和を代表する小説家で
38歳の時に心中で死にますが、
今年が生誕100年で、その記念映画でもあります。

 太宰治をあまり好きではないのは、
心中という暗いイメージがついてくるからです。
そのため『走れメロス』以外では、『斜陽』を一冊読んだだけですが、
若い人や女性には人気が高いですね。

 戦後まもなくの話。
詩人で小説家でもある大谷(浅野忠信)はダメ夫の典型、
酒浸りで、家に帰ってこず、
借金まみれで、お金を家に入れない、
おまけに他の女と心中未遂までします。
その夫に献身的に尽くすのが妻の佐知(松たかこ)です。

 佐知は夫の借金のかたに飲み屋の椿屋で働くことになりますが、
美人で明るい性格のため、そこで人気者となります。
佐知を慕う青年(妻夫木聡)や昔の恋人(堤真一)が
通ってきたりして、ようやく佐知の生活が安定してきたと思った
矢先に、夫が心中をします。
一命をとりとめた夫に対して、佐知の言った言葉
『夫に心中された女房はどんな顔して生きたらいいの?』
これが深く胸に刺さりました。

 広末凉子と松たかこ、全く正反対の大人の女性を、
それぞれに艶っぽく演じてくれました。
濡れ場のシーンもありましたが、裸を見せずに、
隠すことで、観客に感じさせ、想像させることが
エロチズムの本質であることを証明してくれました。
これは監督のうまさですね(^^;)。
それにしても、松たか子は良い女になりました。
凛とした中での艶っぽさは秀逸です。

 佐知の清濁合わせ持ち、
状況に適応できる柔軟性に、
大人の熟した魅力を感じました。

 大谷の弱さと佐知の強さ、
二人の対比が際だっていましたが、
それは、男と女の本来の姿とも言えるもので、
女性の方が精神的には、はるかに強いものです。

 大谷は自分のことを棚に上げて、妻の浮気を疑い、
コキューになることを恐れています。
コキューとは、フランス語で「寝取られた男」のことですが、
そんなぶざまな自分にはなりたくないと思っています。
なら、そうならないように、しっかりとすればいいと
思うのですが……。

 究極のダメ夫、それでも尽くし、ついていく妻、
今の時代にはそんな女性はいないですよね?(^_^;)
弱いから守ってあげたい
そんな母性本能をくすぐられるのか?
知的でちょっと頼りない破壊的な男、
そんな男がもてるのかもしれません?
 

 

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