キャタピラー

映画の目次へ 

 

キャタピラー h22.9.4 名古屋シネマスコーレ

 朔的には☆は3つ半(75点)でお薦めです。

 若松孝二監督の新境地と言える作品で、
主演の寺島しのぶはこの映画で、
第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞しました。

 <寺島しのぶ>
 受賞した彼女の演技を確かめたくてこの映画を見てきました。
私は彼女のファンで、『やわらかい生活』『赤目四十八瀧心中未遂』
『ヴァイブレータ』などの作品を見てきました。


 とびきりの美人とは言えませんが、
どこか男心をそそる魅力的な女性であることは確かです。
大胆な演技は定評があり、
今回も美しい裸体をたっぷりと見せてくれました(*^_^*)。
夫婦のセックスシーンがたくさんありましたが、
決していやらしくならないのは彼女ならではのことだと思います。

 「反戦」と一口で言っても、いろいろな切り口、表現の仕方があります。
 この映画のようにメッセージ性の非常に強い映画は、
好き嫌いがあり、評価が大きく分かれます。
ただ、監督の目的が「反戦」を強くアピールしたかったということであれば、
大成功であったと思います。

 戦争映画は一杯ありますが、
今回のテーマは今まで触れられなかったものです。
(触れられないというよりも、暗黙の内に避けてきたのかもしれません(>_<))
でも、このテーマは実際の戦争では確実に起こっている問題であり、
それをデフォルメして描くことで、
人に強烈なインパクトを与えます。

 戦争の悲劇といえば、すぐに戦死が浮かびますが、
重傷を負って帰還した人は、
おそらく死者を上回る数があり、
中には強く精神を病んで帰還した人もあったはずです。

 今回の映画のように、両手両足をもがれて
芋虫のような姿で帰る人も‥‥。
その時の本人と家族の苦悩はいかばかりであったでしょうか。
あの時代は国からの生活の補償もなく、あるのは勲章だけ‥‥。
人は名誉だけでは生きていけません(>_<)。

 この映画を見て、つくづく戦争のない時代に
生きていられた幸せを噛みしめました。
私のように精神的にも肉体的にも弱い人間は
兵隊に行ったらどうなっていたでしょう(>_<)。

 戦争のない世界を実現することの難しさは十分知っているつもりです。
<人は話し合えば理解しあえる>とか、
<何事もゆずりあって仲良くする>とか
そんなきれい事で平和が来ないことは確かで、
悲しいけどそれが現実です。

 戦争放棄を宣言すれば、他国から侵略されず、
戦争に巻き込まれることもない。
それほど世界は単純なものではありません。

 戦争で手柄を立て勲章をもらい、
そのために重傷を負った久蔵(大西信満 )は、
生きる軍神となり、芋虫(キャタピラー)のような姿で帰ってきました。

 それを迎えた妻のシゲ子(寺島しのぶ)は、
何か納得できないものがありました。
でも、軍神様の面倒をみることは当たり前で、
名誉なことであるとの村人たちの手前、
彼女なりに精一杯世話をするのでした。

 彼女が納得できない理由は、
出征前の夫から受けた暴力、
うまづめと罵しられ、深く傷ついていたためでした。

 キャタピラーのような久蔵は、
それでも性欲と食欲は一向に衰えず
シゲ子に執拗に要求をして来ます。
言葉にならない声、
訴えるような目と態度で示す久蔵‥‥。

 初めは妻の勤めとしてそんな夫の欲望を満たしていましたが、
しだいにその立場が逆転していく、
シゲ子が優位に立って行きます。
その逆転していくあたりが、うまく描かれていて面白いです。

 その過程で、久蔵は中国大陸で、
無抵抗な中国女性を陵辱し惨殺したことが思い出され
それが今の自分の状況(妻の言うなり)と重なり、
精神的におかしくなっていきます。

 この夫婦を通して、戦争の意味、
そして夫婦の在り方を問うています。

***********************
ウィキペディア(Wikipedia)より

『芋虫』(いもむし)は、江戸川乱歩の著した短編小説である。

『新青年』に、昭和4年(1929年)に掲載された。
編集者の要望により、掲載時のタイトルは「悪夢」とされたが、
後に「芋虫」に戻された。

2005年公開のオムニバス映画「乱歩地獄」で映画化されている。
また、2010年公開の映画「キャタピラー」も
当初本作を原作としていると報道されたが、
著作権料などの問題によりそのまま映画化することが出来ず、
最終的には「乱歩作品から着想を得たオリジナル作品」として
クレジットから乱歩の名前を外した。
なお、題名(英語で芋虫の意)、男性主人公の階級、
障害の部位、夫婦間の感情、結末など「芋虫」を踏襲した部分も多いが、
結末に至る理由が「芋虫」とは異なっており、
全体としては制作者のイデオロギーを色濃く反映したものとなっている。

 

 

上に戻る