イリュージョニスト

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イリュージョニスト h23.4.16 ミリオン座

 朔的には☆は3つ半(70点)です。
映画を見終わった後に静かな感動が、ジワジワと沸いてきます。
アニメだからこそ出せた深い味わいがあり、
それによって、この映画の意味するものを、深く考えさせられた気がします。

 60年代の変わり行く世相をよく映していました。
ビートルズなどのロックに狂う少女達と逆に、
劇場にお客が入らない時代でした。

 1950年代の後半から1960年代は、価値観の転換が起こり、
古いものはだめで新しいものは全て良いと
考えられていた時代でした。
(今は古くても良いものは認められる時代となりましたが……。)

 フランス生まれに初老の手品師タチシェフ、
彼は古典的なマジシャンで、若い時はハイライトを浴びたこともありましたが、
今は一人でドサ回りをしています。
 昔は結婚していて、別れた娘がどこかにいると思われます。
 上品な紳士で、手品師のプロとしてのプライドを持っています。

 イギリスの片田舎(この時になって
ようやく電灯がつくようになったくらいの)で、
宿屋の掃除女として働いている孤児のアリス(16〜17歳)は、
何も知らない世間知らずでしたが、心は純真で無垢でした。
そして今の生活に満足し、幸せに暮らしていました。

 その村へタチシェフが営業でやってきます。
彼は村人の前でマジックをし、それが受けたことで
久しぶりの満足感と幸福感に浸っていました。

 タチシェフは、宿屋で身の回りの世話をしてくれるアリスに
自分の娘を重ね、ちょっとした親切心から
靴をプレゼントします。
 それをあたかも魔法で出したように見せたので、
それを見たアリスは、彼を魔法使いだと信じてしまい、
この宿をこっそり抜け出し、彼と一緒に旅立ちます。

 営業先のホテルに一緒に住んだ二人。
アリスは彼を尊敬し身の回りの世話をしてくれます。
それがタチシェフにはうれしくて仕方がありません。

 そのために、ハイヒール、ドレスと、
アリスがほしがるものは何とか手にいれてやろうとしますが、
そのためには深夜にバイトをしなければなりませんでした。
何でも希望するものが手に入るのは、
彼が魔法使いのためだと信じきっている純真さが、マジシャンを苦しめます。
でも、それを理解できない少女……。
そんな彼女に恋人ができます。

 この映画の謳い文句が、
ラストに最大のイリュージョンがあるということでした。
それがいったい何かと期待をしながら見ていましたが、
物語は淡々と続いていくばかりです。
 
 そしてラスト、少女に黙って一人旅立つ手品師……。
彼女に恋人ができたことをタチシェフは知り、
その人との新しい生活が彼女の幸せである考えていました。

 少女の前から突然に、それも完全に姿を消してしまうこと
これこそ今の彼ができる最大のイリュージョンでした。
それに気づいた時、この見事な演出に、
感心すると同時に、じんわりと感動が沸いてきました。
「魔法使いはこの世にはいないんだよ」との言葉を残して、
少女の前から去って行ったマジシャン
そこには、これからは自分を、そして彼を魔法使いだと思って、
幸せになりなさいの意味が……。

 彼はこれから一人どうして生きて行くのでしょうか?
そこには彼を必要とする場所、その場所がラストで暗示されていました。
(あの電気が初めてついた田舎の町)
 

 

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