一枚のハガキ

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一枚のハガキ h23.8.20 名演小劇場

 人の人生はくじ運なのか?
99才の新藤兼人監督、渾身の反戦映画で、
自ら最後と言ったこの作品は、すばらしい名作となりました。
朔的には☆は3つ半(75点)で、お薦めです。

 戦闘シーンの全くない戦争映画、
それがかえって、戦争の悲惨さ、残酷さを感じさせ、
反戦の意識を強く訴えてきました。

 前半・中半はパーフェクト、
後半にやや、「それは……」というシーンもありましたが、
まあそれも「緊張の中の緩和」と考えれば許せる範囲のもので、
それを含めてもすばらしい作品でした。

 大竹しのぶの好演、
いや私は怪演だと思いますが、ものすごいです。
改めて彼女の演技力のすごさを確認しました。
彼女がしゃべると、なぜかセリフが心に自然に入り、
強く響いてきます。そしてそれと共に涙が自然と湧いて来ます。

 最近の反戦映画といえば、
<キャタピラー>が強烈でした。
描き方の過激度には大きな違いがありますが、
両作品共、前線ではなく、銃後の苦しさや悲しさを通じて
強く反戦を訴えていました。

 人生はくじ運なのか?
 太平洋戦争末期、中年兵として招集されたら100名の兵士達、
予科練を迎えるための宿舎の大掃除の任務が終わり、
次の任務地はくじで決められることになります。
それも、自分ではなく上官が引いたくじで……。
このくじ運により、94人が死に、たった6人が生き残ります。

 この中年兵100人の中に、森川定造がいました。
彼は妻の友子(大竹しのぶ)からもらった一枚のハガキを、
戦友の松山啓太(豊川悦司)に見せます。
「どうして返事をかかないのか?」という啓太に
「返事を書いても、どうせ検閲があって、
自分の思うことは何も書けないから」と、定造は答えます。

 だから、もし生きていたらこの想いを、
直接友子に会って伝えてほしいと、啓太にハガキを託します。

 結局くじ運によって、定造はフィリピンで戦死、
啓太は生き残り家に帰って来ますが、
夫は死んだと思っていた妻は、
啓太の父とできていて、駆け落ちをしていました。

 日本にいることが嫌になった啓太は、
ブラジルに行くことを決意し、
その前に定造から預かったハガキをもって、友子を訪ねます。

 貧しい農家で暮らす友子は、
夫を亡くし、家を守るために仕方なしに夫の弟と結婚をします。
でも、その夫も戦争で亡くします。
さらに、それを悲観した父母もその後を追うようにしてなくなります。
たった一人になった友子は、
貧しい生活の中で、戦争を呪って生きています。

 この映画で監督は何が言いたかったのでしょうか?
「人生はくじ運である」と……。
 
 戦争の映画をいるたびに、このような戦争の時代に
生まれてこなかった自分の幸せを感じ、
自分はつくづく運の良い男だと思います。
人は生まれる時代を選ぶことができませんから……。

 それに対してくじ運の悪い友子、
生まれた時代、生まれた村、嫁いだ家
同じ時代に生まれても、くじ運の良い人はいくらでもいます。
同じ村でも、戦争に行かない男もいました。

 そして詰まるところくじ運が悪いのはいつも弱者で
その弱者の側に立ったのがこの反戦映画です。
国家によって引かれたくじは、
意識的に弱者に不利に働くようになっています。
それを口に出して言えない怒り。
自分の人生さえも、自分で決めることができません。

 100人のうち、残ったのは6人、
ではその6人は運が良かったといえるのでしょうか?
いや、必ずしもそうとは言えない部分があります。

 戦争の悲惨さは、前線よりも銃後にあり、
死んだ者より、残された者により深い悲しみや苦労を与えます。
 

 

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