朔的には☆は3つ半(70点)です。
とても難しい映画で、主人公の坂築静人がなぜ他人の死を悼む旅を続けるのか?
その意味がよく理解できません。
そこには静人の人となりが関係しているのでしょうが、
このあたりは原作を読まないとわからないかもしれません。
ただそこには、可愛がってくれていた祖父の、
不可解な死が大きな影響を与えたことだけは確かです。
身内の死の受け止め方は千差万別ですが、
静人は死を見つめ、死と向かい合ひ、考え尽くした結論が、
死者を悼むという行動だったのでしょう。
彼は新聞記事で殺人や事故のあった事を知り、その場所に直接出向き、
悼む儀式を行います。
ただ、その人の死の原因とか理由を追求していくと、苦しくなるので、
それは考えずに、その人が生前にどのくらい愛されていたかを知り、
それを自分だけは覚えているようにしました。
悼む(いたむ)とは、人の死を悲しみ嘆くことで、
<痛む>とか<傷む>に通じるものがあるそうです。
彼が人を<悼む>儀式は独特のもので、
静かに舞を踊るようです。
静人の母(大竹しのぶ)は末期ガンで余命わずかな中にあっても、
静人を信頼し、いつか立ち直って戻ってくることを信じて、
強く生きています。
その凜とした姿勢と強い存在感を見事に演じた
大竹しのぶはさすがです。
また週刊誌の記者、蒔野抗太郎(椎名桔平)は、
人を疑い、人の悪い部分を探し、
それをゴシップ記事にして食っています。
そんな人を信じない一匹狼の男を演じた椎名桔平は、
なかなか迫力があり、魅力的な存在で、
この映画の強いアクセントとなりました。
自分と対照的な静人の行為は、偽善であると確信し、
化けの皮をはがしてやろうと静人のことを調べます。
天童荒太は、<永遠の仔>や<あふれた愛>
<家族狩り>などのベストセラーがあり、
人の心の琴線に触れるもの、タブーとか
人間の奥底に住んでいる、暗い闇にスポットを当てています。
なお、この<悼む>人は、第140回直木賞を受賞した作品です。
原作の全てを映画では描き切れないもので、
そこには省略がつきまといますが、今回は特に、
奈義倖世(石田ゆり子)と夫との関係がよく分かりませんでした。
でも映画の雰囲気やできばえは良く、
画面は落ち着いて重厚感があり、
浮ついたもののない、どっしりとしたものを感じました。
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