紙の月

映画の目次へ 

 


 h26年11月20日、阿久比ユナイテッドシネマ
 朔的には☆は3つ半(70点)でお勧めです。

 地方銀行の女性行員が1億円の横領をなぜしたのか?
その経緯を描いている。

 豊かな家庭に生まれ、キリスト教系の女学校に通い、
一流企業のエリートサラリーマンと結婚し、子供はいないが
経済的には恵まれた暮らしをしていた主婦梅澤梨花(宮沢りえ)。

 外からは平穏で何不自由のない夫婦生活、
しかし夫は、何ごとも自分が上で、妻を下に見る、
言葉には出さないが、俺が食わしてやっているのだから、
黙って俺に従っていればいいという雰囲気が漂っている。

 契約社員として銀行で働いている
お前の仕事や給料はたかがしれている。
それよりは専業主婦として家庭を守れという夫の態度と、
それを我慢する自分にへきへきとしていた。

 自由がほしい、自分の思うままに生きてみたい、
自分が人に役に立っているという充実感が味わいたい、
そんなことを思っていた梨花の前に、
大学生の好青年が現れ生活が狂い出す。

 彼女は自分でもそれは嘘の恋であると知っている。
それはお金だけで繋がり、お金がなければ
叶えられない幻の世界であると……。

 若い燕を養ひ、お金を貢ぐ、
彼の希望を叶え、贅沢な暮らしをさせる。
それは相手の喜ぶことが自分の喜びとなるからであり、
今までの夫との生活では感じられない快感であった。

 題名の紙の月は、偽物の月のこと。
あるいは紙はお金という意味もあるのかもしれない。
偽物の恋であると分かっていても、
そこに希望や夢を見いだすことしかできない彼女に憐れみを感じる。
 ただ彼女にとっては、それでもその瞬間、
その刹那の喜びに身を浸すこと、
それが自分が生きているという実感を与えてくれた。

 今の時代は誰でも罪人になってしまう危うさがある。
誰でも持っている心の弱さ、心の中に住む悪魔によって、
日常は犯罪者になるリスクにあふれている。

 最初は200万の横領、でも心の中では
すぐに返せば問題はないと思っている。
しかし、それがばれずにうまくいけば、
次々に金額が膨らみ、気づけば絶対に返すことができない金額になっている。

 宮沢りえは良かった。
ロボットのように、無表情で生きている主婦から、
横領をし、若い男との不倫にふけっていくことによって、
生き生きと活力が溢れる姿へと変身して行く変化は見事である。

 彼女との対照的な存在が小林聡美の演じた行員で、
銀行のお局さん的存在である。
あくまでも冷静でクールに生きている。
平凡な日常を淡々と生きる、それが自分の生き方だと思っている。

 りえの生き方を根底ではうらやましいと思っているが
自分の生き方とはそぐわないとも思っている。

 梨花が横領し不倫に走る前の姿が彼女である。
もし、梨花が何もしなければ彼女のような人生を
生きて行かなければならならなかった。
果たしてそれが幸せだったのかは難しい問題である。

 行員役のの大島優子、私は一番この映画で光っていると思った。
現代的で割り切った考え方、上司との不倫も
田舎へ帰って公務員との結婚で見事に精算し、唯一の勝ち組となる。
そんな役を見事に演じていた。

 ラストシーンは原作とは違うようだが、
彼女のしたたかさ、強さが感じられ私は良かったと思う。
もちろん、彼女のしたことは犯罪であり、だめなことだけど。
 

 

上に戻る