足ることを知る

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 高校一年の時の国語の教科書に、森鴎外の「高瀬舟」がありました。細かい筋は忘れてしまいましたが、この小説のテーマは、『安楽死』と『足ることを知る』であったと思います。今のように物質的には豊かになった日本で、幸せを感じるには、この『足ることを知る』心が絶対に必要です。物質的な欲望はどこまで行っても際限がない。どこかで、もういいという限界を付けなければきりがありません。ある程度の物質的な豊かさで満足し、精神的な豊かさを求めていく。そんな人生を私はこれから歩んで行きたいと思っています。

 人が幸せを感じるのは相対的なものです。人と比べて自分がどうかと判断します。その時は大体、人より劣っていたり、足りないものを数えて自分が不幸であると確認している気がします。でも、その逆に恵まれているものを考えるべきではないでしょうか?私の好きな言葉に「靴がないとてしょげていた 両足もがれたその人に 通りで出会う 以前には。」があります。

 靴が買えない貧しさより、自分の五体満足を感謝する、こういうポジティブな考え方が好きです。皆さんは、自分の片目が1億円で売れるとしたら、売りますか?そう考えると自分の身体には何億という財産があるわけです。これを感謝しないわけには行きません。

 太陽の子の中に、桐道さんという不思議な人間が出てくる。彼の生き方は、「足ることを知る」という言葉の実践そのものです。「人間の暮らしに必要なもんと、そうでないものとの区別がつかなんだ。それがわからん人間は、わやになるね。沖縄の人はえらいね。そこらがちゃんとしとるさかい、人間の中でも上等が多い」このことは、沖縄の人だけでなく、昔の日本人や、貧しい国の人々は今でも持っている。現在の日本人がなくした、大切な何かである。これは、いろいろな言葉に置き換えらます。例えば、必要なものとは、人のやさしさ、必要でないものとは、いさかいや不信です。また、物質的な豊かさと精神的な豊かさに置き換えることもできます。もっと端的な言葉で言えば、「足ることを知る」です。