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アニマル・セラピーについて
イルカセラピー
2008年に開催したアニマル・セラピー講演会のレジュメをそのまま掲載します。
追加書き込み中
アニマル・セラピー講演会レジュメ
フリースクール英明塾 川合雅久
1.イルカセラピーに関して
アニマル・セラピーのひとつであるイルカ・セラピーに関しての簡単な説明
イルカ・セラピーはjまだ約20数年の歴史しかありません。
1995年以降、世界各地でイルカ療法(DAT、ドルフィン・アシステッド・セラピー)が研究されるようになりました。イルカ・セラピーには、飼育されたイルカによるものと野生のイルカによるものとがあります。
A.飼育されたイルカの場合
飼育されているイルカの多くが、人が触るために人間のバクテリアが皮膚で炎症を起こさないために、薬を飲ませたり注射を打ったりしていると聞いています。
欧米では、イルカを飼育したりイルカのショーをやったりすることをしないような動きがあり、イルカの自由を尊重する傾向にあります。日本では逆にイルカを捕獲し、イルカ・セラピーを利潤追求の道具にしているかも知れません。多くのイルカを調教し、国内はもとより世界各地に運んでいます。ビジネス化の危惧にもなります。飼育されたイルカの多く(寿命は30年〜40年)が狭い水槽の中に閉じこめられるというストレスから、3ヶ月で5割が死んでしまうというデータもあるようです。また、数年でぼろぼろになったイルカをそのまま捨ててしまうこともあるようです。(飼育されている場合は自分でエサを獲れない。高知の例)
また、飼育されているイルカの場合、トレーナーのホィッスルのみでエサにつられて動くようになるため、本来のエコ・ロケーションができなくなっているという説もあります。イルカ自体にその能力がなくなっているのではないかということも言われています。
B.野生のイルカの場合
オーストラリアやニュージーランドでは、20mとか40m以内に近づくことを禁止しています。アメリカでも、イルカを追いかけることは禁止されています。野生動物全般に言われることですが、エサをやること(feeding)も禁じています。
人と動物が共生共存するための環境保護活動や野生動物の保護活動をしっかりと行っているからです。
日本でも野生のイルカと泳げる場所がありますが、たいていは荒い海に小さな漁船に乗り込み、かなりの泳力を要して泳がねばなりません。船酔いという難しい難題もあります。または、ダイビングのライセンスを取って行かなければなりません。
世界で最もフレンドリーに野生のイルカと泳げる場所を探して、フロリダのパナマシティを見つけました。
フリースクール英明塾としては、フロリダにあった団体HDI (Human Dolphin Institute)の代表であり、ヨーロッパで著名な認知心理学者アトラス博士のバイオフィリアの考え方に共鳴し、フロリダ・パナマシティで約10年間、野生のイルカと泳ぐセラピーに関わってきました。
その詳しい話しはまた後ほどします。
2.哲学的バイオフィリアとネクロフィリア
通常ネクロフィリアは死体愛好家を指すが、ここでは哲学的な意味で表す。
A.ネクロフィリアとは
ネクロフィラスな人間は、死を愛好する性向のある人。生きていないすべてのもの、死体、腐敗、排泄物、汚物に魅せられる人
ネクロフィリアの傾向の人はケチで規律が好きで権力が好きである。その感情は本質的に感傷的である。クラシック音楽に涙する一方で人殺しを命じることに無感動な人。ナチスの将官やマフィアなど、映画の登場人物として出てくるタイプが該当する。
ネクロフィリアの傾向の人は法と秩序の冷淡な信奉者である
ネクロフィラスの人は極端になると、殺す人を愛し、殺される人を蔑視する。
常に子どもの病気、失敗、将来に対する暗い見通しに関心をもつ母親もそうである。よい変化に反応せず、子どもの喜びに無反応、彼女は表面上子どもを傷つけることはないが、徐々に子どもの喜びと成長期に育つ信頼感を絞め殺し、ついに自分自身のネクロフィリラスな性向を感染させる。
純粋なネクロフィリアは狂気である。
すべて死に向かっていく。気に入らないものはつぶさないと気がすまない。現在でいえば核戦争にむかっている。権力を身につけると死に向かう。死を呼び込む狂気。
B.バイオフィリアとは
バイオフィラスな性向は生を保持し、死と闘うという傾向。合一と統合的な生長(異なる反対の存在と結合し、組織的に生長しようとする=性的結合による新しい存在の創造)、生産的性向、停滞するより組み立てようとする。
バイオフィラスな人はつねに驚異に目を開き、古い物に確証を見出しそれに安住するよりは、何か新しい物を発見しようとする。確からしさよりは冒険に満ちた生き方をしたいと考える。機械的というより機能的、部分より全体を、総和より構造をみる。
バイオフィラスな意識は生と喜びにひきつけられることが動機となっている。その道徳的努力は自己の生を愛する面を強化することにある。
バイオフィラスの純粋なものは聖者である。
バイオフィラスな傾向の発達に役立つ社会的条件
1)品位のある生活の基本的な物質条件が脅かされないという保障
2)誰ひとりとして他人の目的を果たす手段となりえないという保障
3)人はそれぞれ積極的に社会の責任ある一員となる可能性をもつという自由。個人の創造的な自己活動のことで、これが特に重要。
3.イルカが人に与える影響
学術的にはまだこれからの分野といわざるを得ませんが、研究は少しずつ進んでいます。昨年の2006年1月に、イギリス・レスター大学の研究者らがイギリスの専門誌に発表したものが真新しい成果といえます。これは、「イルカ・セラピーによる中軽度の鬱病患者の治療に有効」というもので、ホンジュラスにある海洋科学研究所で実施しました。
30名の鬱病患者を半分に分け、15名をイルカ無しで泳ぎ、15名をイルカと一緒に泳ぎ、毎日2週間にわたり治療を続けた結果、前者は海水で泳ぐことにより症状の軽減が認められ、後者のイルカと泳いだ15名に関しては前者に増してかなり高い効果を得た。参加者は4週間前から抗うつ剤などの服用をやめ、実験中も服用を認めないという形で実施した。
イルカによるエコロケーションが、人に与える影響はまだよく分かっていないが、ケーススタディは多数あります。
フリースクール英明塾が不登校生や人間関係が不得手な若者、軽度発達障害の若者、引きこもりの青少年などを日本で初めて実施し、良い成果を上げている。
脳内物質の話し
A.ドーパミンとセロトニンに関して
ドーパミン
快感を増幅する神経伝達物質
脊椎近くにある腹側被蓋野 A-10(エー・テン)と呼ばれる という原始的神経核からはじまって、高度な人間らしさを司る前頭葉まで達している神経路があり、快感神経系と呼ばれています。
この快感神経系のスイッチを入れるのがドーパミン。ドーパミンは、A-10神経系で作られます。
快楽神経系が興奮すると、ヒトは快感を感じ、身体の動きが活発になり、ユーフォリア(多幸感。ハイな感じ)を得ます。ドーパミンを過剰に消費するようになると、幻覚や幻聴、妄想などが生じるようになり精神分裂病によく似た症状が出てきます。
ドーパミンは覚醒剤ととてもよく似た構造を持つので、覚醒剤を使用するとドーパミンが放出された時と同じような「ハイな感じ」を得ることになります。覚醒剤依存がやがて精神分裂病によく似た症状を来すのも、ドーパミンの過剰消費と同じ原理です。
ドーパミンを抑制するのがGABA(ギャバ)神経と呼ばれる神経系で、ドーパミンを細胞内に取りこむことでドーパミンの過剰消費を防ぎます。
が、このGABA神経による抑制機構が快楽神経系の末端(前頭葉)では欠けているため、ドーパミンが前頭葉でえんえんと過剰に消費されることがあります。また、GABA神経には脳内麻薬様物質(オピオイド)を放出する神経細胞がつながっていて、麻薬様物質の放出を受けると、GABA神経の抑制作用が弱められてしまいます。
セロトニン
落ち着きと安定感をもたらす神経伝達物質
脳幹の縫線核から網様体の、比較的せまい範囲にあるのがセロトニン作動性神経系です。せまい部位にありますが、他の神経系と連携しているので、広い範囲に重要な影響を及ぼしています。
セロトニンは他の神経系に抑止的に働くことで、過剰な興奮や衝動・抑うつ感を軽減します。セロトニンが不足すると、鬱状態になったり、暴力的になったりします。
幼児期に安全な環境になかった動物はセロトニンの分泌能力が低く、セロトニン濃度の低下が見られやすいといわれています。また、ストレス環境に長期間いた個体はセロトニンが枯渇に近い状態になっているので、興奮や衝動・抑うつ感を抑制することが難しくなると言われており、殺人・殺人未遂・自殺未遂を起こした成人や子どもは、セロトニンの濃度が低いことが確認されています。逆にセロトニンの過剰は、てんかんをもたらすと言われています。
B.ノルアドレナリンについて
ノルアドレナリン
意欲と生き残るために必須の神経伝達物質
脳幹の青斑核からはじまって、大脳辺縁系、視床下部、小脳などに広く分布している神経系が、アドレナリン作動性神経系と呼ばれています。アドレナリン作動性神経系とA-10神経系は相互に連絡しあうことが知られていて、片方の興奮が他方に伝わるという関係になっています。
ヒトは恐怖・驚愕の体験に遭遇すると青斑核からノルアドレナリンを分泌し、闘争か逃避かの態勢に入り、ストレス体験を終息させるための行動に入ります。長期間回避不能のストレスにさらされた動物は、やがて無痛覚の症状に至り、ストレスを回避する行動を止めてしまいます。この無痛覚の状態は脳内麻薬様物質(オピオイド)の作用によるものと考えられています。オピオイドの拮抗物質であるナロキソンが分泌されると、無痛覚の症状は打ち消されることになります。
長期間回避不能のストレスにさらされた場合、動物実験ではノルアドレナリンが減少します。ノルアドレナリンの使用が合成を上回るようです。そしてこうした体験をもつ個体は、体験を持たない個体が反応しない刺激に対してもノルアドレナリン濃度を減少させます。
ノルアドレナリン濃度の減少が繰り返された場合、脳内のノルアドレナリン受容体の感受性が上昇して、ささいな刺激に対しても過敏に攻撃・逃避反応をするようになります。
また、幼少期に愛情剥奪(母親からの隔離)などを受けたサルに少量の麻薬様物質を投与すると、ノルアドレナリン濃度は普通に育てられたサルより上昇し、過敏で攻撃的な状態になります。
PTSDのベトナム帰還兵は、尿中のノルアドレナリン濃度が慢性的に高いことが知られています。アドレナリン作動神経系が慢性的に興奮し、現在にいたるまで戦闘態勢のままであることが示されています。
C.アルファー波とβエンドルフィンについて
アルファ波(α波)
周波数8〜12ヘルツ
何かに集中した状態にあるときに現れる波形。心身をリラックスさせた状態でなおかつアルファ波がみられることもあり(深い瞑想、趣味の活動、くつろぎ)、脳がこの状態にあると自己の持てる能力を最大限に発揮可能といわれています。
我々の身体のコンディションは自律神経(交感神経と副交感神経の2種類)が支配しています。リラックス時には副交感神経が優勢的に支配し、反対にストレスがかかって興奮状態にある場合は、交感神経が優勢的になるのです。従って、(1)副交感神経を刺激すれば⇒(2)緊張を解いてリラックス状態になるので⇒(3)アルファ波を誘発出来る可能性が高くなる、と考えられるわけです。
脳内麻薬様物質(オピオイド)
最期にもたらされる残酷な救い
脳内麻薬様物質(オピオイド)は交感神経系の興奮によって、GABA神経系から分泌されるエンケファリン、β-エンドルフィンなどを指します。オピオイドは阿片などの麻薬に極めて近い構造をもちます。
オピオイドの大量分泌により、精神活動の麻痺や感情鈍麻といった状態に入ります。これは、闘争も回避もできない深刻なストレスにさらされた生物に、「最期の救い」をもたらします。精神活動の麻痺や感情鈍麻によって、完全な降伏と受身の態勢をとり、現実感のなさによって、生物は「静かに捕食者の餌食となる」のです。
長期間反復的に回避不能のストレスにさらされた個体は、脳内オピオイド受容体の感受性が上昇します。これは阿片などの麻薬を反復投与された個体に見られるものと同じ、生理的な反応です。そしてこのような個体にストレス刺激や麻薬の反復投与を急に中断したり、オピオイドの拮抗物質であるナロキソンやクロニジンを投与すると、同じような退薬症状(禁断症状)を呈します。そのため、オピオイド受容体の感受性が上昇した個体は、強烈なストレス刺激……自分で自分の命を危険に晒したり、自分の身体や心を痛めつける行為……なくしては生きていけなくなります。
オピオイドの過剰放出は、大脳辺縁系の扁桃体、海馬などにダメージを与えることで知られています。扁桃体に損傷を受けた個体は、「恐ろしいもの」「いやなもの」に直面しても、避けようとしなくなります。
マラソン中にオピオイドが分泌されることはわりと有名で、マラソンによってオピオイドが分泌された状態のことを「ランナーズ・ハイ」と呼びます。オピオイド濃度の上昇は、他にも手術、接食障害者の嘔吐などで確認されていて、また、リストカット、車での暴走等の自傷行為によってもオピオイドは上昇するそうです。
オピオイドの大量分泌は離人症的な症状をもたらします。現実感の喪失、自己と外界を隔てる透明な壁のある感じ、自分のことを遠くで自分が観察している感じ、自分の手足の消失する感じなどです。
A 不登校生・中退生のデータ及び変化
不登校生は小学生・中学生を会わせて約13万人。不登校をなくすためにいろいろ試みられているが、現在も横ばい状態が続いている。最近は引きこもりと軽度発達障害の子どもたちの不登校に焦点が当てられている。高校・大学・大学院生の不登校も数10万人いるのではないかといわれている。
B 状況分析
不登校・中退・ニート(約85万人そのうち大学出身者が43万人といわれている)
現代のストレス社会に身を置いて、二極分化が続き、勝ち組負け組のように優劣をつけ始め、格差社会の構造が露呈したからとも考えられる。
世界規模で増えている。欧米では若年層のホームレス問題は大きな社会問題と捉えられている。韓国・中国・シンガポールなどでも引きこもりやニートが増加し、日本に助けを求めており、オーストラリアやニュージーランドでも若者の不労問題で揺れている。
C 社会的引きこもり
引きこもりの平均年齢は、26.7歳。約130万人といわれている。ニートと複合・重複している場合も認められているが、単純に約200万人といわれている。
その多くの若者達が意欲をなくし生きる活力が失せている。
D ADHD・LD・アスペルガーなどの軽度発達障害の対応
約6%だが、欧米並みに14%〜17%に増えるかもしれない。教育・心理・福祉などの分野ではかなり重要視されているが、対応できる状態になるまでかなりの時間を要すると思われる。
E 展望
現在、急激に増加している人間関係が不得手な若者、意欲や活力を失っている若者、自殺願望者の増大に、本腰に力を入れなくてはならない時期に来ている。その意味でも、セラピーやヒーリングの重要性に目を向けざるを得ないだろう。
特に人間と共存している動物に目を向けることによって、回復していくことをもっと啓蒙して行かなくてはならないと考えている。
F 目標や夢の実現に向けて
絶望の中で夢をなくしてしまった若者にも、パンドラの箱の億に見え隠れする光、希望を少しでも持ってもらうためにも、どんな小さなところからでも夢や目標に向かって、一歩一歩歩み出すきっかけ作りをすれば、必ず回復すると信じている。
3.意欲・生きる活力の喪失と回復の方法のひとつ
希薄な人間関係のこの現代社会に置いて、モラル・マナー・エチケットを遵守し、自然治癒力を創出するためにも、以下なる体験が自信を取り戻すきっかけ作りに役に立てるようにしていきたい。
A.アニマル・セラピー(イルカ・セラピー)・ネイチャー・セラピー・アドベンチャーセラピーなどの自然体験活動の効用
対象
不登校生、いじめ、引きこもり、閉じこもり、人間関係が不得手な子ども達、生き甲斐や生きる活力を得たい子ども達、軽度発達障害や精神障害などの子ども達は、ケア付きで参加。基本的には様々な自然体験活動とイルカ・セラピーを通して、生き甲斐・生きる活力・自然体・愛などを感じ、意欲を持てるように支援する。
ドキドキしたことありますか? ワクワク心を躍らしたことありますか?
五感が働かなくなると、何も感じなくなります。喜怒哀楽さえもなくしてしまい、ロボットのような無表情になります。生きている活力・意欲を喪失しています。
成果
参加者の90%以上が回復の兆しがあり、よい成果を得ている。そのケーススタディは、もうひとつの「学校」案内(21世紀教育研究所)、自分の学校(イカロス出版)、「大人が変われば子どもも変わる」(日本財団)などにも掲載されている。
4.フロリダのドルフィン・セラピー(15分・ビデオを含む)
アキの紹介
アキの話し
5.パプアニューギニアなどで自然保護環境教育・国際交流
6.まとめ
今年度より、イルカのセラピスト養成セミナーを開始する予定。
(現在、豪州にある国際認定のイルカ・エコセラピストの養成機関と日程を調整中)
今まで足かけ10年イルカ・セラピーに関わってきていちばんに気付いたことは、イルカが人を癒す効果は理解したが、もっと大切なことは、セラピーに携わる関係者と場所が大きな効果を得ていると考えられること。アニマル・セラピー全体にも言えることだが、利益主義や利潤を求めてのセラピーと呼ばれるものが世の中に充ち満ちているが、そこに携わる例えばホース・セラピーの高橋先生や先ほど話してくれたアキやいつもお手伝いしてもらっているミエらの存在、もちろん自分も含めたいのですが、参加した人たちによって、その「人と場所」の存在が、よりセラピーとしての効果を増幅させるのだと思います。
人を癒す動物やこの大自然が、そういった信頼できる「人」に支えられてはじめてセラピーとして成り立つと言っても過言ではないでしょう。
・ 今年度及び次年度からのツアー予定などに関してもご紹介します。
・ また講演会後に懇親会も考えておりますので、ご自由にご参加下さい。
不明な点がありましたらお気軽に問い合わせ下さい。
※連絡先:フリースクール英明塾
特定非営利活動法人「統合教育研究センター」(NPO JENOC)
〒132-0032 東京都江戸川区西小松川町15−6
Tel & Fax 03−5678−6599
E-mail: dolphin@jenoc.org URL http://eimei-jp.net
参考(wikipedia及び他の文献などより)
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「現代社会の人間像をとらえるために」
1 ネクロフィリアについて
ネクロフィリア(necrophila)とバイオフィリア(biophilia)
E・フロム『悪について』1964年鈴木重吉訳 紀伊国屋書店より。
ネクロフィリアは死を愛好する。あるいは死体を愛好する。
ネクロフィラスな人間は、死を愛好する性向のある人。生きていないすべてのもの、死体、腐敗、排泄物、汚物に魅せられる人。
現代日本の写真週刊誌に死体の写真が載ることがある。これは死体愛好の傾向である。より刺激の強いものを求めていくと、行き着くところは死体である。
一方セックスはバイオフィリア(生を愛好する)する傾向にあるが、そのテーマで、写真週刊誌では新奇な世界を切り開けなくなっている。それで写真週刊誌はネクロフィリアの傾向になっている。
ネクロフィリアの傾向の人はケチで規律が好きで権力が好きである。その感情は本質的に感傷的である。クラシック音楽に涙する一方で人殺しを命じることに無感動な人。ナチスの将官やマフィアなど、映画の登場人物として出てくるタイプが該当する。
現在の日本映画は、泣かせる映画がはやっている。これも、感傷的になっている時代の傾向を表している。
ネクロフィリアの傾向の人は法と秩序の冷淡な信奉者である。
力に魅惑される。力とは人間を死体に変貌させる能力(ヴェイユ)。力には殺人への物理的な力が根底にある。人を殺す力が一番深いところにある。
ネクロフィラスの人は極端になると、殺す人を愛し、殺される人を蔑視する。
常に子どもの病気、失敗、将来に対する暗い見通しに関心をもつ母親もそうである。よい変化に反応せず、子どもの喜びに無反応、彼女は表面上子どもを傷つけることはないが、徐々に子どもの喜びと成長期に育つ信頼感を絞め殺し、ついに自分自身のネクロフィリラスな性向を感染させる。
2 バイオフィリア
バイオフィラスな性向は生を保持し、死と闘うという傾向。合一と統合的な生長(異なる反対の存在と結合し、組織的に生長しようとする=性的結合による新しい存在の創造)、生産的性向、停滞するより組み立てようとする。
バイオフィラスな人はつねに驚異に目を開き、古い物に確証を見出しそれに安住するよりは、何か新しい物を発見しようとする。確からしさよりは冒険に満ちた生き方をしたいと考える。機械的というより機能的、部分より全体を、総和より構造をみる。
バイオフィラスな意識は生と喜びにひきつけられることが動機となっている。その道徳的努力は自己の生を愛する面を強化することにある。
純粋なネクロフィリアは狂気である。
すべて死に向かっていく。気に入らないものはつぶさないと気がすまない。現在でいえば核戦争にむかっている。権力を身につけると死に向かう。死を呼び込む狂気。
バイオフィラスの純粋なものは聖者である。映画で観たマザーテレサはバイオフィリアの申し子のような人である。周囲の人々が寄付金集めの組織や広報を作ろうとするときに、マザーテレサは気が進まない。そればかりか、孤独になって倒れそうだという。組織として動くとネクロフィラス的な傾向が出るのを恐れているのだ。ここはゲッセマネで孤独に陥ったイエスを感じさせる。マザーテレサは気が進まないが押し切られていく。孤独で倒れそうになりながら、ネクロフィラス的な傾向に周囲がなることに抵抗している。
3 フロイトの考え方
これまでの考え方は、フロイトの死の本能と生の本能(エロス)とどう関係するのか。
「もし生命が無生物から発生したということが本当なら、ある本能がそのとき発生し始めたに違いなく、その目的はもう一度生を放棄して無生物状態を再現することだった。」「すべての生物は必然的に内的な原因によって死滅する。」(反復・回帰)=快感原則の彼岸
死の本能は分離と非統合の機能をもつ。エロスは統合と合一の機能。エロスの成し遂げようとすることを死の本能は本へ引き戻そうとする。有機体はその両者の戦いの場である。
4 E・フロムの考え方
我々の生に接する態度がしだいに機械的になりつつある。物を製造する過程で、人は数量になっていく。マニュアル化していく。それは官僚化を招く。
機械装置を、生命を持つ物よりも愛する。
物の法則にしたがう。知性化、定量化、抽象化、官僚化、具象化など。現代産業社会の特徴としての力学の原理。
生に冷淡で、死に惹きつけられていく。
だが、人間は物ではない。物になれば破滅する。そうなってしまうまえに自暴自棄になってあらゆる生を殺したいと願望する。
ネクロフィラスを助長する社会的条件とはオートマン(自動人形)の存在を助長すること。オーガニゼーション(組織人間)、オートマトン・マン(自動機械人間)、ホモ・コンシューメン(消費的人間)、ホモ・メカニクス(機械人間)の増殖。
経済的・心理的にみて乏しい状態。人間のエネルギーが攻撃に対する自己の生命の防御、あるいは飢餓の防止に用いられるかぎり、バイオフィラスは妨げれら、ネクロフィラスが助長される。
豊かな状態とは不正をなくすこと。不正とは人間が自己目的のためでなく、他人の目的を達するために利用されるような状態。
5 バイオフィラスな傾向の発達に役立つ社会的条件
1)品位のある生活の基本的な物質条件が脅かされないという保障
2)誰ひとりとして他人の目的を果たす手段となりえないという保障
3)人はそれぞれ積極的に社会の責任ある一員となる可能性をもつという自由。個人の創造的な自己活動のことで、これが特に重要。
先進資本主義国が後進国から搾取することで現在の世界は成り立っている。この不正の構造を承認している。世界の不正な仕組み、搾取や阻害の仕組みをしっかりと認識する必要がある。
人間の善悪の問題をしっかり認識していく。そして創造的な一歩をふみだす。
以上、
ドーパミン
快感を増幅する神経伝達物質
脊椎近くにある腹側被蓋野 A-10(エー・テン)と呼ばれる という原始的神経核からはじまって、高度な人間らしさを司る前頭葉まで達している神経路があり、快感神経系と呼ばれています。
この快感神経系のスイッチを入れるのがドーパミン。ドーパミンは、A-10神経系で作られます。
快楽神経系が興奮すると、ヒトは快感を感じ、身体の動きが活発になり、ユーフォリア(多幸感。ハイな感じ)を得ます。ドーパミンを過剰に消費するようになると、幻覚や幻聴、妄想などが生じるようになり精神分裂病によく似た症状が出てきます。
ドーパミンは覚醒剤ととてもよく似た構造を持つので、覚醒剤を使用するとドーパミンが放出された時と同じような「ハイな感じ」を得ることになります。覚醒剤依存がやがて精神分裂病によく似た症状を来すのも、ドーパミンの過剰消費と同じ原理です。
ドーパミンを抑制するのがGABA(ギャバ)神経と呼ばれる神経系で、ドーパミンを細胞内に取りこむことでドーパミンの過剰消費を防ぎます。
が、このGABA神経による抑制機構が快楽神経系の末端(前頭葉)では欠けているため、ドーパミンが前頭葉でえんえんと過剰に消費されることがあります。また、GABA神経には脳内麻薬様物質(オピオイド)を放出する神経細胞がつながっていて、麻薬様物質の放出を受けると、GABA神経の抑制作用が弱められてしまいます。
ノルアドレナリン
意欲と生き残るために必須の神経伝達物質
脳幹の青斑核からはじまって、大脳辺縁系、視床下部、小脳などに広く分布している神経系が、アドレナリン作動性神経系と呼ばれています。アドレナリン作動性神経系とA-10神経系は相互に連絡しあうことが知られていて、片方の興奮が他方に伝わるという関係になっています。
ヒトは恐怖・驚愕の体験に遭遇すると青斑核からノルアドレナリンを分泌し、闘争か逃避かの態勢に入り、ストレス体験を終息させるための行動に入ります。長期間回避不能のストレスにさらされた動物は、やがて無痛覚の症状に至り、ストレスを回避する行動を止めてしまいます。この無痛覚の状態は脳内麻薬様物質(オピオイド)の作用によるものと考えられています。オピオイドの拮抗物質であるナロキソンが分泌されると、無痛覚の症状は打ち消されれることになります。
長期間回避不能のストレスにさらされた場合、動物実験ではノルアドレナリンが減少します。ノルアドレナリンの使用が合成を上回るようです。そしてこうした体験をもつ個体は、体験を持たない個体が反応しない刺激に対してもノルアドレナリン濃度を減少させます。
ノルアドレナリン濃度の減少が繰り返された場合、脳内のノルアドレナリン受容体の感受性が上昇して、ささいな刺激に対しても過敏に攻撃・逃避反応をするようになります。
また、幼少期に愛情剥奪(母親からの隔離)などを受けたサルに少量の麻薬様物質を投与すると、ノルアドレナリン濃度は普通に育てられたサルより上昇し、過敏で攻撃的な状態になります。
PTSDのベトナム帰還兵は、尿中のノルアドレナリン濃度が慢性的に高いことが知られています。アドレナリン作動神経系が慢性的に興奮し、現在にいたるまで戦闘態勢のままであることが示されています。
セロトニン
落ち着きと安定感をもたらす神経伝達物質
脳幹の縫線核から網様体の、比較的せまい範囲にあるのがセロトニン作動性神経系です。せまい部位にありますが、他の神経系と連携しているので、広い範囲に重要な影響を及ぼしています。
セロトニンは他の神経系に抑止的に働くことで、過剰な興奮や衝動・抑うつ感を軽減します。セロトニンが不足すると、鬱状態になったり、暴力的になったりします。
幼児期に安全な環境になかった動物はセロトニンの分泌能力が低く、セロトニン濃度の低下が見られやすいといわれています。また、ストレス環境に長期間いた個体はセロトニンが枯渇に近い状態になっているので、興奮や衝動・抑うつ感を抑制することが難しくなると言われており、殺人・殺人未遂・自殺未遂を起こした成人や子どもは、セロトニンの濃度が低いことが確認されています。
逆にセロトニンの過剰は、てんかんをもたらすと言われています。
脳内麻薬様物質(オピオイド)
最期にもたらされる残酷な救い
脳内麻薬様物質(オピオイド)は交感神経系の興奮によって、GABA神経系から分泌されるエンケファリン、β-エンドルフィンなどを指します。オピオイドは阿片などの麻薬に極めて近い構造をもちます。
オピオイドの大量分泌により、精神活動の麻痺や感情鈍麻といった状態に入ります。これは、闘争も回避もできない深刻なストレスにさらされた生物に、「最期の救い」をもたらします。精神活動の麻痺や感情鈍麻によって、完全な降伏と受身の態勢をとり、現実感のなさによって、生物は「静かに捕食者の餌食となる」のです。
長期間反復的に回避不能のストレスにさらされた個体は、脳内オピオイド受容体の感受性が上昇します。これは阿片などの麻薬を反復投与された個体に見られるものと同じ、生理的な反応です。そしてこのような個体にストレス刺激や麻薬の反復投与を急に中断したり、オピオイドの拮抗物質であるナロキソンやクロニジンを投与すると、同じような退薬症状(禁断症状)を呈します。そのため、オピオイド受容体の感受性が上昇した個体は、強烈なストレス刺激……自分で自分の命を危険に晒したり、自分の身体や心を痛めつける行為……なくしては生きていけなくなります。
オピオイドの過剰放出は、大脳辺縁系の扁桃体、海馬などにダメージを与えることで知られています。扁桃体に損傷を受けた個体は、「恐ろしいもの」「いやなもの」に直面しても、避けようとしなくなります。
マラソン中にオピオイドが分泌されることはわりと有名で、マラソンによってオピオイドが分泌された状態のことを「ランナーズ・ハイ」と呼びます。オピオイド濃度の上昇は、他にも手術、接食障害者の嘔吐などで確認されていて、また、リストカット、車での暴走等の自傷行為によってもオピオイドは上昇するそうです。
オピオイドの大量分泌は離人症的な症状をもたらします。現実感の喪失、自己と外界を隔てる透明な壁のある感じ、自分のことを遠くで自分が観察している感じ、自分の手足の消失する感じなどです。
デルタ波(δ波)
周波数0.5〜4ヘルツ
深い睡眠状態にあるときに現われる波形。
シータ波(θ波)
周波数4〜8ヘルツ
浅い睡眠状態にあるときに現れる波形。何かに集中した状態で見られるという説もありますが、特長に欠ける低周波だけに、電気的なノイズに紛れることも多く関連性の判断は困難。
アルファ波(α波)
周波数8〜12ヘルツ
何かに集中した状態にあるときに現れる波形。心身をリラックスさせた状態でなおかつアルファ波がみられることもあり(深い瞑想、趣味の活動、くつろぎ)、脳がこの状態にあると自己の持てる能力を最大限に発揮可能といわれています。
ベータ波(β波)
周波数12〜40ヘルツ
目覚めていて、五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)が働き、意識が緊張した状態のときに現れる波形。
どんなときにアルファー波が出るのか
目が醒めた状態で通常に活動しているとき、我々の脳はたいていベータ波を出しています。しかしながら、好きなことに打ちこむなど、心身がリラックスしながらも理想的な集中状態を作り出しているときの脳波はベータ波ではなく、アルファ波という別の波形となります。
アルファ波が注目されているのは、この脳波が出ている状態だとベータ波を出している場合よりも効率よく心身が活動しているらしいことがわかってきたためです。作業に集中でき成果があがる/リラックスしているのでストレスがたまらない/免疫力が高まる、などさまざまな利点があると言われています。もし自分で意図してアルファ波を出せるとしたら、我々はもっと健康で充実した生活を送れるのではないでしょうか。
しかしながら、アルファ波は意識的して出せるものではないのが厄介なところです。意図的にアルファ波を出すには、心身の緊張を解きなおかつ意識は集中しているような状態(修行をつんだ僧侶が座禅を組んで瞑想に入っている状況など)を自ら作り出す必要がありますが、残念ながら一般的にはやさしいことではありませんね。
では意識的が無理なら、無意識にアルファ波が出ている状況を真似てみるのはどうでしょう?
こんなとき、アルファ波が出やすくなっています(もっとも、過労で体調を崩した人はアルファ波が通常より余分に出るという報告があり、疲れた脳が能動的にリラックスしようとしてアルファ波を出す場合もあるのではないかとも言われています。)
アルファ波については、まだまだ研究段階で詳しいことはわかっていませんが、少なくとも我々がガチガチの緊張状態にある場合に出るものではなさそうです。アルファ波を「誘発」するには、私達自身をある種リラックスした状態に置くことが必要といえるでしょう。そこで最近では、アルファ波誘導のために、リラックス状態と関わりのある自律神経(副交感神経)に注目するようになってきています。
我々の身体のコンディションは自律神経(交感神経と副交感神経の2種類)が支配しています。リラックス時には副交感神経が優勢的に支配し、反対にストレスがかかって興奮状態にある場合は、交感神経が優勢的になるのです。従って、(1)副交感神経を刺激すれば⇒(2)緊張を解いてリラックス状態になるので⇒(3)アルファ波を誘発出来る可能性が高くなる、と考えられるわけです。