絵本通信30
vol.30(Jul.15th,2008)
 

幼い子どもの心に
 
 7月に入ったばかりというのに、早くも気温は30度を越え、猛暑の兆しが・・・さほど雨も降らないまま、梅雨をとばしてあっという間に夏に突入した感じです。なんだか蒸し暑くてだるくて、本を読む気にもなれない時期ですが、そんな時こそ今回紹介する絵本を読んでみて下さい。さりげないやさしさにあふれた楽しいお話で、爽やかな気分にしてくれますよ。
 
 

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 [1]   『くすのきだんちへおひっこし』(ひかりのくに)
 『くすのきだんちへおひっこし』(ひかりのくに)は、先日たまたま本屋さんで見つけた掘り出し物です。これまで全く知らなかった作品ですが、表紙いっぱいに描かれた、まっすぐにそびえ立つくすのきに吸い寄せられるように手に取りました。本の帯には、「知る人ぞ知る絵本が口コミで大人気!」とあり、どうやら幼稚園や保育園で広まっているみたい。子供達やお母さん方に好評ということは、なかなか侮れないのでは?と思い、ちょっとお子様向きかなあと思いつつ読んでみました。
 お話は1匹のかえるが野原にそびえる大きなくすのきを見つけるところから始まります。近づいてみると、その高さにびっくり!太い幹には小さな窓がずらっと並んでいて、10階建ての団地だったのです。かえるさんは、ちょうど表に出てきたもぐらの管理人さんもぐに、空室をみせてもらうことにしました。もぐの説明によると、1階は音楽家のきつねさん、2階3階はうさぎの看護士さん、5階6階はりすのレストランという具合に、それぞれ違った職業を持つ動物達が楽しく暮らしている様子。かえるさんは8階の空室を見せてもらいます。8階まで上がる階段は長くて疲れるし、上と下の階に住む動物の名前を知ったかえるさんは、この部屋に住むのはよそうと考えますが、帰り際に大怪我をして住人達に介抱してもらうことに・・・・・そしてみんなの優しさや温かさに触れたかえるさんは、ここに住むことに決めるのでした。
 
update:
2008/07/19

 [2]   『くすのきだんちは10かいだて』(ひかりのくに)
 実は『くすのきだんちへおひっこし』はシリーズの2作目で、1作目は『くすのきだんちは10かいだて』です。2作目から読んでしまった私は、あわてて1作目も読んだのですが、こちらは管理人のもぐの視点から、大好きなくすのきだんちの魅力が描かれています。最後にある見開き2ページにわたる、くすのきだんちが夕闇に包まれていくシーンはとても美しく、本当にこんな団地があったらなあと夢見てしまいました。きっとみなさんもくすのきだんちとその住人達のファンになりますよ。ぜひ2冊続けて読んで下さいね。
 さて、私がこの2冊を取り上げたのは内容もさることながら、巻末にある作者の言葉に感銘を受けたからです。作者の武鹿悦子さんは、くすのきだんちの素晴らしさをこう語っています。「住人の誰もがお互いを思いあって、いざとなればたちまち協力して事にあたります。みんな違う。でもだれひとり違うことを憎みません。違うことを認め合うから活かしあえるのです」「ここで暮らすことの幸せは、ひとと共に生きることの嬉しさを教えられることです。優しく温かいひとに接することで、自分もまた優しく温かくなれることの嬉しさです」
 この言葉を読んで、私はしみじみ今の世の中にはこういう温かな人間関係が減ってきているなあと思いました。最近の殺伐とした暗い事件を耳にするにつけ、核家族化し人間関係が希薄になり、自己中心的な人間が増えてきている現代社会のひずみのようなものを感じてしまいます。今を生きる若者達が抱える心の闇がどこから来るのかはわからないけれど、せめて幼い頃にくすのきだんちのような絵本に出会って、他人を尊重したり思いやる気持ちや、人と関わる幸せを学んでくれたらと思いました。
update:
2008/07/17

 [3]   ハッピーコラムC(神様の木の巻)
 和歌山城の一の橋から入ったすぐ右手に、巨大なくすのきがあります。樹齢450年というその木は、石垣の上から下を通る人々の頭上に覆いかぶさるように枝を張り、豊かな緑で私たちを癒してくれます。
 大きな木のそばに寄るとパワーをもらえるというので、私はひそかにその木を「神様の木」と名付けて、お散歩の途中にその下を通るときは、立ち止まってお願い事をしたり、日々の感謝を唱えたりしています。何百年も生きてきた巨大な木には、不思議な力が宿っているようで、静かに見守っていてくれる気がするから・・・
 『くすのきだんち』のくすのきって、こんな感じかなあなんて、今日も勝手な空想をふくらませながら、その下を歩く私です。
update:
2008/07/17



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