あれも古語、これも古語・・・

 古語辞典を使って大分弁の単語を探し初めるきっかけは、「よだきい」だった。
 古語辞典で偶然見つけた「弥猛(よだけ)し」という単語の意味が、大分弁の「よだきい」と全く同じだったのだ。これには驚いた。
 それ以来、大分弁と古語の関係が、何やら妖しく思えてきた。
 実際に調べてみると、驚くほど多くの古語が大分弁に生き残っている。
 今でこそ、九州の片隅でほそぼそと使われている言葉が、古くは都人にも使われていたのだ。
 「豊の国」の、言葉の林(豊語林)は、ますます奥深い。

 五十音順に紹介してみる。【】内が古語、その後に訳語を掲載した。

・あやす【零(あや)す】木の実などを落とす
・ありつく【有り付く・在り付く】住み着く。安住する。長くそこに住む。
・いぬる【往ぬる、去ぬる】去る、帰る
・うたちい【転(うたて)し】嫌だ。感心しない。情けない。嘆かわしい。
・おうこ(おうこう)【朸(おうご、おうこ)】刈り取った稲の束などを両側に突き刺して担ぐための棒。奥豊後では竹であることが多い。
・おじい【怖づ】恐れる。大分弁では動詞は「おぜる」として残るほか、形容詞としても残っている。標準語には「物怖じする」として残る。
・おつる【落つ】落ちる。
・おとご【乙子】末子
・おみいご【思ひ子】いとしく思う子、いとし子
・おらぶ【哭(おら)ぶ】大声で叫ぶ、泣き叫ぶ

・かじくるる【悴(かじ)ける】@寒さで凍えて手足が自由に動かなくなる。かじかむA生気を失う。しおれる。やつれる。
・かたぐ【担(かた)ぐ】背負う
・かつる【糅(かて)る】加える。仲間に入れる標準語に「かてて加えて」という表現がある
・がに【蟹】昔は「がに」と濁っていたらしい。
・かるう【担(かる)う】背負う
・ぎし【岸】古くは「ぎし」と濁っていたらしい。
・くど【竈(くど)】かまど。京都では今も「おくど」と言う。「おくど」が転じてか三重県では「奥土」「奥戸」と表記する。
・くびる【縊(くび)る】首を絞めて殺す。強く握る大分弁では「ひもなどで縛ること」をいう。
・くゆる【壊(く)ゆ、崩(く)ゆ】くずれる
・くろ【畔(くろ)】畔(あぜ)、田のくろ。
・こゆる【肥ゆ】太る。大分では「太る」は成長することを意味する。
・こさぐ【刮(こそ)ぐ】物の表面などを刃物などで削る。また、表面に付着したものを削り取る
・こそぐる【擽(こそぐ)る】くすぐる
・ごと、ごつ【如(ごと)】〜のように。
・こなす【熟(こな)す】ばかにする、けなす。大分弁では更に発展(?)して「いじめる」の意

・したみ【したみ】竹で編んだ底部が四角で上部が丸の籠。釣った魚を入れる魚籠(びく)
・すったり【すったり】さっぱり、まるきり
・ずつねえ【術(ずつ)なし】どうしようもない。苦しい。辛(つら)い。
・すつる【捨つ】捨てる
・すゆる【饐ゆ】食べ物などが腐って酸っぱくなること。小説など文章表現では「饐えたにおい」などと使われることがある
・せちい【せつい】せつない。辛い。苦しい。大分弁では専ら「嫌だ」の意
・せる【迫(せ)る】少しずつ上方・前方へ移動する。大分弁では「押す」の意

・たける【長ける、闌ける】大分では主に山菜や筍などが食用にするには成長しすぎた状態のことを言う。古語としては辞書に「盛りを過ぎる。末になる。季節が深まる」とある。
・つう【かさぶた】古くは「血」を「つ」と発音したことからの転ではないか。
・つぼ【坪(つぼ)、壷(つぼ)】庭。建物や垣根に囲まれた土地や庭
・とばしり【迸(とばし)る】飛び散る、ほとばしる古語では動詞だが、大分弁では名詞化し「飛沫」の意
・とぶ【飛(と)ぶ】早く走る
・とぼす【点(とぼ)す】火を点ける

・なえ【地震(ない、なえ)】地震。日本書紀武烈記に「ない」がある。また、日葡辞書(17世紀初))には「なえ」が記載されているという。
・なましい【生しい】生煮え、半生。太平記(新潮日本古典集成)に「なましき入道の首一つ」とのくだりがあり、「生々しい」との注釈がある。
・ねき【根際(ねき)】根元、傍ら
・ねぶる【舐(ね)ぶる】なめる。
・ねべえ【粘(ねば)い】粘り気が強い。よくねばる。粘っこい。
・のく【退(の)く】よける、後退する。
・のごう【拭(のご)ふ】手で拭いて取り去る、ぬぐう。
・のぶ【伸(の)ぶ、延(の)ぶ】背や髪が伸びる。催事の期日が延期される。

・はじし【歯肉(はじし)】はぐき。標準語には「太り肉(ふとりじし)」という言葉があるこれは「肉付きの良いこと」「太っていること」という意味。
・はたかる【開(はだか)る】両脚を開く。標準語では「立ちはだかる」として残っている。
・はわく【掃(ははき)】名詞が動詞化したもの。掃(は)く。
・ひこじる【ひこづらふ】強く引っ張る。大分弁では「引きずる」の意。
・ひだりい【ひだるし】空腹だ。
・ひぼ【紐】ひも。太平記には「鎧(よろい)の高紐(たかひぼ)と出てくる。古くは「ひも」ではなく「ひぼ」と発音されたらしい。
・ひる
【放(ひ)る】大小便をする。大分弁では、「まる」と同義だが、「まる」の方が多少上品な表現。「ひる」が放屁にも使うのに対して、「まる」は放屁には使わない。
・ふ【符(ふ)】運。めぐり合わせ。大分弁では「符が良かった」(運が良かった)と使われることが多い「符が良い」となると趣を異にして、「ざまをみろ」「良い気味だ」という意味が込められる。
・ふすぼる【燻(ふす)ぼる】くすぶる。煙でいぶされる。大分弁では「煤けている」という意味でも使われる。
・ぶち【鞭(ぶち)】むち。
・ほぐ、ほぐる【ほぐる】穴をあける。
・ぼうぜる【忘(ぼう)ずる】古語では「我を忘れる」の意あり。大分弁では「のぼせ上がる」。
・ほげる
【ほげる】穴があく。

・まる【放(ま)る】大小便をすること。標準語では名詞化して持ち運びできる便器「お虎子(まる)として生き残っている。

・よこし【横し】横。横ざま。
・よだきい【弥猛(よだけ)し】物憂い、億劫だ
・よんべ、ようべ【よんべ、よべ】昨夜、ゆうべ。

・らっしもねえ【臈次(らっし)】物事の順序、けじめ。「らっしもねえ」は「けじめがない」。