まっさいい!

 「鮮やかな青色」をしていることを、大分弁ではこういう。
 極く普通に使われている言葉ではあるが、標準語とよくよく比べてみると、微妙な差異がある。
 この「まっさいい」は形容詞だが、標準語で「まっさいい」に該当する言葉は「真っ青だ」で、こちらは形容動詞だ。標準語では「まっさおい」とは言わないのだ。
 まっけえも同様である。標準語では「真っ赤い」とは言わない。「真っ赤だ」となるので、「真っ青だ」と同様に形容動詞なのだ。
 「真っ黄色」も大分弁ではまっきねえと形容詞だが、標準語では形容動詞だ。ただ、「真っ黄色い」という人もいそうだ。多少の違和感があるけれど。
 形容詞と形容動詞、その区別には原則があるようで、実はあいまいだ。
 「真っ赤」や「真っ青」は形容動詞なのに対して、「真っ白」は「真っ白い」、「真っ黒」は「真っ黒い」と形容詞の活用をする。しかし、「真っ白だ」「真っ黒だ」という形容動詞として使われることもある。


 さて、ここでちょっと昔の国語の授業を思い出してもらいたい。
 形容詞の活用は「かろ・かっ・く・い・い・けれ」、懐かしいなあ。

   「美しい」という言葉で考えてみると
     ▽未然形・美しかろう▽連用形・美しかった、美しくなる▽終止形・美しい▽連体形・美しい時▽   仮定形・美しければ
   大分弁だと
     ▽美しかろう▽美しかった、美しゅうなる▽美しい▽美しい時▽美しから

 形容動詞の活用は「だろ・だっ・で・に・だ・な・なら」

   「静かだ」で考えてみると
     ▽未然形・静かだろう▽連用形・静かだった、静かである、静かになる▽終止形・静かだ
    ▽連体形・静かな時▽仮定形・静かならば
   大分弁なら
    ▽静かじゃろう▽静かじゃった▽静かじゃ▽静かな時▽静かなり


 同じように標準語なら形容動詞なのに、大分弁だと形容詞の活用をしてしまう言葉は、色を形容するものだけでなく、ほかにもある。

 「横着だ」は、大分弁では形容詞おうちゃきい
 ▽未然形・おうちゃきかろう▽連用形・おうちゃきゅうなる▽終止形・おうちゃきい▽連体形・おうちゃきい時▽仮定形・おうちゃきから

 「気の毒だ」は、きのどきい
 ▽未然形・きのどくかろう▽連用形・きのどきゅうなる▽終止形・きのどきい▽連体形・きのどきい時▽仮定形・きのどくから

 「賑やかだ」は、にぎやけえ
 ▽未然形・にぎやかかろう▽連用形・にぎやこうなる▽終止形・にぎやけえ▽連体形・にぎやけえ時▽仮定形・にぎやかから

 「まっすぐだ」は、まっすぎい
 ▽未然形・まっすぐかろう▽連用形・まっすぐうなる▽終止形・まっすぎい▽連用形・まっすぎい時▽仮定形・まっすぐから


 なお、余談ではあるが、大分弁には「鮮やかな緑色」を表現する言葉としてまっぴいがある。こちらは形容詞だが、標準語に該当する言葉が見当たらないので、比較のしようがない。語源については、かねていろいろと考えもし、人に聞いてもみたが、いまだ確たる答えを見いだせていない。「まっ」を強調の接頭辞とみるなら語幹部分が「ひ」と考えることができそうだ。翡翠(ひすい)とはカワセミのことで、雄が「翡」、雌が「翠」である。「まっぴい」は、とりわけ羽が美しい雄に由来するのではなかろうか。
                                          (2005年03月20日)
                                           (2016年01月19日改訂)