◇所縁の詩歌◇
*万葉集
【直入郡の山?】
・明日よりは吾は恋ひなむ名欲(なほり)山石(いは)ふみならし君が越えいなば(藤井連=巻十)
・命をしまさきくもがも名欲山石ふみならしまたまたも来む(同)
【久住】
・朽網(くたみ)山夕居るくもの薄れ往かば吾は恋ひなむ君が目を欲り(巻十一)
*現代短歌
【緒方】
<西南雑歌>=土屋文明(1890〜1990)
・直入より大野に春は深くして徳田川いづち問はむ人なく
・柴やまに川のいはほにうら若葉大野郡のふぢなみの花
・仏たち見むとにもあらず少年にて遊びたまひし君を思ひて
<徳田白楊を思ふ>=別府松原公園にて 土屋文明
・若き君が手術の創(きず)のくさるまで命生きつつ歌よみきとふ
・西日さす暑き納戸にくさくなりて病みつつ声に立ちし命か
・町の中にわづか松ある公園を命よろこびゆきし君はも
・相寄りて君をかなしみ橋わたるほのぼの清き三日月立てり
<雁が音>=徳田白楊(1911〜1933)
・夕飯を食べつつあれば雁が音のたまゆら聞こえ母の恋しき
・宵々に雁鳴きわたるこの頃のわがむらぎもの心寂(しず)けし
・この夕(ゆうべ)たまゆら鳴きし雁が音のいずらの方へ渡りゆきけむ
【竹田】
<魚住の滝>=田山花袋(1871〜1930)
・あこがれの竹田の街のうつくしきみどりの袖をけふ見つるかな
【久住】
<久住>=北原白秋(1885〜1942)
・草深野ここに仰げば国の秀や久住は高し雲を生みつつ
<久住種畜場にやどりて>=田山花袋
・久住山のぼりたくこそなりにけりたなびく雲に心ひかれて
・へだてなきなさけによりてふるさとの夢をも見ずて一夜ねむりし
・おくやまのあかつきかたのほととぎすここちよしとや絶えず啼くらん
<久住を詠める歌八首並につけたりの歌三首>=与謝野鉄幹(1873〜1935)
・大いなる師に近づくと似たるかな久住の山に引かるる心
・暮れそめて秋の久住の牧のいろ近き草より紫となる
・とぼしさを常に知る身は秀でたる山にもものを問ふ心あり
・雲たれて久住も阿蘇も牧草の夕に青きすそのみを引く
・山の牧久住と阿蘇の雪を見て楽しからまし牛を追ふ人
・人を見て久住の原の秋風に下の空より牛のぼりきぬ
・人の身のよづるに難き峰多しくもと牛との遊ぶ牧原
・山風がひとところをば銀にする久住の原の唐黍(とうきび)の畑
・芹川の湯の宿に来て灯のもとに秋を覚ゆる山の夕立
・秋の日の豊前豊後を行きめぐり多く思はず山の外には
・別るともなほわが夢に香るべし白仁(しらに)の里のもくせいの花
<久住を詠める歌八首並につけたりの歌四首>=与謝野晶子(1878〜1942)
・九州のよろづの中の高嶺なる久住の裾野うら枯れにけり
・雲半ば久住の峰に集まればおほかたの空明るくなれぬ
・たをやめのかぐろき髪も数ならず豊後の牛の遊べるみれば
・久住よし四百の齢(よはひ)ある楢も門守とする牛馬の家
・豊国の久住の嶽を絶え絶えに巻きつつ光る秋の夕ぎり
・久住山阿蘇のさかひをする谷の外は襞(ひだ)さへなき裾野かな
・久住嶺の髪をかしこみ岩根組み裾野へ据ゑぬみあしの台(うてな)
・ここに見て久住の山のとこしへにならはんとする友どちの愛
・湯の原の雨山に満ちその雨の錆の如くに浮ぶ霧かな
・山川のならひにやがて水曲り天の川ほど目に見ゆる
・芹川の夜の流れより上り来て蛾の坐りたる湯の宿の卓
・蛾となりてやがてはここへ飛びてこん芹川に添ふちさきともし火
*現代俳句
【久住】
<九重高原三句>=山口誓子(1901〜1994)
・高原に帯ぬぎぬらし日焼けなん
・高原の裸身青垣山よ見よ
・夏山の発破掛けをるは日田ならし
<久住高原二句>=高浜年尾(1900〜1979)
・放牧の花野をよぎり山の温泉
・糸滝のいくつもかかり紅葉渓
【長湯】
・まだ奥に家がある牛をひいてゆく=種田山頭火(1882〜1940)
・ホイトウとよばれる村のしぐれかな=種田山頭火
【竹田】
・雨だれの音も年とった=種田山頭火
・夜をこめて水が流れる秋の宿=種田山頭火
・酔ひざめの水をさがすや竹田の宿へ=種田山頭火
・水飲んで尿(いばり)して去る=種田山頭火
【祖母】
・祖母山も傾山も夕立かな=山口青邨(1892〜1988)
・日が落ちかかるその山は祖母山=種田山頭火
・山の一つ家も今日の旗立てて=種田山頭火
【緒方】
・筧(かけい)あふるる水に住む人なし=種田山頭火
・犬が尾をふる柿が熟れてゐる=種田山頭火
*現代詩
<久住の歌>=伊東静雄(1906〜1953)
国いのる熱き血潮は
をとめ 汝が為にもぞうつ
汝見むと来し
この山踏みならね
汝を見で
雪匂ふ汝が赤ら頬見で
いかで過ぎめや
あしびきの阿蘇を消しつつ
雲しきる久住の山
面影のこぞの道とり
はせ下る 妹が村指し
息づくと立ちて休らふ
しばしさへ心をどりの
力こめ 石を投ぐれば
目にうつり遠きしじまの
谷の木の梢にみだれ
せつなくも上げし吹雪や
*漢詩
<久住高原>=徳富蘇峰(1863〜1957)
豊嶽肥豊如画屏(豊嶽は肥豊に画屏の如し)
残花委地有余馨(残花は地に委するも余馨有り)
回頭天外一望遠(頭を回らせば天外一望遠く)
春入高原草漸青(春は高原に入りて草漸く青し)