ケルンは鉄道の要衝でタリスやICEが走っているので交通が便利である。中央駅を出ると、目の前に巨大な大聖堂がそびえ立っている。あまりの感動に、言葉がでない。着工から632年という歳月を経て、1880年10月15日、人々の大歓声の中ケルン大聖堂は完成した。それはゴシック建築の最高傑作であった。文豪ゲーテはストラスブールの大聖堂を例にとり、ゴシック建築こそドイツ固有の芸術であるとして、ケルン大聖堂を賞賛した。16世紀半ばに工事は中断され300年近く未完成のままだった大聖堂の建設が再開されたのは、統一国家建設の象徴にする為だった。建設資金を援助したのはプロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世である。ドイツの人々は常に多くの小国家が林立する分裂状態に苦しんだ。かつて神聖ローマ帝国のドイツがヨーロッパに君臨した時代にドイツ人が構想した巨大な大聖堂。まさに国家統一のシンボルであった。しかし、詩人ハイネはケルン大聖堂が政治に利用される事に嘆き、複雑な憤りを感じていた。工事が中断していた大聖堂で出会った、聖母マリア像の信じがたいほどの優しい微笑みに、ハイネは荒涼とした心を癒されたことがあった。ドイツ統一とフランス革命という二つの巨大な時代の渦の中、人々の様々な思いを乗せてケルン大聖堂は完成したのである。誰かが言った。祈るその姿が尊いのだ・・・と。さらに誰かが言った。右手と左手を合わせて合掌する事は人間のみが許された行為だ・・・と。今日も祈りをささげたら、また旅に出よう。