ヨーロッパ海外旅行
TOPページへ
フロム鉄道

オスロ~ミュルダル

フロム鉄道 (ミュルダル~フロム)

フロム~グドヴァンゲン

グドヴァンゲン~ヴォス

ヴォス~ベルゲン

早朝のオスロ駅。私は青いリュックを片手に一人たたずんでいた。6時35分発のミュルダル行きの列車に乗るためである。目的はフロム鉄道。世界中の旅行者が憧れる有名な鉄道である。そのために今回、初めて北欧を訪れた。過去にヨーロッパの旅は何度もしたが、北欧だけは一度も来たことがない。今回ばかりは少し緊張する。はたして、どんな旅になるのだろうか。日本を出発する前にノルウェーのことを調べたが、分かったことと言えば、通貨がノルウェー・クローネと言うことと、今年からハイノール計画がスタートすること、そして今年はなぜかベルゲンのツアーが人気があることくらい。ちなみにハイノール計画とは、水素燃料と水素自動車の展開と開発と促進を目指したノルウェーの国家プロジェクトで、スタバンゲル市 - オスロ市間を結ぶハイウエーの各拠点に水素ステーションを設置し、全長580kmを水素自動車で走行可能にするもので、日本のマツダも参加し、夏から水素ロータリーエンジン車マツダ『RX-8ハイドロジェンRE』を順次納入する予定。こんなに自然を大切にする国があるなんて、日本にいたら想像も出来ない。列車は定刻通りオスロ駅を出発した。ミュルダル到着までは5時間以上。昨日のフライトと日本での過酷な仕事の疲れのため、いつの間にか眠ってしまった。考えて見れば、こんなにゆっくりと出来るのはヨーロッパを旅している時くらいである。結局、ミュルダルまではほとんど眠っていた。

オスロを出発した列車は11時41分にミュルダルに到着した。天気は快晴だが、少し肌寒い。温度計を見ると、真夏なのに摂氏18度。しかし、空気が澄んでいてとてもおいしい。おかげでようやく目が覚めた。ミュルダルの駅の周りには素晴らしい山の景色が広がっていて、これから乗るフロム鉄道が楽しみになって来た。駅のホームは到着した客でにぎわっていたが、フロム行きの列車はまだ来ていない。どうやら列車が遅れているらしい。やがて客が駅のお店で飲み食いを始めた。事前に調べたところ、景色を楽しむためには進行方向左側の座席を確保する必要があるのだが、乗車位置がどこだかわからないので、下に番号が書いてある辺りで待った。やがて、世界の旅行者が絶賛するフロム鉄道の列車が、美しいダーググリーンのその勇姿を見せた。これが有名なフロム鉄道Class.El17型電気機関車。その迫力に思わず息を呑んだ。2229号機なので、確か2003年ごろ投入された、軸配置 Bo-Boの車体長16,300mm、重量64.0t、最高出力3,000kW、最高速度150km/hの比較的新しい車両である。この機関車は5種類のブレーキを装備し、それぞれ独自に操作できるらしい。私の予想通り、下に数字のある場所が乗車位置だった。他の乗客があわててこちらに移動してくるが、悠々と左側の景色の良い座席を確保できた。列車の中は木目調の綺麗で落ち着いた雰囲気である。出発すると、すぐにトンネルに入り、急勾配を下って行った。フロム鉄道は1944年に開通し、全長20.2kmでトンネルが20ヵ所もあり、トンネルの総延長距離は6kmで、そのうち18ヵ所は手掘りである。ミュルダル駅の標高は746m、フロム駅の標高は0mなので、計算すると1分あたり約15メートルずつ標高が下がっていくことになる。これだけの急勾配を、スイスの登山鉄道のようなラックレールを使用せずに、機関車の性能だけでその機動力を補おうと言うのだから、すごい発想である。出発してからすぐに、巨大な滝が目の前に現れた。有名なショースの滝である。この滝は93mの大瀑布で離れていても水しぶきが飛んでくる。こんな所に落ちたら大変なことになると思っていたら、突然音楽が流れ出し、青いドレスを身につけたうら若き乙女が美しいソプラノの歌声を響かせて、踊りながら滝に近づいて行くではないか。危ない、それ以上滝に近づいちゃいけない!そんな思いとは裏腹に、ドレスの乙女は滝のそばで踊り続ける。その姿はまるで伝説に登場する美しい山の妖精フルドレのようだ。更にもう一人現れて踊り出した。大瀑布と美しい妖精。その不思議な光景に、本当に妖精のように見える。列車が出発しても妖精は踊り続けていた。ちなみに、この人たちは近くの演劇学校の女学生がアルバイトで出演しているらしい。フロム鉄道の車窓は噂通り素晴らしい。雄大な渓谷とあちこちに見られる滝や美しい小川。途中、渓流沿いの小道をジョギングしている好青年がさわやかな笑顔で手を振ってくれた。日本では見られない光景だ。何か日本人が忘れた大切なものを、北欧の人たちは持っているような気がする。美しい車窓と、心の豊かな人々。まさに世界中が賞賛する鉄道である。フロム駅に到着すると、駅の向こうには巨大な客船が泊まっていた。

列車を降りると、駅の向こうに巨大な客船の姿が見える。山の中に突然船が現れて、何か不思議な光景だ。フロム駅の前はフィヨルドの船着場になっていて、船がたくさん泊まっている。しかし、どの船に乗るのか全く分からない。まさか目の前の巨大な客船ではないだろうし、隣の帆船でもないだろう。こんなときは、旅の鉄則で、他の客に付いて行くのが一番。他の客の後ろを適当に付いて行くと、みんな小さなフェリーに乗っていく。フェリーにはグドヴァンゲンと書いてあった。巨大な客船のせいで小さく見えてしまうが、中に入ると決して小さなフェリーではなく、中はかなり広い。フェリーは乗るとすぐに出航した。デッキには椅子がたくさん置いてあり、適当に座った。青い空とフィヨルドの美しい雄大な景色。水は青くきらきら輝き、カモメがどこまでも付いてくる。途中には小さなかわいらしい家がいくつもあり、まるでおとぎの世界のようだ。こんな美しい光景を見るの初めてだ。本当に北欧に来て良かったと思う。日本では過酷な仕事で毎日苦しいだけだが、世界には本当にいい国があるんだと思える。フィヨルドのクルーズがこれほど素晴らしいとは、日本を出発する前は、正直予想していなかった。この美しい自然を守り続け、次の世代に残そうとしている北欧の人達は本当にすごいと思う。ちなみに、フロム港はソグネフィヨルドから枝分かれしたアウランフィヨルドにあり、フロムからグドヴァンゲンまではフェリーで約2時間。フィヨルドとはノルウェー語で細長い入り江の意味で、ソグネフィヨルドはノルウェーの4大フィヨルドの一つである。フェリーの中には食堂もあり、ケーキを食べながらの観光もいいかもしれない。2時間の船旅で、写真撮影をしたり、カモメにパンくずをあげたりして、優雅なひと時を過ごすことができた。

グドヴァンゲンに着くと、すでにヴォス行きのバスが3台停まっていた。バスは乗るとすぐに出発した。フロム鉄道とフェリーの素晴らしい景色で、写真撮影に夢中になりすぎて少し疲れたので、バスでゆっくりしていようと思っていたのだが、バスはすぐに急坂を登り始め、眼下に素晴らしい山の景色が見え出した。更に目の前に滝が現れ、そのすぐそばをバスは横切っていった。このルートはどこまで景色を楽しめるのだろう。またカメラを用意した。バスは細い急坂をやっと登っているようで、止まったら終わりのような気がした。これはバス路線と言うより、完全に峠越えではないのか。谷の下にある村がどんどん小さくなり、山がどこまでも続いている。本当にカメラを離すひまがない。やがて峠を上りきると、道が広くなり、目の前に青く輝く湖が見えた。フロム鉄道とフェリーとバスのどこまでも続く最高の景色。このルートを最初に考えた人は本当にすごいと思う。今回の旅は充分過ぎるくらい美しく雄大な大自然を満喫できた。


ヴォスの駅に着いたのは4時50分ごろ。ところが、駅のアナウンスによると列車が遅れているらしい。しばらく待っていると、ベルゲン行きの列車が来たが、この列車は実は4時30分に来るはずの列車だった。本来なら17時53分の列車に乗る予定だったのに、列車が遅れたために、本来乗れないはずの列車に乗れたのである。おかげでベルゲンの観光に、時間的にかなり余裕が出る。事前に調べたところ、景色を楽しむためには進行方向右側の座席を確保する必要があるのだが、さすがに、もうカメラを手に取る気力はなかった。適当に左側の空いてる座席に座り、ベルゲンまで休むつもりだった。ところが、出発してすぐに、右側に美しいフィヨルドの景色が広がっているではないか。本当にこのルートはどこまで・・・、どこまで絶景が続くのだろう。疲れていたが、結局カメラを準備してしまった。今回の旅は、最後まで美しい景色は終わることはなかった。