2007年夏 拍手SS
「テニスの王子様」 乾貞治
「今晩、泊めてくれるかな?」
乾クンの言葉に瞬きを忘れた。
じゃあね、と別れの言葉を口にしようとした交差点。
同性の友達が軽く「泊めて」と強請るのと同じような軽い口調だった。
「私・・・独り暮らしなんだけど。」
「知ってる。」
「ついでに言うと・・・これでも女よ?」
「それも10年も前から知ってる。」
「あなた、シラフな顔して相当酔ってるんでしょう?」
「多少はね。でも、事の判断は出来てるよ。」
「酔っ払いの戯言に付き合ってられないわ。じゃあね、おやすみ。」
混乱しながらも無理矢理に冷静ぶって背を向けた。
だが後ろから強く肘をつかまれ体が持っていかれてしまう。
「乾クン!?」
「酔ったフリでもしないと誘えない、哀れな男の気持ちを察してくれてもいいだろう?」
あのね、あなた。
長く友達のフリして付き合ってきた私の恋心に気付きもしなかったくせに。
今更、自分だけが切羽詰ってるみたいなコト言わないでよ。
「乾の・・・馬鹿」
「テニスの王子様」 跡部景吾
「今晩、お前ンところに泊まる。」
跡部クンの言葉に瞬きを忘れた。
じゃあね、と別れの言葉を口にしようとした交差点。
相変わらず人の都合もお構いなしの俺様口調は健在だ。
「うちは宿泊施設じゃないわよ?1LDKのおんボロマンションなの。」
「知ってる。」
「ついでに言うと・・・あなたが遊んでるような女と私は違うわ。」
「それも10年も前から知ってるぜ。」
「とうとう私まで誘うようになったとは驚きね。酔ってるの?」
「見ての通りシラフだ。」
「馬鹿馬鹿しい、とにかく駄目よ。じゃあね、おやすみ。」
これは女の意地だと気持ちを奮い立たせて背を向けた。
だが後ろから強く肘をつかまれ体が持っていかれてしまう。
「跡部クン!?」
「待てど暮らせどお前は俺に落ちてこない。どれだけ焦らせば気がすむんだ?」
あのね、あなた。
ずっと傍で数多の女と遊んでるのを見せつけられてきた私の想いなんて知らないくせに。
今更、自分だけが切羽詰ってるみたいなコト言わないでよ。
「跡部の・・・馬鹿」
「遥かなる時空の中で」 橘友雅
「今宵は神子殿の傍で夜を明かそうかと思ってね。」
友雅さんは艶やかな笑顔を浮かべて御簾のうちに入ってきた。
唖然とする私はパニックに陥りながら、布団代わりの衣を胸元に引き寄せる。
こんな夜更けに忍んできたわりには慣れきった堂々とした登場だ。
「まさか友雅さん、他のお仕事が入った頼久さんの代わりに警備ですか?」
「ああ、だから頼久の姿が見えなかったのか。助かったよ。」
「違うんだ。じゃあ・・ここのお屋敷に恋人が居るとか?」
「よく分かったね。」
「なら、私のとこなんかで寛いでないで目的地に行ってください!」
「だから此処に居るんだよ、私は。」
友雅さんの言葉は何処までが本気で何処までが嘘なのか、幼い私になど分かるはずもない。
子供っぽいとは知りながらもツンと顔を背けて、手でバイバイの仕草をする。
その手が突然に引っ張られ、柔らかく温かな胸に抱きしめられた。
「友雅さん!?」
「此処に・・・長い年月をかけて、やっと見つけた私の情熱がいるだろう?」
なんてこと!
自分は子供なのだからと諦めた恋心をこの大人は知っていたのだろうか。
慌てて胸を押し返した私の手に友雅さんが苦笑いを浮かべる。
「神子殿、私の本気から逃げるのは至難の業だと思うがね。」
そんなこと突然に言われても・・・友雅さんの馬鹿!
「金色のコルダ」 土浦梁太郎
「俺んとこ泊まるか?」
土浦クンの言葉に瞬きを忘れた。
じゃあね、と別れの言葉を口にしようとした交差点。
海外で久しぶりに再会した私たちの間には友情しかない。
「な、なに言ってるのよ。ちゃんとホテルの部屋ぐらい取ってるって。」
「知ってる。」
「ついでに言うと・・・私だって一応は女なんだし。」
「それぐらいは10年も前から知ってる。」
「ひょっとして海外生活が長くなってきて頭がイタリア人になったの?」
「生憎だがイタリアには半年しかいなかった。」
「と、とにかく今夜はホテルに泊まるって。その・・明日また街を案内して?それじゃあ、おやすみ。」
何を突然に言い出したのかと勝手に走り出す鼓動を抑えながら背を向けた。
だが後ろから強く肘をつかまれ体が持っていかれてしまう。
「土浦クン!?」
「何故、お前を日本から呼んだのか分からないのか?二度と帰さないためだろ。」
あのね、あなた。
日本にだって年に何回かは帰国して会っていたでしょう?
その時には友達以外の顔なんて見せなかったくせに。
親には二日後に帰るって伝えてるのよ。
「土浦クンの・・・馬鹿」
「ときメモGS2nd Kiss」 佐伯瑛
「お前さ、俺んち泊まれば?」
佐伯クンの言葉に瞬きを忘れた。
じゃあね、と別れの言葉を口にしようとした交差点。
半分は他所を向きながらサラリと言った佐伯クン。
「いや、だって。それはマズイでしょ。」
「そうか?」
「ついでに言うと・・・もう私たち別れてるし。」
「それは10年も前のコトだな。」
「佐伯クン、アルコールに弱かったっけ?」
「お前よりは弱いだろうけどフツーだろ。」
「なんか言ってることが変だよ。早く帰って寝て。じゃあね、おやすみ。」
同窓会でもなければ会うことのなかった人なのだと気持を振り切るように背を向けた。
だが後ろから強く肘をつかまれ体が持っていかれてしまう。
「佐伯クン!?」
「もうさ十年たてば時効だろ?もう一回、頑張ってみるからさ。お前に傍に居て欲しい。」
あのね、あなた。
夢は夢でしかなかったと荒れていく佐伯クンをどんな思いで私が見ていたか知ってる?
私がどんな思いで佐伯クンを愛してきたかなんて知らないくせに。
今更そんな希望に燃える瞳で私を見たって遅いんだからね。
「佐伯クンの・・・馬鹿」
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