2007年初秋 拍手SS
「テニスの王子様」 跡部景吾
「おい、週末は空いてるか?」
「なに?」
「帰国したら大事な話がある。」
とうとう来たかと思う。
震えそうになる手で受話器を強く握った。
今は何も言うまいと、明るい声で約束して電話を切った。
新聞には結婚を前提とした企業同士の合併話が活字となっている。
名前は出ていなくても、それが私と約束した相手であることは分かってる。
いつかは来る日だとは覚悟していたのに、現実を前に平静でいられるほどデキタ女ではなかったみたい。
心を吐きだしてしまいたいほどの苦しさに、のたうちまわり痛みに耐える。
会えば、それが最後になる。
知りつつ、彼が似合っていると言った白のワンピースを着て出かけた。
「話なんだが、」
「わかってる。大丈夫よ、もう会わない。」
「お前…」
「覚悟してたし、平気。だから気にしないで?」
「嘘をつくな。」
「なにも嘘なんて・・・」
景吾の手が伸びてくる。
駄目。その手に触れたら、私は私で居られなくなる。
咄嗟に逃げた体はやすやすと彼に捕まえられてしまった。
「こんなに細くなって、そんな眼をして・・・俺を騙せると思ってるのか?」
「嘘なんかついてない!放してっ」
「よく聞け。俺がお前を離すわけないだろ?一生だ。この、嘘つき。」
嘘よ。それが本当なら…私は幸せで泣いてしまうわ。
「遥かなる時空の中で3」 武藏棒弁慶編
「僕は大丈夫ですから、先に行ってください。」
「本当か?」
「ええ、僕にはとっておきの策があるんです。
ある程度の罠も仕掛けてきましたし、ここで待ち伏せして仕上げをしますよ。」
だから、大丈夫。すぐに追いつきますよと笑顔を浮かべれば、単純な九郎が頷いてくれた。
僕が足止めすれば、今の状況よりは九郎たちが逃げ伸びる可能性が高くなるはず。
もちろん、君も。
何があろうと君は死なせられない。死なせたくない。
そのためならば、この命も惜しくないと思うんです。
早くと急かせば、何か物言いだけな君が僕を見つめていました。
強い意志と消えない優しさを宿した瞳、僕はとても好きでしたよ。
心の中だけで想いを告げ、なんでもないような顔をして皆に背を向ける。
さぁ、やれるだけのことはしましょう。
僕に残された力すべてを使って止めてみせる。
もう僕は振り向かなかった。
敵の足音が近づいてくるのを感じ、大きく息を吐く。
その時だ。
「嘘つき」
背中で愛しい人の声を聞いた。
ああ、どうしよう。これじゃ僕は死ねないじゃないですか。
「ときメモGS」 葉月珪
「珪クンの浮気者、人でなし、女ったらし!もう・・・大嫌いよ!別れるっ」
言いたい放題いって、俺の胸を叩いてくる。
その小さな拳で叩かれても痛くはないけど、言葉が痛い。
いつものように抱きしめようとしても、するりと逃げてしまう体に困惑する。
「違う。あれは向こうが勝手に、」
「勝手に抱きついきて、勝手にキスしたって言うの?」
「キスって・・・頬にだから挨拶みたいなものだろ。」
「キスはキスだもん!」
スタジオになんか連れてくるんじゃなかった。
外国人モデルの過剰な挨拶を目の前にして、すっかり機嫌を損ねてしまった恋人。
「なら俺はどうすればいい?」
途方にくれて訊ねれば、瞳いっぱいに涙をためて彼女が言った。
「私だけの珪クンでいて?
抱きしめるのも、キスするのも、全部、全部・・・私だけっ」
とうとう大きな瞳から涙がこぼれた。
この愛しい人に、どう告げれば想いが通じるんだろう。
「この腕も、唇も、すべて・・・お前だけのもの。」
「嘘・・・だもん。」
「嘘じゃない。この心も全て、お前だけのものだ。」
「珪クンの嘘つき」
呟いた恋人が自分から胸に飛び込んできた。
嘘などつけるほど俺が器用じゃないこと、お前が一番知ってるだろ?
「金色のコルダ」 月森蓮
「梅干しとか海苔はいいの?」
「いや…別にいい。」
「そう?外国に行くと日本食が恋しくなるらしいよ?」
明るく言って段ボールの中を覗き込む君。
ここ最近は君の背中ばかりを見ている気がする。
まともに俺の顔を見るのを避けているだろう?
近くにいても物足りなく思えるのは、君の瞳に俺を映していないから。
後ろから近づき、不意打ちで君の背中を抱きしめた。
「月森クン、な・・なに?」
「寂しいのなら寂しいと言えばいいのに。」
「そ・・そんなことないよ。そりゃ少しは寂しいけど、一年で帰ってくるんだし。」
「でも今までのようには会えない。」
その言葉に君が黙り込む。
君が俺のために我慢しているのを知りながら、気持ちを確かめたくなるのは我儘だろうか。
「一年は長い。それでも?」
「月森クンの意地悪・・」
「君が嘘をつくからだ。」
だって・・・と言ったきり、君は俯いたまま何も言わなくなってしまった。
ゴメン。本当は俺が寂しいんだ。
留学よりも君を選んでしまいたくなるほどに愛しく思っている。
だから、君を泣かせてしまった。
「テニスの王子様」 忍足侑士
「好きやん。大好き。なぁ、俺のことも好き?」
「私は嫌い。それ食べたら帰ってね。」
「そんなぁ。今日は泊まる気マンマンで来たんやもん。泊めてって。」
「お断り。」
「何もしません。おとなしく寝ます。」
「あなたの何もしないほど信用できないものはありません。」
憎らしい口ばかりきく君のうなじに、後ろから口づけて抱きしめた。
途端に飛んでくる裏拳に突かれながらも、スッポン顔負けのしつこさで抱きしめる。
さぁ、ウンと頷いて。
許してくれないんやったら、体中にキスマークをつけようか。
ああでもない、こうでもないと文句は言っても、結局は俺の腕の中。
結果は同じなんやから、無駄な抵抗はやめればええのに。
ベッドの中、やっばり素直じゃない君は俺に背を向けて寝る。
そんな背中を後ろから抱きしめて、鼻先を髪に埋めて寝るのがお気に入りの俺。
ウトウトと浅い眠りの中、君が身じろぎするのを感じた。
ふんわりと髪を撫でられる感触。
それが気持ちよくて目が開かない。
「侑士」
はいはい。珍しいな、名前を呼んでくれるの。
「好きよ・・・」
知ってる。
だけど君は嘘つきやから、俺の前では逆のことばかり言うんよな。
夢うつつの眠りの中。
俺は大好きな君を抱きしめて深い眠りに落ちていった。
今回のテーマは「嘘つき」でした。
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