2008年New Year拍手SS
「金色のコルダ」 土浦梁太郎
「おい、見てみろよ。星が綺麗だぜ。」
二年参りから帰り道、土浦クンが空を見上げながら言った。
さっきまで火原先輩や天羽ちゃんたちもいて賑やかだったから、今がとても静かに感じる。
土浦クンの声が新年の夜に静かに響き、私は誘われるままに空を見上げた。
「不思議だね。新年の夜って、何もかもが澄んでる気がする。」
「そうだな。昨日と何が違うんだろうと思うが、やっぱり何かが違うな。」
冷え込んだ空に瞬く青白い星は、煌いて美しい。
ひとつ、ふたつと星を数えていたら、視界を照らしていた外灯の明かりが暗くなった。
あれっと思った時には、夜空を背にした土浦クンが視界にイッパイ。
続いて感じた吐息に慌てて目を閉じた。
「ま・・・そういうことだから。」
ひんやりとした感触を私の唇に残し、ガシガシと自分の頭をかきながら余所を向く土浦クン。
なにがそういうことなのかと怒りたい気持ちが半分。
もう半分は嬉しさとトキメキで、鼓動がおさまらない。
言葉を使わずの実力行使、それはそれで彼らしい。
「ひょっとして、怒ってるか?」
「知らない。」
恥ずかしくて逃げ出せば、土浦クンが焦った声で私の名前を呼んだ。
去年と今年、その間に私たちの関係も大きく変わった。
それはそれでシアワセなコト。
「テニスの王子様」 観月はじめ
「あなたの料理はね『男の料理』って言うんですよ。
なんですか、この大雑把な作りの雑炊。僕は病人なんですよ?」
観月が恋人と長続きしない理由が良く分かる。
私は溜息と共にお椀とレンゲをお盆に戻してコートを手にした。
「新年早々に熱が出たって人を呼びつけといて、作った雑炊にケチつけてんじゃないわよ。
嫌なら食べるな。私は帰るからね、お邪魔さま。」
背を向ければ、つんと上着の端っこを引っ張られる。
ベッドから伸びている男にしては白い手が私のシャツをしっかり掴んでいた。
「病人を置いて帰るんですか?」
「他の誰かに来て貰えば?ほら、この際だから前のカノジョとか。」
「もう電話番号を消しました。」
「早いわね。だったら友情に厚い赤澤とか呼べば?」
「赤澤は年末からオーストラリアの海です。」
「じゃあ・・・」
頭を巡らせていたら、突然にシャツを掴んでいた観月の手が私の腕を引っ張った。
横でガシャンと音がして、サイドテーブルに置いた雑炊のお盆が肘に当たったのを感じる。
だけどそれどころじゃない。
観月に引っ張られた体は、熱い胸に抱きしめられていた。
「み、観月!?」
「僕に残ってるのは、あなただけなんです。
不本意かもしれませんが、ここは観念して僕のものになりなさい。」
「それより雑炊のお盆が・・・」
抱きしめられたままで雑炊を気にすれば、観月が困ったような笑顔を浮かべた。
「あなたのそういうところが昔から好きみたいなんですけどね。
それはそれで変な趣味だと、今ごろ気付きましたよ。」
失礼ね。
私なんか、もっと前から自分が変な趣味してるって気付いてるわよ。
「テニスの王子様」 忍足侑士
「なぁ、さっきから何してんの?」
「何秒息が止められるか挑戦してるとこ。」
熱心に箱根駅伝を見ているかと思えば、タイムと一緒にそんなしょうもないことに挑戦中やったか。
俺はテレビの前に陣取ってる小さな背中を横目に帰省の準備中。
今日の夕方に出て、実家で二日ほどを過ごして帰ってくる予定だ。
元旦の夕方から共に過ごした恋人が、今朝から何となく俺を見ないことに気づいてる。
そういう意地っ張りなところを俺がどんだけ好きか知ってるんやろうか。
「お土産、何がええ?」
「白い恋人。」
「関西に売ってないやろ、それ。」
「じゃあ、赤福。」
「いや・・・それも色々と事情があって難しいやろ。」
「もういらない。」
拗ねたような口ぶりに思わず笑ってしまった。
なぁ、そんなに寂しがられてたら帰りたくなくなるやろ?
そっとテレビを向いたままの肩を後ろから抱きしめて、うなじに唇を押しつける。
「行くの、やめようか?それとも一緒にくるか?」
耳元で囁けば、体を捻った恋人が胸に縋りついてきた。
「なんでもいい、侑士と一緒にいたい。」
・・・やられた。
新年早々にノックアウトされてしまった俺や。
「ときメモGS」 氷室零一
例年のごとく彼女と共に初詣に出かけ、おみくじを引いた。
結果は彼女が大吉で、私は大凶。
思わず眉を寄せた私の手元を彼女が背伸びして覗き込む。
「うわっ、大凶なんて本当にあるんですね。
こういう新年は凶とか大凶は抜いておくべきだと思いませんか?
お正月だけでも全てを大吉にしておけば、皆が幸せな気持ちで新しい年を迎えられるのに。」
我が事のように憤慨している彼女を見てると可笑しくなってきた。
「それでは、くじにならないだろう?」
「そうだけど・・・」
まだ納得いかない顔の彼女と共に、おみくじを結んでいる列に並んだ。
私たちの番にきて、突然に彼女が「そうだ」と顔を綻ばせる。
先生、貸してと私の手からおみくじを取ると、自分のものと重ねて折り始めた。
「二枚一緒にして、どうするんだ?」
「こうすれば大吉と大凶が合わさって、中間の『吉』ぐらいになりそうでしょう?」
楽しそうに笑うと呆気にとられている私を無視して、一番高い場所におみくじを結んでしまった。
屋台に向かって上機嫌で歩きだす彼女に腕をひかれながら振り向けば、
他より分厚くて大きな結び目が目立つ私たちのおみくじ。
「先生、どうかしました?」
「ん?いや・・・今年も良い年になりそうだと思っただけだ。」
「もちろんです!」
制服を着ていた頃と変わらない君の明るい声が同意してくれた。
この一年も君がいれば、私はそれで幸せだ。
「遥かなる時空の中で3」 源九郎義経
『くりすます』とやらに振り回された年の暮れを経て、新しい年を迎えた。
今度は何を要求されるのかと内心では戦々恐々だったが、何も言われずに年を越した。
もっとも俺は色々と忙しく、ろくに顔を合わせていないというのが本当のところだ。
会いたくないと言えば嘘になる。
だからといって気軽に会いにいける立場でもなくなっていた。
新年の華やかな宴。
どうにも不慣れな雰囲気に溜息を零せば、弁慶が袖を引いてくれた。
俺が苦手なのを知っているからこそ、少しばかり息抜きをさせてくれるようだ。
『池のほとりに老齢の梅があるでしょう?そこへ行って下さいね。』
耳打ちされて素直に向かえば、そこには梅の精かと見間違うばかりに美しい姫が待っていた。
「ハッピーニューイヤー♪」
「せっかく今、夢を見ているような気持ちだったのだが・・・醒めた気がする。」
「失礼な。朔に選んでもらって綺麗にしてきたんですよ?」
「まぁ・・・綺麗なのは認めないでもないが。」
子供のように笑うと袖を広げて、俺にひと回りして見せる。
その時に気付いた。
艶やかな髪を結いあげている櫛は俺が贈ったもの。
「それ・・・似合うじゃないか。」
「九郎さんにしてはセンスがいいです。」
「なんだ、その『センス』とは。」
「趣味がいいってことです。」
「なるほど。」
なんとも言えない沈黙が落ち、俺たちは言葉もなくお互いを見ていた。
迷いは僅かな間だったろう。
心のままに動けば、こうなることなど分かっていた。
俺は愛しい者を一度強く抱きしめると、そのまま体を抱え上げて歩き出した。
いつもは口達者なお前が何も言わずにしがみついてくるから、俺の心は急いて仕方ない。
行こう。
ふたりが一つになれる場所に、早く。
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