2009年春 拍手SS
家庭教師ヒットマンREBORN! / ディーノ
キャバッローネのボス、ディーノの恋人はとても美しい。
噂ではボンゴレファミリーの一員だった彼女に一目惚れをした彼が、
あの手この手と尽くしに尽くし、やっと手に入れた恋人だということだ。
東洋人らしいスレンダーな体と神秘的な容姿。
黒髪と漆黒の瞳が透けるような白い肌に映え、その姿はマフィアの間でも有名らしい。
おまけに狙撃の腕も超一流ときたら、周囲の視線を集めないわけがない。
それがディーノにとっては悩みの種なのだが・・・
「その胸の開いたドレスを着ていくつもりか?」
「何か問題があるの?あなたが似合うと言って勝手に買ってきたものだ」
「確かに俺の予想通りに、めちゃくちゃ似合ってる。似合っちゃいるけどよ」
「だったらいいじゃない。髪はあげていこう」
美しい恋人は無造作に黒髪を束ね、頭の後ろに結いあげると櫛をさす。
後ろ髪が残るルーズな髪の結い方と現れた細いうなじに、ディーノは眩暈がした。
鏡に向かう恋人を背から抱きしめると、首筋に顔を埋めて懇願する。
「やっぱ、ダメだ。それはマズイ。頼むから、もっと露出の少ない服を」
「なにを言ってるの?ディーノが買ってくるドレスは、どれもこんなものだよ」
「そりゃ、お前が一番綺麗に見えるドレスを選んでるからな
だが、今夜は良くない。そういうドレスは俺とデートする時に着るんだ」
「だから何故?」
ディーノは整った顔を歪める。
これに答えれば恋人がどういう反応をするのか、なんとなく分かる気がしたからだ。
「他の奴らに・・・お前を見られるのが嫌なんだ」
馬鹿らしい。
その一言で片づけられた。
おまけにディーノが肘打ちを食らって悶絶しているうちに、
彼女はさっさとパーティーに行ってしまった。
ボンゴレのもとに集った多くのファミリーの中、男社会に咲く花は一段と美しい。
誰もが彼女を振り返り、熱い視線を送る。
その隣には黄金のような髪を揺らし、余裕の笑みを浮かべるディーノがいた。
だが・・・
「おい、挨拶もすんだんだろ?帰ろうぜ」
「ここのワイン、美味しい」
「そんなものホテルで山ほど飲ませてやるから」
「ホテルのが美味しいかなんて分からないじゃない」
「気にいらなけりゃ、街中のワインを集めてきてやるから」
「無駄にお金を使うの、ディーノの悪いところだよ」
「誰のせいだっ」
遠目にはお似合いの美男美女なのだが、
キャバッローネのボスであるディーノは全く恋人には勝てない男だった。
テニスの王子様 / 真田弦一郎
真田は亭主関白らしい。
真田が家に帰ると妻は三つ指をつき『旦那様、お帰りなさいませ』と出迎えるという噂だ。
日常は『お茶』『新聞』『飯』『風呂』『寝る』の五つの単語で生活しているとも言われている。
奥さん大変だろうなと真田を知る誰もが考えることだろう。
しかし、真田家の嫁は綺麗な笑みを浮かべて幸せそうに語るのだ。
雪が降る朝。
せっせと水仕事をこなす妻を手招きする真田。
何か用事があるのかと近付けば、真田は大きな手で妻の手を包みこみ息を吹きかけてくれたらしい。
また、うららかな昼。
庭になった金柑の実を摘んでいた妻は着物の袂をおさえながら背伸びをしていた。
するといつの間にか傍に来ていた真田が妻のからだを抱えあげて実を取らせてやったということだ。
そんなことをしなくても真田が取ってやった方が早い気もするが、全ての実を摘み終わるまで妻を抱え続けていたらしい。
極めつけは、雷の鳴る夜。
真田はそっと自らの布団の端をめくって妻を呼ぶ。
雷が大嫌いな妻が震えながら布団に入ってくると、真田は優しく妻を抱きしめて耳を塞いでくれるのだそうだ。
それは・・・真田の皮をかぶった別人ではないだろうかと考える。
きっと本物の真田はUFOにでも連れ去られ、宇宙人が真田に化けているに違いない。
そうでも思わないと、とてもじゃないがヤッテラレナイ気分になるのは何故だろうか。
テニスの王子様 / 乾貞治 『第三話』
穏やかな西日がガラス越しにさすカフェで向かい合う私たち。
乾は平然とした顔でブレンドを注文し、カッカッとしている私はアイスコーヒーを頼む。
確か昨日までは友達だった。
なのに今日は目の前の友達を『男』として意識している。
そんな戸惑いを胸の奥に押し込んで、とりあえず事情を聴くことにした。
「で?なんで結婚?婚活が面倒臭いとか、そんなことじゃないよね?」
「イマドキは結婚も就活並みなんだってね。大変だ」
乾は他人事のように笑ってテーブルに肘をつく。
白いシャツ一枚の肩がやけに男っぽくて、思わず赤面しそうになって目を背けた。
思い出したくもない光景が細切れに浮かんでくる。
あの肩にしがみついた感触とか、綺麗な鎖骨だとかって、ああ・・・最悪。
「とにかく君のとこのご両親に挨拶を」
「ええっ!!本気!?」
「もちろん。こういう関係になってしまったし」
「こういう関係も、そういう関係も。今の時代に一度の・・・その・・・そんなんで決めるって言うのも」
「ふむ。じゃあ、二度三度といこうか。ご希望とあれば何度でも俺はいいけど」
なに爽やかにカフェで語ってるんだ、この男。
あまりのことに口もきけない私を置き去りに、乾は腕時計を確認して「直帰にするかな」なんて呟いている。
「と、とにかく昨日のことは無かったことに」
「無理だね」
間髪入れずに断られた。
さっきまで穏やかだった乾の目が笑っていない。
「でも」
「俺を傷モノにして」
「はぁ?」
「責任を取ってくれ」
「ソレ、誰のセリフよっ」
立ち上がりそうになった私の前に、湯気の立つカップと涼しげなグラスが並んで運ばれてきた。
D.gray-man / 神田ユウ
神田は気が短い。常に不機嫌で、不遜で、容赦がない。
男にしておくには勿体ないほどの整った容姿と黒髪は彼にとって何の意味もなく
必要なのは悪魔をぶった切る力のみというエクソシスト魂に生きる男だ。
そんな神田だから、普通の女性は遠目に憧れはしても近付かない。
幼い頃から彼を知っているリナリーだけが日常会話を成り立たせることができる。
それが今までの神田だった。
「ひぃ・・神田クンっ」
悲鳴と同時に自分の腕にしがみついてきた栗色の髪に溜息が出た。
藍色の空を切り裂く白い閃光に続き、激しい雷鳴が轟く。
小さな体の彼女が更にその身を縮こませた。
これでは震える野ウサギと一緒だ。
雨はバケツをひっくり返したような激しさで、僅かな岩の窪みに立つ二人の足元を濡らす。
また空に稲光が走った。
「か、神田クン」
「うるさいっ。何度も何度も人の名前を気安く呼ぶな」
「でも、でも・・・」
雷鳴と同時に悲鳴が上がり、腕を潰されそうなほど掴まれる。
いつもの舌打ちをした神田は、まだ暫くは落ち着きそうにもない空を見上げて考えた。
コイツを黙らせるには何が一番手っ取り早いか。
その間にも震える野ウサギは騒ぎ続け、人の腕を力一杯に掴んで涙まで浮かべている。
つい数十分前までは悪魔を相手に命をかけていたくせに、たかが雷に怯える姿は滑稽だ。
それでも・・・
神田は再び舌打ちをすると明後日の方向を見つめながら、野ウサギよろしく震えている彼女の肩を抱き寄せた。
そのまま柔らかな癖毛の髪に指を通し、自分の胸に彼女の頭を押し付ける。
涙を湛えた彼女の丸い瞳が神田を見上げたと同時に再び稲光が夜空を切り裂いた。
「神田クン!!」
また自分の名前を呼んで体に抱きついてきた彼女。
すっぽりと腕の中に納まった体からは、じんわりと温もりが伝わってくる。
湯たんぽ代わりだな。
神田はそう結論付けて、華奢な体をしっかりと抱いた。
その表情が穏やかだったとか、優しかったとか、そんなことは誰も知らない。
もちろん神田本人さえも。
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