2009年夏 拍手SS









     家庭教師ヒットマンREBORN! / ディーノ





リボーンは腕のいい家庭教師だ。
だが子育てには向いてなかったと、彼女を見ていて・・・そう思う。



『コイツにはマフィアに関わらせる気はなかったんだ
 気のイイ誰かと出会って普通に嫁にでも行ってくれたらと思ってたんだが』



それ、まったく逆の方向に育ってるから。


普通に嫁に行くはずが、
誰もが一目置く狙撃屋に成長しちまってるのは、どういう手違いだろう。
拾ってしまったのは仕方ないにしても、育てるのは別の人間に任せて欲しかった。





しつこいコールに、渋々と携帯を手に取った。



「ああ?無理だ。俺は一カ月ぶりに恋人をベッドに押し倒したところだからな」



携帯を顎に挟みながら、シーツに広がる黒髪を手にすくう。


俺たちはずっと忙しかった。
やっと二人で過ごせる時間を見つけたというのに、多少のトラブルで呼び出されたんじゃたまらない。
恋人が漆黒の瞳で下から俺を見つめているんだ。ゾクゾクする。



「そっちで何とかしてくれよ。こっちも大変なんだ」
「ディーノ」



粘るロマーリオにゴネていたら、彼女に名前を呼ばれた。
俺は瞳に溢れる愛を浮かべて、うん?と問いかける。



「心配しなくても、お前を置いて行ったりしな・・・ウッ」



脳天に突き抜ける激痛に息が詰まる。
今、思いっきり蹴りを入れただろ?


俺が悶絶している間に、携帯は彼女に取り上げられてしまった。



「何があったの?ふ〜ん、面白そう。場所は?」



勝手に俺の部下と話しをするなっ。
言いたいけど息が詰まって言葉にならない。



「ディーノが必要なの?私だけで十分だけど。仕方ない、連れていく」



携帯を切ると俺に放り投げ、名残惜しさも見せずにベッドから降りてしまう。
そして俺を見下ろすと、酷く嬉しそうに微笑むんだ。



「行くよ、ディーノ。戦いだ」



優しさとか、可愛さとか、健気さとか、そういうものが欠損している彼女。


だけど、どうだ。
戦いに出ていく彼女は一度会ったら忘れられないほどに美しい女なのだ。




















     遥かなる時空の中で3 / 知盛 その壱





和議がなり、とりあえずは平和な日々を手に入れた。
だからといって元の世界に戻れる宛てもなく、戦後処理に追われる毎日だ。
忙しいのは将臣クンや九郎さんで、下々の私たちは戦がなくなれば暇だった。


ということで、今日は将臣クンちのお宅拝見。
ガサ入れしてやろうと秘かにたくらんでいた私。
将臣クンの部屋から何が出てくるかと楽しみにしていた。


おお、さすがに平家のお屋敷は雅だ。
九郎さんちの重厚で飾り気のないお屋敷とは趣が違う。
あの頭の固い九郎さんが育ってしまったのは、源氏の無骨な環境によるものだとシミジミ感じた。


それにしても源氏の神子と呼ばれた私が、
のんびりと平家のお屋敷を探索できるのだから平和になったものだと思う。
ほんの少し前だったなら、速攻で平家の兵に囲まれていたことだろう。



さぁて、将臣クンの部屋は確か・・・ココ。



事前に敦盛さんから見取り図を書いてもらったもんね。
こみあげる笑いを抑えることもできず、袖で口元を覆うと周囲を探る。



将臣クン、ナシ。ヨシ、ガサ入れだぁ。



後ろ手に開けた障子の隙間に、そっと体を忍び込ませる。
廊下を誰も歩いてこない事を確認しながら、背中から部屋に入って静かに障子を閉めた。



よっしゃあ。潜入成功!



思いっきり気を抜いて、笑顔満面で振り返った。



「さて・・・神子殿は何をしにいらっしゃったのか」



げっ。



そこには、だるそうな顔をした知盛が脇息に肘をついて寛いでいた。



「なんで、あなたがココに」
「それは俺の台詞だが」



鎧を着ていない知盛は派手な着物を着崩して、思いっきり休日モードだ。
直ぐに斬りかかられなくて良かったよ、私。



「ここ・・・将臣クンの部屋じゃないの?」
「ああ」



知盛は片眉を上げると、意地悪そうに唇の端を上げる。



「兄上の部屋は向こうだぜ」
「すみません、間違えました。それではお邪魔しました」



私は勢いよく頭を下げ、触らぬ神に祟りなしの心境で障子に手をかけた。



「待て」



ああ・・・やっぱり。これだけでは帰してはくれませんか。



「な、なんでしょう?」



恐る恐る振り返った先、知盛が億劫そうに立ち上がる。



「ちょうど退屈していたところだ。お前は俺を楽しませてくれるだろう?」



敦盛さんの馬鹿。将臣クン、助けてよ!
私の勝手な叫びが二人に届くはずもない。




















     テニスの王子様 / 乾貞治





傷モノにされたので責任を取ってくれと乾に言われた。
冗談かと思ったけれど、乾は至極真面目な顔。
そして私は途方に暮れている。


とりあえず話し合おうと連れてこられたのは乾の部屋。
昨日の今日で居た堪れないのだが、外で何を口走るのか分からない乾の相手をするのも辛い。



「まずはビールかい?」
「もう二度と乾の前じゃ飲みません」


「そう。じゃあ、俺は飲もうっと」
「飲むな。飲まずに、そこへ座りなさいって」



つまらないなと顔に書いた乾が、溜息と共に腰を下ろす。
昨日は大失恋をして泣き崩れたテーブルを挟んで、今日は乾と責任問題について語る。


なんなのよ、もう。
とにかく何を考えているのか全く理解できない乾を何とかしなくては。



「元気そうだね」



そう考えて口を開くより先に、乾の暢気な問いかけが。



「は?元気じゃないわよ。二日酔いだったし、乾は変なこと言いだすし」
「でも元気じゃないか。とても失恋した翌日には思えない」


「そりゃそうでしょう?泣く暇もないっていうか、そんなこと考える余裕も」



言いかけて、ハッとした。
乾が私を見ている。


テーブルの向こうで、ひどく優しい目をして私を見つめている。


あんなに悲しかったのに。
もう人生が終わったような気がして、絶望に打ちひしがれていたのに。


目覚めてから後の私は、一度も別れた彼のことを想わなかった。
もちろん失恋したことに涙を流すはずもなく、ただ乾のことばかりを考えて一日を終えようとしている。



悲しくないはずはない。
付き合いは長かったし、私は彼を愛していたはず。
なのに何だろう。痛みは思い出すのに、彼を遠く感じるのは何故。



「乾・・・」



自分でも情けない声だと思った。
乾は小さく笑うと、僅かに腰を浮かす。
伸びてきた大きな手が私の頬に触れ、その手の熱さが昨夜の記憶を呼び起こす。



「君が抱いてくれと言ったんだ」



ごめんなさい。



「俺の気持ちを知っていたくせに」



ずるいの、分かってた。



「そう仕向けたのは俺だけど・・・」



でも



「もう気がすんだなら、俺にしてくれ」





     君が好きなんだ。もう、ずっと。




















     テニスの王子様 / 手塚国光





付き合いだからと親戚に頭を下げられて、向かった見合いの席に手塚国光がいた。
これは何かの冗談か。それとも人を騙して驚かせる番組の企画か。


ああ、分かった。
この人、手塚国光のソックリさん?それとも双子の兄?



「久しぶりだな」
「まさか・・・真面目に手塚クン?」


「・・・俺だが」



お互いが言葉を失くし見つめ合う。
眩暈がした。なんで手塚国光とお見合い?
この前テレビで試合してるのを見たから、こっちは久しぶりの気がしないけれど
なんでそんな有名人がお見合いの席にいるわけ?ありえないって。



「見合い相手の名前も知らないで来たのか?相変わらず軽率だな」
「ヒドッ。そういう手塚クンは相手が私だと知ってて来たの?」


「当然だ」



あ然とした。
テレビの画面越し、いつも見ているテニスウェアではない彼。
落ち着いたダークグレーのスーツに紺色のネクタイをして、澄ました顔でお茶に口をつけている。



お見合いを勧められた日のことを思い出してみる。
警察官の叔父に頭を下げられたんだ。
剣道の師範がどうのこうので、とにかく偉い人に頼まれたのだから会うだけでもと。



『先方が君を見初めて、どうしてもって』


『今の時代に見初めてどうのって、なんだかなぁ
 普通に正面からアタックしてくればいいのに。そんな根性ナシ嫌です』


『そう言わず。会うだけでいいから、ね?大げさにしなくていい
 ふたりで少し会ってくれるだけでいいから。俺の顔を立てると思って、このとーり』



ちょっと、待って。私を見初めた先方って、誰?
目の前には大真面目にお茶を飲んでいる手塚クンしかいない。


訊いてもいいだろうか。
この無表情で感情表現の下手な昔の恋人に。



「このやり方って、どうなの?」



呆れた声色を隠しきれない私に、手塚クンは長い指でメガネを押し上げると答えた。



「二度目は正式な手順を踏んでと思ったのだが、気に入らなかったか?」



業務説明みたいに淡々と言われてもねぇ。
だけど私も少しは大人になったから、あの頃よりは理解力があるわよ。



「どちらかというと窓から忍び込んでさらってくれるような
 そんなドラマチックな再会が希望だったけど」



なんだかんだと言って、私も緊張していたらしい。
酷く喉が渇いて、目の前のお茶に手が伸びる。


その手に、かたくて大きな手が重なった。



「お前が望むならしないでもないが」



手塚国光が窓から私をさらいに来る。
そんなことをされたなら、きっと私は貴方を許してしまう。


彼のレンズの奥の瞳に真剣な光りが宿った。



「今度は絶対に逃がさないぞ。それでもいいのか?」



本当はずっと待っていたから。
いいの。今度は絶対に離さないで。



「結局・・お見合いは成功したの?」



涙声になってしまった私の問いかけに、やっと手塚クンが笑みを浮かべた。



















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