2009年盛夏 拍手SS










     戦国BASARA / 伊達政宗





刃のような鋭さと雷のような激しさを持つ隻眼の将・・・
伊達政宗といえば、近隣諸国に残忍な武将と噂され恐れられている。
伊達軍の通った後は雑草も生えていないと云われるほどだ。


そんな男が、たったひとつ胸に抱いた宝物。



「おい、なにやってんだ?」



覗いた部屋の中、難しい顔をして何やら熱心に手元を動かしている姿があった。
弾かれたように顔をあげた相手は、明らかに慌てた様子で手元の物を自分の背に隠す。



「気配を消して近付くのはやめてくださいって」
「そんな気はなかったんだが・・・お前がやけに集中してたからな
 で?その背中に隠したものは何だ?」


「な、なんでもないです。ホント、全然。全く」
「なんだそりゃ。余計に怪しいだろうが。何か作ってたんだろ?What?」



目の前に広がっているのは裁縫箱。
さっきチラリと見えた蒼い布に期待してしまうのは当然だろう。
しかし彼女は必死の形相で「なんでもない、なんでもない」と頭を振る。


何でもないといわれると、その何でもないものが何なのかを知りたくなるのが人間というものだ。



「Ah??俺に隠し事とはイイ度胸だ、honey?」



習性から身の危険を感じた彼女が小さな悲鳴をあげて逃げをうつが、相手は独眼竜だ。
素早く腕をとられて軽く捻られてしまえば勝敗はつく。
もちろんかなりの手加減はしているものの、自分の所有物にも容赦のない政宗だ。


あいたた・・と畳に伏せそうになる細い肩を脇から抱きかかえると、
目にも止まらぬ早業で彼女が隠したものを奪い取った。



「ああ、駄目ですっ」



止める声など完全無視で、手にした物を確認すると予想通りの代物に政宗は唇の端を上げた。
途端に腕の中の人は落胆したように項垂れる。
よくよく見れば彼女の細い指に幾つも巻かれた白い布。



「ちっとは上達しろよ」
「だから練習してるんです!!」



照れ隠しもあって憎まれ口をたたけば、羞恥と怒りで顔を真っ赤にした彼女が涙目で睨んでくる。
そんな目で睨まれても可愛いばかりで笑ってしまうのだが、笑えば馬鹿にされたのだと彼女は拗ねる。


彼女が縫っていたのは政宗の陣羽織に施す刺繍だ。
だが不器用な彼女に、それは高度すぎるというものだ。



「jokeだ。前のよりは・・・まぁ上手くなったように見えなくもないぜ」
「遠まわしに下手だって言わなくてもいいです。政宗さまの馬鹿!」


「お前、馬鹿はないだろ」



やれやれ、曲げちまったヘソをどう戻すかな。
この奥州で政宗を『馬鹿』と呼べるのは、ただひとりだと思えば苦笑が漏れる。



剣を握る武骨な手は、やんわりと彼女の肩を抱き寄せた。
イヤイヤと子供のようにムズがる黒髪にキスを落とし、宥めるように背中を撫でる。
それから傷ついているのだろう指先にも一本ずつキスを贈る。


下手でも何でも、自分のためにしてくれることが嬉しいのだと行動で伝えるのだ。


段々と腕の中の人がおとなしくなる。
ついには甘えるように頬を寄せ、政宗の鼓動を数え始めたのが分かった。



「・・・so cute」



呟いて、己が手の中の温もりを優しく抱きしめる。


竜の宝物は身分も何もないけれど、
ただただ自分を愛してくれる希望の光りだ。




















     テニスの王子様 / 跡部景吾





親にあてがわれた女など、絶対に愛することはないと思っていた。



「時機を見て、婚約は破棄する。お前も、そのつもりでいろ」



冷たく言い放った俺に、女は大きな瞳を丸くして呑気な声を出した。



「破棄するのに婚約するんですか?なら、しなきゃいいのに」
「しなくて済むんだったら、とっくにしてるんだよ」


「しがらみって嫌ですねぇ」
「お前も一緒だろっ」



言い返す俺に女は「そうですよねぇ」と屈託なく笑った。



彼女は自由な人間だった。
いつもニコニコとして、どこで会っても嬉しそうに話しかけてくる。
眉間のしわを増やすことしかできない俺の顔を見ては、「いつもご機嫌ナナメですね」と笑った。


いつの頃からか俺を「けーちゃん」と呼び、
気付けば人んちのリビングでお茶を飲んでいたりする。


俺が忙しそうにしていると滋養強壮にと変なドリンクを持ってきたり
下手な料理を詰め込んだ弁当を作ってきた。


その度に俺は怒り、突き放し、冷たくした。
それでも女は笑顔を浮かべたまま「怒ってばかりだと体に悪いですよ」と間抜けなことを言った。


なんだかんだとあったが、一年後にやっと婚約を解消できることになった。
最後に女が別れの挨拶にきた。


やっぱり女は笑っていて、「とうとうやりましたね」と可笑しそうに言った。


そうだ、親の決めた結婚をぶち壊してやった。
図々しくて、ちょっとピントのずれたお前ともサヨナラだ。
お前の家はまた新たな嫁入り先を探すだろうが、まぁ頑張れよ。


それにも女は笑っていた。


最後ぐらいは外へと送って出た俺の隣で空を見上げた女。
夏の青く高い空を見上げ、ポツリと呟いた。



「けーちゃんが見上げてた空と一緒だ」



俺が見上げてた空?
怪訝な顔をしていたのだろう。
俺に視線を戻した女が、懐かしそうに瞳を細めた。



「テニスコートで、よく空を見上げてたでしょう?」



テニスコートって・・・ちょっと待て。いつのことだ。
なのに女は答えずに、静かな笑みを浮かべて頭を下げた。



「ありがとう。楽しかった」



微笑んでいるはずの女の目には綺麗な水の膜が張って輝いていた。



女は来ない。
当然だ。もう何の関わりもないのだから。


ふと気付けば俺の部屋から花が消えていた。
よくよく考えると、女と婚約してから俺の部屋には常に花があった。
それは女が自ら選び、まめに活けかえていた花だったんだ。



けーちゃん



馬鹿っぽく間延びした甘い声。
振り返っては嬉しそうに俺の名を呼んだ。


婚約を破棄して清々したはずだ。
なのに何故、こんなにもあの声が懐かしく思えるのか。
あの笑顔に。もう一度、会いたいと何故に思ってしまうのだろうか。



親にあてがわれた女を愛するなんて、絶対にないと思っていたのに。





     〜跡部連載「Let's meet again if we have a chance.」にリメイクされました〜




















     遥かなる時空の中で3 / 平知盛





暑い。
とことん暑い。
エアコン欲しい。せめて扇風機。
そう呟いたら、困った顔の譲君が扇子であおいでくれた。


ここは電気製品のない世界。
あるのは自然と人力に頼るものばかりなのだ。



「景時さん、なんか涼しくなるもの発明してよ」
「そうだねぇ。できればいいんだけど」



頼りなく笑う景時さんの隣で、暑苦しい髪をした九郎さんが上半身裸で素振りをしている。
その引き締まった体に汗が流れのを見るだけで、正直・・暑い。



「これぐらいの暑さ、心の持ちようで何とかなるものだ」
「気の持ちようで涼しくなるなら地球は温暖化しなかったよね」


「なんのことだ?」
「もう喋らないで。九郎さんと話してると暑い」


「はぁ?」



とにかく暑い時に、熱い人とは話したくない。
少しでも涼しい所を探すべく、私は渋々と腰をあげた。



そしてやってきました涼しい水辺。
ここは平家側の領地なのだけれど、私は将臣クンの幼馴染だもんね。
なんて勝手に自分で許可を出し、清らかな小川で涼むことにした。


誰もいないと着物の裾を帯にはさみ、素足を川に浸す。
こりゃ生き返ると大胆に川の中を進み、足で冷たい水を蹴りあげる。
そうやって飛んでくる水にも大喜びで子供のようにはしゃいだ。


ひとしきり遊んで、そろそろ岸に戻ろうと振り返る。
と、そこには木陰に腰を下ろした人間がひとり・・・けだるそうに私を見ていた。



「知盛!」



思わず名を呼べば、僅かに眉をあげた知盛が唇の端をつりあげる。



「この世で俺の名を呼び捨てするような女がいるとはな」



シマッタ。敵将だったから、つい呼び捨てにしちゃった。
和議を成した今は敵ではないし、よくよく考えれば目上の男性を呼び捨ては不味い。



「す、すみません。えっと、知盛・・さん?」
「クッ。わざとらしくて笑えるな」



ちゃんと謝ったじゃない。あとは、どうしろと?
口をとがらせながらも、幼児のように川で遊んでいたのを見られたと思うと恥ずかしい。
慌てて岸に戻ろうとしたら、知盛が立ち上がって近付いてきた。
品の良さげな着物を艶っぽく着崩した長身の男はえらく見栄えがいい。
源氏側にはない雅な感じに目を奪われたが、相手は異常に好戦的な知盛だ。


突然に刀を抜かれるのではと身構えたが、意外にも差し出されたのは彼の大きな手だった。
虚をつかれて足を止めた私に、知盛は笑みを浮かべて上から下へと視線を落とす。



「その・・はしたない姿で転ばれたなら、あまりに目の毒だろう?」



ハッとして自分の姿を見下ろす。
濡れた着物は太腿に張り付き、白い肌が際どく覗いている。
裾を戻そうと帯に手をかけたが、ここで下したのでは全部が濡れてしまう。


そこに知盛の手だ。
背に腹は代えられない。とにかく安全第一で岸に上がらなくては。


苔で滑りやすい足元に気をつけつつ、差し出された手に自分の手を伸ばした。



「わっ」



重ねるより先に掴まれてしまった手首は、容赦なく引っ張られた。
たたらを踏むような格好で前のめりになる体を厚い壁が受け止める。


途端に芳しい香に包まれて、
その壁は男の厚い胸だと気付いた時には、息も出来ないほどに抱きしめられていた。



「ちょっ・・放して」



混乱の極みで暴れると一瞬だけ力が抜けた。
今だと顔をあげたら、振ってきたのは熱い唇。


蝉の声がうるさい。
川で冷えたはずの体が熱くなる。


暑い。暑い。・・・熱い。
重ねられた唇が熱くて熱くて堪らない。


眩暈すら感じる熱に、気が遠くなるのを感じた。




















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