カワイイ人
神社の夏祭りなんて数年ぶり。
昔は母に手を引かれて歩いた参道を今は大好きな人に手を引かれて歩いている。
「うわぁ、けっこう人が多いんだね。にしても、やっぱお祭りってワクワクしない?
あ、ちゃん、リンゴ飴があるよ!アレ大好きなんだ!ね、食べようよ?」
一応は私の意見を訊いてきくれるけれど返事も待たずに握った手を引っ張る人。
『あ、あの、迷子が心配だから・・・手・・手を繋いでもいい?』
参道に入る鳥居の前で思い切ったように勢いで告げてきた和樹先輩。
あまりの迫力にビックリしてたら、何を勘違いしたのか両手のひらを確認してからズボンでゴシゴシと拭いた。
『だ、大丈夫だよ?その・・綺麗にしたから。』
思わず笑ってしまった。
きょとんとした和樹先輩が次には顔を赤らめて『なんか変なこと言った?』って慌てるのも可笑しい。
笑いながら手を差し出せば、大きな瞳を更に大きくした後に『ありがとう』って子供みたいに微笑んだ。
本当に和樹先輩はカワイイ。
隠さない気持ちが真っ直ぐに伝わってくるから、くすぐったい。
手に汗をかきそうだと心配していたのも忘れてしまったようで、今はリンゴ飴の吟味に夢中だ。
「おじさん!どれが一番大きくて美味しい?」
問われた店の人も気安く大きいのを選んでくれている。
そして、おじさんからオススメのリンゴ飴が二つ差し出された途端、和樹先輩が「あっ」と小さな声をあげた。
「えっと財布・・・」
後ろのポケットに入っていた財布を出してはきたけれど、片手では開けられない。
なのに和樹先輩は私と繋いだ手は離さないままで財布を開けようとする。
「あ、あの・・手を離したほうが」
「うん、まぁ・・そうなんだけど。離しちゃうと、また繋ぐのに勇気がいるからさ。
言うタイミングとか難しいし、だから・・・出来たら離したくないなって思って。」
また笑ってしまった。
目を丸くしている店の人に私は赤面しながらも笑いが止まらない。
「大丈夫ですよ。また直ぐに繋ぎますから。」
「本当?じゃあ、」
言って和樹先輩が手を離し、お財布の中をゴソゴソと探っている。
その隣で急に寂しくなった手を握りしめ、私は和樹先輩の手を待っているの。
「ハイ、お待たせ。ちゃんに大きいほうをあげるね!」
「そんないいですよ。和樹先輩が大きいの食べてください。」
「いいの、いいの。遠慮しない!」
「じゃあ・・・今度は私の大好きな綿アメを買いますね?そしたら大きい方を先輩にあげます。」
「やったぁ!俺、綿アメも好きなんだよね!」
お互いがリンゴ飴を一つずつ持ってから顔を見合わせる。
ちょっと困ったみたいな顔をした和樹先輩が恐る恐るって感じで手を差し出してきた。
私も遠慮がちに待ちわびていた大好きな手を迎え入れる。
ふんわりと握って手の中にあるものを確かめてから、ギュッと力がこめられる。
ダイスキだよって、手に告げられているような感覚。
「じゃ、行こうか?」
「はい!」
「俺、金魚すくいしたいなぁ。」
「いいですね。」
「ね、一番カワイイ金魚に『』って名前つけても怒らない?」
繋いだ手を優しく振りながらの会話。
怒るわけないじゃないですか。
私の大事なカワイイ人。
カワイイ人
2007.02.11
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