イチゴ
「寄り道など楽器店とCDショップ、書店ぐらいしかしたことがない。」
そう真顔で答えた人が女のコでいっぱいのカフェにいる。
周囲のコたちがチラチラと自分を見ていることに眉根を寄せつつも我慢強く座っているのは私のため。
「お待たせいたしました。」
ウェートレスさんが近づいてきたのに安堵した彼の表情が一転、私が注文したイチゴパフェを目を丸くして見つめている。
彼の前には香りの良いダージリンティーが置かれたが、そんなもの視界にないかのようにパフェに見入っている。
「うわぁ、美味しそう!いただきまぁす!」
「本当にソレを一人で食べるのか?」
伝票を置いてウェートレスさんが立ち去ると、月森君が難しい顔をして訊いてきた。
「ウン!あ、月森君も食べたいの?」
「まさか。いや・・・想像以上のボリュームに驚いただけだ。その・・食べられなければ無理をせず残すといい。」
「平気、平気。」
「君は・・・いや、なんでもない。」
これぐらい女友達と来る時にはペロリと食べている。
嬉々として大好きなイチゴとアイスクリームを口にしては幸せに浸った。
月森君ときたらティーカップを手に珍しいものでも見学しているような顔だ。
次から次へとスプーンを口に運んでいたら、紅茶が冷めるのも構わずに私を見ていた月森君が
急に肩を震わせて笑い始めた。
「なに、どうしたの?どっかにクリームでもついてる?」
「すまない。お前を見ていたら・・・どうにも可笑しくなってしまって。」
慌てて口の周りを拭う私の仕草に月森君は更に笑い出す。
体をかがめると口元を押さえて笑いを止めようとしているが抑えきれないという様子だ。
「ヤダ。何がそんなに可笑しいの?ねぇ、月森君ってば。」
ちょっと拗ねた口調で問い詰めれば、瞳を和らげた月森君が少し声のトーンを落として言った。
「幸せそうに甘いものを食べてる姿を見ていたら・・・可愛いなと思ってしまった。」
「う・・・嘘ばっかり!それで笑うわけないじゃない。」
「本当だ。その・・・これを言うと怒らせてしまいそうだが、木の実を無心に食べているリスを思い出してしまった。」
「リスって」
「あ、あれは結構可愛いんだ。昔、どこかの動物園で見て・・・俺は好きだった。それを思い出して・・・」
フォローになっているのか分からないような事をモゴモゴと言って月森君が視線を逸らす。
気のせいじゃなく染まった頬に、『リス』は彼なりの褒め言葉だったのだと気づいた。
「まぁ、いいか。リスって、可愛くて私も好きだし。」
「すまない。いい例えじゃなかったな。」
「ううん。トラとかライオンを連想されなかっただけ良かった。」
冗談で話を紛らわせようとしたのに、月森君が突然に真面目な顔をしてハッキリと言った。
「は可愛い、俺はいつもそう思っている。」
「え・・・」
「あ、いや。まぁ・・・トラやライオンなど思うはずもないということだ。」
そんなに赤面されてしまったら、私だって顔が熱くなっちゃう。
甘い言葉など、そうは聞かせてくれない月森君の言葉だから・・・とても嬉しい。
お互いが照れてしまった。
俯き加減に黙々とスプーンを動かす私と他所を向いて冷めた紅茶に口をつけてる彼。
チラッと月森君に視線を向ければ、まだ赤い頬に愛しさが増す。
私はスプーンにイチゴとクリームをすくい、月森君の前に差し出した。
「よかったら、味見。」
差し出されたスプーンを前に瞳を大きくした彼だったけど、ティーカップを置くと腰を浮かせた。
月森君の端正な顔が近づいてくると、私のスプーンからイチゴとクリームを食べる。
間近で彼と目が合えば、私の鼓動は勝手に走り出していくの。
フッと微笑んだ月森君が腰をおろしながら言った。
「甘いな。」
「イチゴだもの。」
「から貰ったから・・・よけいに甘い気がするのかもしれない。」
言葉が出ない。
言った本人も言ってから言葉の意味に赤面し、聞かされた私も負けないぐらい赤くなる。
残り少なくなったパフェの赤いイチゴを見て、私たちみたいだって思った。
イチゴ
2007.02.17
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