大丈夫。










月森クンを噂する女の子達の会話は聞きたくなくても聞こえてくる。
それだけ彼は有名人で人気がある人だ。



「あのルックスに、あの上手さ。
 加えて、有名な音楽一家の息子だよ?
 人気の出ないほうがおかしいでしょう。
 その彼がアンタを選んだんだから、そりゃもうスゴイことよ?
 宝くじに当たったみたいなもんだよ。
 少しぐらいの雑音は気にしない、気にしない。」



天羽さんが微妙な励まし方ではあったけれど元気づけてくれた。


誰かが月森クンを想っていることに不安がないといったら嘘になる。
自分にスゴイ自信があるわけでもない。


でもね。
私は月森クンの言葉を信じたいと思ってるし、信じてるの。


だから大丈夫。






私は付き合い始めて直ぐの頃、恐々と月森クンに訊いたことがあった。



「月森クン。あの・・・私のどこがいいの?」
「え?」



あの時の月森クンは絶句してたっけ。
数秒間は瞬きも忘れたふうで私を見つめていたけれど、突然にカッと頬を赤くして他所を向いた。



「な、なぜ、そんな事を訊く?」
「なぜって・・・その・・月森クンみたいに何でも揃ってる人が、なぜ私なんかをって」


「君は何も分かってないんだな。」
「何もって・・・」



頬を染めたまま月森クンが私を見る。
少しだけ眉を寄せて笑う月森クンは切ない目をしていた。



「俺は足りないものだらけだ。その足りないものを君が少しずつ埋めてくれている。
 君だから・・・君にしか埋められないんだ。
 俺には君しか考えられない。」


「月森クン、」


「俺こそ思う。君こそ何でも持っているのに、なぜ俺を?俺なんかでいいのかと。」


「俺なんかって言わないでよ。月森クンは私にとって、」


「なら、も私なんかって言わないで欲しい。俺の大事な人だから。」



そう言って、ふんわりと優しく抱きしめてくれた。




今日も渡り廊下を歩いていたら、遠くに月森クンの背中が見えた。


近くにいた一年生の女の子達が「あれ、月森先輩だ!」と声をあげる。
カッコイイと溜息にも似た呟きを聞きながら彼女たちの隣を通り過ぎた。






今日も私たちは肩を並べて帰る。


急に月森クンが小さなクシャミをした。
マジマジと見つめる私に気づくと口元を押さえたまま「なんだ?」と不思議そうな顔をする。



「クシャミする月森クンを見るのも嬉しいなって。私だけが知ってる月森クンって感じがするもの。」



意味が分からないと顔にそのまま書いてあるのが可笑しい。



「なんか嬉しいの。」
「・・・おかしな奴だな。」



そう言って微笑んだ月森クンの顔を覗き込めば、不意打ちで触れるだけのキスをされた。
突然のことにビックリする私を見て月森クンが声をたてて笑う。


もうって怒っても、ゼンゼン相手にしてもらえない。



「ほら、」



笑いを噛み殺しながら差し出された綺麗な手に私の手を重ねた。



私の前にいる月森クンが大好き。
これからも時々は不安になるだろうけど、その度に私の手を引っ張って欲しい。



そうすれば、大丈夫。




















大丈夫。 

2007.04.13




















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