9周年お礼SS









     「幸村編」





「山田君」
「真田だ」



当時、小学生の真田は既に大人だった。
というか、老けていた。



「幸村君、何度も言うが俺は真田弦一郎だ」
「ああ、ごめん。ごめん。俺、人の名前って覚えられなくて」



頭をかきながら告げれば、眉間の皺が三割増しになる真田。



嘘、嘘。本当は初めて会った日から君の名前を憶えている。
小学生とは思えない力強いテニスをしていた。


まぁ、俺に負けた真田は悔しさに唇を噛みしめていたけれど
久々に本気で戦える相手に出会えて俺は大喜びしていたんだ。



なのに真田ときたら、俺よりも手塚にライバル心を燃やしていた。
そりゃ手塚も強いけど、俺が負けているとは思えない。
老け顔同士、類は友を呼ぶでライバル心が煽られるのだろうか。





「あ、金田。君も大会に出るんだ」
「真田だ。いい加減に覚えろ、幸村」



最後の小学生大会でも、真田は眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。
周囲を探しているようだが、残念ながらライバルの手塚は出てないよ。


これはチャンスだと思ったんだ。



「ねぇ、俺と一緒に立海に行かないか?」
「は?」



眩しい日差しの下、俺を見下ろす真田の瞳が大きくなる。



「真田、俺と一緒に立海で全国制覇しようよ」



君を手塚に取られてしまっては、俺の楽しみがなくなるだろう?
同じ学校にいれば、好きなだけ遊び相手をしてもらえるからね。















     「真田編」





「あ、大岡がいるね」



誰だ、それは。幸村の視線をたどっていけば、青学の越前がラケットを振っていた。



「あれは越前だ」
「ああ、そうそう。大岡越前で覚えてたんだよねぇ」



相変わらず人の名前を憶えない奴だ。
小学三年ぐらいから顔を合わせていた俺でさえ、真田と呼んで貰えるようになるまで随分とかかった。


たぐいまれなテニスの才能を持ってして『神の子』だと呼ばれる幸村だが、
他のことに関しては結構抜けている。


主審などはいい加減すぎてさせられないし、部の運営も大雑把で任せられたものではない。
俺と蓮二がサポートして、やっと部長としての面目を保っている幸村だ。



「そういえば・・明日、数学の小テストがあるのを覚えているか」



気になって訊ねてみれば、え・・・と明らかに驚いた様子の幸村がいた。
試合前に言うのも何だが、明日は月曜日で普通に授業があるのだから言っておかねばならん。



「帰ったら、勉強しておけよ」
「これからっていう時に嫌なことを言うなよ」


「忘れてただろ?」
「忘れてたけど」



拗ねたようにラケットでシューズの先を叩く幸村を横目に、俺は大げさに溜息をついた。
これだから幸村には俺がついていてやらねばならん。



全国制覇も共に果たさねばな。















     「柳編」





幸村は『手塚』という男に、それほど興味がない。
弦一郎がライバル心むき出しで手塚を見ているのとは対照的だ。


もともと他者と自分を比べるような性格ではないうえに、誰かに劣ると思ったこともないのだろう。


それほどに幸村には圧倒的な才能と力があった。
あまりに強い幸村はモチベーションを保ち続けるのが難しい。


ゆえに弦一郎がいる。



「真田は倒しても倒しても向かってくるから安心して倒せるよね」



幸村は楽しそうに言った。
弦一郎の考え方は常に潔く、負けるのは己が弱いからであり
強い者を羨んだり、反対に恨んだりは絶対にしない。


なので幸村が少々本気を出して打ちのめしたとしても
弦一郎は逃げもせず、幸村を恨みもせずに、努力を重ねて更に力をつけて再び挑む。


傍から見ていると少々気の毒なようだが、
弦一郎が全国に名を馳せるまで強くなったのは幸村のおかげとも言えた。





「くそ〜っ」



空に向かって弦一郎が叫んでいる。
コートは夕日に照らされ、悔しがる男の影が長く伸びる。


勝者の幸村は清々しく汗を拭い、悔しがる弦一郎を見て嬉しそうに笑った。



「まだまだだな、真田。帰りに奢れよ」
「今日は金がない」


「はぁ?どういことだ、それ」



奢れ、金がないで口げんかを始めた二人を横目に
さっさと二人のデータをまとめ、俺は帰り支度を始める。



俺は弦一郎ほど打たれ強くはないから、
しっかり分析研究させてもらって、そう遠くない未来に二人を倒せたらと秘かに企んでいる。




















Feathery Kiss9周年企画SS

2013.08.03



















テニプリ短編TOPへ戻る