曇りのち晴れ
俺はちゃんが好き。
明るくて可愛くって、彼女が笑うとお日様を浴びたみたいに温かい気持ちになる。
でも、ちゃんは跡部が好き、・・・らしい。
俺だって他のヤツには負ける気なんてサラサラないけど、跡部は別。
テニスは文句なしに強い。勉強だって出来る。
心だって強くて、それでいて本当はとても優しいのも知ってる。
『ジロー』って、いつも俺の名前は優しく呼ぶんだ。
跡部と一緒だったから飽きっぽい俺でもテニスを続けられたんだと思う。
全国に行けたのも跡部のお陰だし、跡部にはイッパイのワクワクを貰った。
俺は跡部も好き。
だから、とっても複雑な気持ちなんだ。
今まで頑張ってちゃんにアプローチしてきた俺だけど、今日は偶然に見ちゃったんだよね。
ちゃんが跡部といるところ。
昇降口で話してる二人の声は聞こえなかったけど、様子を見ててピンときた。
跡部が柔らかく笑ってたし。
何よりちゃんが真っ赤になってはにかむ姿を見てしまったら・・・決定的だと思った。
二人は恋人同士になったのかな、って。
で、俺は凹んでる。
勝ち目のない戦いに敗れた。
どんなに自分より強い相手でもワクワクさせてくれれば楽しかったテニスとは違う。
心は簡単じゃないよね。
恋に関しては跡部相手にワクワクなんてしないよ。
なんか惨めになっていくだけだ。
部室の机に突っ伏して愚図愚図していたら、ファイルを小脇に抱えた跡部が部室に入ってきた。
生徒会の仕事も抱えてる跡部は本当に忙しそうだ。
「なんだ、ジロー。まだ着替えてないのか?」
言いながら俺の頭をポンと跡部が叩いていった。
これは俺だけにする跡部の癖。
『跡部があんなんするのジローだけやん。よっぽど可愛いんやろうな。』って、
オッシーに言われた時は俺だけが特別みたいでスゴク嬉しかった。
でも、今日は素直に喜べなくて顔も上げられないんだ。
耳だけで跡部の気配を探る。
跡部はいつもの部長が座る椅子についてパソコンを始めたらしい。
多分あっという間に生徒会の書類を仕上げて、次にはコートに飛び出していくんだろう。
そしてキラキラしたオーラをまとってテニスをするんだ。
それを見るのも好きだったんだけどな、俺。
何もかもをその手に掴んでいる跡部。
俺が一生かかっても越えられない存在なんだろう。
なんか胸の中がグチャグチャだ。
吐き出さないと、どうにかなっちゃいそう。
「ヨシ、これでいい。
ジロー、起きろ!コートに出るぞ!」
ノートパソコンを閉じる音がして俺に声がかかった。
心の中が破裂しそうになってた俺はとうとう言ってしまう。
「跡部はイイよね。手に入らないものなんてナイよね。」
机に突っ伏したままで片目だけを上げて跡部を見た。
跡部は資料をファイルに仕舞う手を止めて、怪訝そうな顔で俺を見ている。
「あーん?なに言ってんだ?」
「俺なんか欲しくても手に入らないものがイッパイあるんだもん。」
「お前、何かあったのか?」
「別に。ただ、ウラヤマシイなって思うんだ。」
跡部が大きな溜息をついた。
意味の分かんない会話に、そのまま置いてかれちゃうかなって思った時、
跡部が瞳を強くして俺に言ったんだ。
「ジロー、欲しいものがあるなら努力しろ。何が何でも手に入れると強く心を持て!
最初から諦めてるようなヤツに手に入れられるようなもの、何一つねぇんだよ!」
初めて聞く強い跡部の声だった。
他のヤツに怒鳴ってるのは何度も聞いたけど、俺には絶対にキツク言うことはなかった。
その跡部が怒ってるみたいだ。
グッと言葉につまった俺は益々自分が格好悪く思えて、俯いたまま体を起こした。
なんか泣いちゃいそうだ。
もう跡部の顔なんか見られないよ。
すると跡部の気配が近づいてきて、ポンポンと頭を撫でられた。
その仕草に思わず顔を上げたら、跡部がいつもの優しい目で俺を見ていた。
「バーカ。お前は、お前でいいんだよ。
くよくよするなんざ、ガラじゃねぇだろうが?
明るく、あっけらかんとスゲェことするのが、俺の知ってるジローだ。」
なんか目が覚めた。
そっか。ウン。そうだ。
ウジウジするなんて俺らしくない。
ちゃんに跡部が好きだって言われても、その時は仕方のないことなんだ。
思いっきりフラレテ、スッキリ諦められる。
だって相手は跡部だもん!
その日の帰り。
善は急げとちゃんの家まで押しかけて、俺は玄関で告白したんだ。
「あ、あのさ、オ、オレ、ちゃんがスゲェー好きです!」
さぁ、イイよ!覚悟は出来てるから、フッてよ!
なのにちゃんときたら、跡部と昇降口にいた時より更に頬を赤くして言ったんだ。
「私も・・・」
「へ?」
「私もジローちゃんが好きデス。」
消え入りそうな小さな声に耳を疑った。
「え?ちゃんが好きなのって跡部じゃなかったの?」
「あ、跡部君?まさか、そんな。
あの・・・ジローちゃんは跡部君に聞いて来てくれたんじゃないの?」
「ゴメン!なんか頭が混乱してるんだけど、えっと・・・ちゃんは俺が好き?跡部じゃなくて?」
「私はジローちゃんが・・ずっと好きだったけど。
この前それを跡部君に聞かれて・・・思わず赤面してしまってバレちゃったから。」
あー、はめられた!跡部は知ってたんだ!チクショー!
けど怒る気にはなれなくて。
とにかく目の前で沸騰してるちゃんの真っ赤かな顔がチョー可愛くて。
さすがに彼女の家の玄関で抱きしめるわけにもいかないから、
ちゃんの可愛い手を両手で包み『これから、よろしくね!』とブンブン振った。
あーあ。やっぱり跡部には、一生敵わない。
そう思うけど、それでいいやって思う。
明日の朝練では、跡部の後ろから抱きついてやる。
今日は曇りのち晴れだ!
25万ヒット代打リク 『曇りのち晴れ』
2006.08.13
『芥川慈郎で詳しい設定はお任せします』というリクでした。
さんきゅ まこと様
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