あなたのためなら・・・ 〜景吾〜










「お前・・・それは無理があるだろう?」
「う〜っ」



私の姿を見た景ちゃんが眉間に皺を寄せて呟く。



今日は跡部家で開かれる会長の誕生日パーティー。
当然、婚約者の私も呼ばれてる。


いろんな会社の人。いろんな綺麗な人が出席する。


だから・・・景ちゃんに相応しく見られたくて。
精一杯大人っぽく、女らしい姿にしてみたの。


でも鏡に映る私は、どう見ても幼くて。
少しセクシーなドレスも、赤い口紅も、アクセサリーもちっとも似合わない。


溜息をついているところに、ろくにノックもせずに入ってきた失礼な婚約者が、
私を見るなり言った言葉が『無理がある』だった。



泣きそうになりながら「着替えるから、出てって!」と目をそらせば。



「バーカ」と笑いを含んだ声で私に近付き、頭をくしゃっと撫でるとクローゼットに向かう。


勝手に人のクローゼットを開け放し、目に付いた服を取り出しては仕舞いを繰り返す。
そして、一枚の柔らかいクリーム色のワンピースを出してくると「これだな」と私に差し出してきた。



確かにお気に入りだけど、シンプルでおとなしいデザインだ。
けれど景ちゃんは「これだっ、これ。さっさと着替えて来い!」と命令する。



仕方なく隣の寝室でワンピースに着替えた。
とてもじゃないけど似合わないメイクを落とし、アクセサリーも外してしまう。



「おいっ。遅いぞ、着替えたのか?」
「あ、うん。今からお化粧しなおすから・・・」



バンッ。と、人が話しているのに、寝室のドアが開く。
なんでそう、躊躇いもなく何処へでも入ってくるのか。



「景ちゃん、勝手に入ってこないでよっ」
「うるさい。お前は俺のものなんだから、つべこべ言うなっ」


「もうっ」
「さっきみたいな、似あわねぇ化粧すんなっ。
 お前は素が綺麗なんだから、べたべた塗ることねぇんだよ。」



言いながら、人のメイク道具をあさって口紅の色を選んでる。
素が綺麗・・・って、ちょっと嬉しい、なんてドキドキしてたら。


1本の口紅を手に私を振り返り、じっと唇を見つめてくる。



「これ、だな。・・・おい、なに赤くなってんだ。恥らってんじゃねぇぞ。」
「だって、」


「いいか、。俺はな、そのままのお前がいいんだ。
 俺のためにとか無理してもらっても嬉しくない。いいな?お前らしくで、いいんだ。」


「景ちゃん・・・」



伸びてきた手に、さらわれて。
そのまま景ちゃんの腕の中に飛び込んだ。



「景ちゃん、私ね。景ちゃんに似合うくらい、綺麗になりたいの。
 並んでもおかしくないくらい。景ちゃんが、皆に自慢できるくらい。」


「・・・バカ。だから、お前はバカなんだ。てめぇのこと、何にも知らないで。
 お前はな、俺様が望んだ女だ。つまんねぇこと考えてねぇで、俺の傍にいろ。それでいい。」


「そんなんでいいの?」


「ああ。俺のためを思うなら・・・いつものお前で笑ってくれてりゃ、それでいい。」



両頬を景ちゃんに包まれる。
指に挟んだままの口紅が、桜色のパールピンクだというのを視界に捕らえながら目を閉じた。



柔らかな、優しいキス。



あなたが望むなら。
あなたのためなら・・・私はずっとこのままで傍にいるよ?





メイドさんに手伝ってもらって、ふんわりと春のような柔らかいメークをした。
アップにした髪には、景ちゃんが見つけてきたアプリコット色の薔薇を2本さした。


あれは玄関に飾ってあった薔薇だと後で知ったんだけど・・・綺麗だった。
それに小さめのパールのイヤリングとネックレス。


クリーム色のワンピースには、これぐらいがちょうどいい。





玄関で靴を履いている私を見て。
景ちゃんが腕を組み、にっこりと笑った。



「お前・・・花みたいだ」と。



顔をあげたら、遅いっと憎まれ口を叩いて背を向けたけど。
本当は照れているんだと分かって、嬉しい。



「景ちゃんっ、待って!」



クスクス笑いながら追いかけて。
振り返って差し出された大きな手に、自分の手を重ねる。





あなたのためなら・・・





わたし いつも笑ってるね 





ずっと そばで





















「あなたのためなら・・・〜景吾編〜」  

2005.06.18  『ふたり』のその後。




















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