あなたのためなら・・・ 〜忍足編〜










子供の頃から大人びて見られた俺。


小学6年生の時、女子大生にナンパされたのは本当の話。
女兄弟に囲まれて育ったせいで嫌でも女心に精通しているせいか、
これまでずっと年上の女としか付き合ったことがなかった。


同年代の女の子も可愛いとは思うが・・・やっぱ『お子ちゃま』という感覚が抜けなくて、
遊ぶには向かないと避けてきていた。


そんな俺が、本気で恋をしたのは高校2年生。
遊びまくっておいて言うのもおこがましいが『初恋』ともいえる本当の恋をした。
それも年上じゃない。同級生の女の子にだ。


それが、



「おまたせ」



待ち合わせの本屋で背中から声をかけられた俺は、何の心構えもなく彼女の声に振り向いた。



「っ!」



俺は、きっと間抜け面をしていたと思う。
たっぷり5秒は呆けたまま立ち尽くしていた。



いつもはストレートの髪が柔らかくウェーブして肩先で揺れる。
色白に桜色の頬。赤めの口紅にグロス。黒くて長い睫毛。
初めて見るフルメイク。


肩や胸元が色っぽくあいたカットソーに爽やかなブルー系のミニスカート。
すらっと伸びた素足にミュール。
ご丁寧に口紅の色と同じペディキュアが施されている。



マジマジと上から下まで何度も往復した視線。
最後に困ったみたいな顔をしている彼女の目を見て、やっと出た一言は。



「どうしたんや?」
「どうしたって・・・やっぱり似合わない?」



は少し視線を彷徨わせてから、少し俯き加減にして俺を見上げる。
うわっ、色っぽいって!今さらやのにドキドキするやんっ



「いやっ、あの、そのな。似合わんことはないこともない。
 けどっ、どうしてまた、そんな格好してきたんかと・・・」



なんやドキマギして言葉もわけが分からんようになっているのは自覚している。
いやっ、だから上目ずかいに見るのは・・・まずいって。



「・・・やっぱり。似合ってないね。」



は小さく笑って俯いた。
その白い頬に長い睫毛の影が落ちて、憂いを帯びた大人の顔にくらくらする。



「あっ、いや。だから、似合ってないことはないって!けど、いつもは年相応っていうか。
 もっと可愛い格好してるやろ?化粧なんて殆どしてないし。なんで、今日に限って・・・」


「侑士の友達に会うから。」
「は?」


「私みたいな子供っぽいコだと・・・恥ずかしいでしょ?」



唖然としている俺の前で。
の瞳に、みるみる水の膜がはっていく。



「だから・・・お姉ちゃんに頼んだの。
 でも・・・ゴメンね。やっぱり、駄目だね。ゴメン。今日は帰るね。」



ポロ・・っと。白い頬に涙が一粒落ちていった。



俺は慌てて彼女の腕を掴むと強引に、本屋の脇にあるビルに引っ張り込んだ。
薄暗くて誇りっぽい階段の下で振り向くと、は俯いたまま涙を拭っている。


俺はの肩に両手を置いて、覗き込むようにして視線を合わした。



、よく聞けよ。俺はお前と一緒にいて、一度やって『恥ずかしい』なんて思ったことないで?
 友達に会わせるのは迷ったけど、それはお前が子供っぽいとか、そんな理由じゃない。
 お前、可愛いから。他の奴が色目を使うたら許せんなぁとか。
 口の悪いアイツらが、あることないことお前に吹き込んで・・・お前を傷つけたりしたら嫌やなぁとか。
 そんな理由や。


 なぁ、本気でそんなアホみたいなこと思うて・・・こんな無理してきたんか?
 いつものお前でよかったのに。自然で可愛らしい、いつものでよかったんや。」


「だって・・・岳人クンが、今までの侑士の彼女は皆年上で・・・綺麗だった、って。
 私みたいなお子ちゃまと付き合ってるのが仲間に知れたら・・・侑士は笑われるだろうから。
 出来るだけ大人っぽくしていったほうがいいって・・・教えてくれたの。」


「あの、アホ岳人!明日しめたるっ!
 ええか?あんなアホの言うことは信じるなっ!俺を信じるんが先やっ!」


「でも・・・」
「でもも、しかしもないっ!の恋人は誰やっ?俺やっ!アホッ!」


「う〜」



ハッ、しまった!ついキツク、言ってしまった。
は耐え切れずにボロボロと涙を零し始める。



あちゃ〜やってもうた。


もう、あかん。のことになると全くもって俺の方が子供になってしまう。
格好もつけられない。どうにも感情がコントロールできなくて、必死になってしまう。 


こんなこと。今まで付き合ってきた女との間では一度だってなかったのに。
分かるか?それほど俺は、お前にゾッコンで。もう、メロメロのクラクラや。


あーあ。せっかくのメイクも涙で台無しや。
けど、目の前でボロボロ泣いてる姿が幼くて、可愛らしく見えてタマラナイ。



「ああ、もうっ。泣くなって。ゴメン。ゴメン、なっ。?泣くな?」



言いながら抱き寄せたら、なんと抵抗するから力でねじ伏せて抱きしめた。
薄い肩が震えてる。香水までつけてきたらしい。
いつもの花のような香りではなく、すこしスパイシーな女の香り。



、好きや。本当に好きなん。
 着飾ったり、化粧なんてせんでも。
 そのままでっていうか、やったら何でもええねん。服も化粧も関係ない。
 が、やから好きになったんや。分かるやろ?な?」



髪をやさしく撫でながら、言って聞かせるように囁いてやると
シャツの背中をキュッと握る感触があった。



「私・・・」
「うん。」


「侑士の・・・」
「うん。」



「あなたのためなら・・・なんだってしたい。」
「・・・・・」



「侑士が好きだから」
「・・・・・」



「だから、」



。帰るで。」


「えっ?」



の体を胸から引き剥がすと素早く唇にキスをして、そのまま手首を掴んで駅に向かう。
携帯を出してきて、待ち合わせしている友達のアドレスを呼び出した。



「待って、待ってって!侑士っ!」


「あ〜もしもし?俺。悪いなぁ。今日は急用が出来て行けんようになった。へ?彼女?」



チラッとの顔を見たら、また泣きそうな目で俺を見上げている。



「いや、色々考えたんやけど。お前らに見せるのも勿体無いほど可愛いから、やっぱりやめた。
 いやいや。見せたら減るかもしれんしなぁ。 
 もう、今日なんか俺が見惚れるくらい綺麗な格好で来てしもうたもんやから。
 お前らに会わせるのは危険やと判断した。
 で、今からお持ち帰りすることにした。じゃあ、そういうことで。」



電話の向こうで何かまだ話していたがブツッと切って電源まで落とした。
唖然としているにウィンクをひとつ。



「そういうことやから。今日は、俺んちにお泊りな。えーっと、外泊の嘘はお姉ちゃんに頼めるか?」
「無理だよ・・・なんで、」


が悪いんやで?そんな色っぽい格好してきて。それで、心臓鷲づかみの殺し文句やもん。」
「殺し文句?」


「あなたのためなら、なんだってしたい。そんなこと好きな子から言われてしもうたら、
 帰したくないと思うのが健全な青少年なんです。もう観念して、ついてくるしかないで?」



が眉をハの字にして笑った。
困りながらも、その顔は。OKなのだと受け取った。



ああ、可愛い。



が眠りに落ちる前。きっと、俺も言ってやろ。





『 お前のためなら・・・なんだってしてやる 』と。





















「あなたのためなら・・・〜忍足編〜」  

2005.07.02  

願望そのまま///




















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