サイト3周年記念リク一番目 
「プレゼント」

                    〜Thank you 3rd anniversary presento to 朝凪ゆさや〜










ざわめく店内。
入口で幹事の名前を告げれば、店員さんが奥へと案内してくれる。
乾君お得意の情報収集力で探したであろう和風の店はとても雰囲気がいい。
突き当りの隠し部屋のような個室の前で「こちらです」と言われ、襖の奥から笑い声が響いてくるのにホッとした。
ここへ来るだけにも、知らず緊張していたらしい。


ひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
よく会うメンバーの集まりなのだから大丈夫。
そう言い聞かせてみても、今日は特別。
慰め程度に髪を手ぐしで直し、服は、メイクはと今さら心配になって確かめに帰りたくなる。



「中に入らないの?」



背中から声をかけられて飛び上がりそうになりながら振り向けば、笑顔の不二君が立っていた。



さんも今きたんだ?もうメンバーは集まってるかな。」



曖昧に返事する私の躊躇いとは裏腹に、不二君は迷いもなく襖に手をかけて開けた。
途端に笑い声がクリアに聞こえて、目の前には変わらないメンバーが並んでいる。


でも、その一番奥には珍しい人が座っていた。



「あ、遅いぞ不二!なんだちゃんと一緒に来たの?」
「違うよ。部屋の前で一緒になっただけ。手塚、おかえり!優勝おめでとう。」



入口近くに座る菊丸君に引っ張られながら、奥に座る手塚君に声をかける不二君。
私は不二君の背中に隠れるようにして、久しぶりに見る手塚君に鼓動が速くなるのを感じていた。


テレビで見るより日に焼けて、もっとシャープな感じ。
高校生の頃も周囲の男のコより明らかに落ち着いて大人っぽい彼だったけれど、
今はプロテニスプレイヤーとしての貫録もついて近寄りがたいほど素敵な男性になっている。



「ホラ、不二は俺の隣。ちゃんは向こうね。」
「向こうって?」



菊丸君は不二君だけを自分の隣に座らせて私を追い払うような仕草をする。



「紅一点のさんは主賓の隣だよ。」
「主賓って・・・手塚君の?い、いいの。私もココに、」


「いや。君はこっちだよ。」
「乾君?ちょっと・・・待って!」



急いで不二君の隣に腰を下ろそうとしたのに、その肩を乾君に掴まれた。
いつの間に近づいて来ていたのか。
幹事の乾君が「君の席は決まっているから」と指した先。
そこにはジッと此方を見ている手塚君がいた。



「こ、ここでいいの。本当に、」
「幹事の俺に従ってもらわないと困るな。ほら、行くよ。」



焦る私など無視して腕を引っ張る乾君。
助けを求めるように菊丸君と不二君を見たけれど、にこやかに手を振られてしまい観念するしかない。
手塚君のもとへ行くまでに桃城君や海堂君に挨拶され、それに答えることで手塚君を見ないようにした。
だけど手塚君の隣に一つ空いた座布団を前に「ここだよ」と言われては冷静でいられない。



「待って、ここは悪いわ。私は端の方でいいから、大石君がココに来ない?」
「俺はいいよ。さんが、どうぞ。」



何故か手塚君の隣は両方が空いていて座布団だけが並べられている。
手塚君と仲の良い大石君が少し離れて座っているのに気づいて声をかけたけど、笑顔で断られてしまった。



「せっかく手塚が海外で初優勝して帰国したんだから、誰かホステスがいるだろ?
 と、いうわけで・・我が部には女子マネだった君しか女性はいないんだから仕方ないんだ。」



言うなり強く肩を押されて、無理矢理に手塚君の隣へと座らされてしまった。
その拍子に手塚君の体に腕が触れてしまい鼓動が跳ねる。



「ご、ごめんなさい、大丈夫?」
「ああ。・・・久しぶりだな。」



ウン、久しぶり。
テレビを通してじゃない手塚君の生の声、やっぱり私はとても好きだ。



「初優勝おめでとう。テレビで応援してたのよ。」
「日本では深夜の試合だっただろう?」


「そう、だから毎日寝不足だったの。」



青学のユニフォームを着ていた時と変わらない話し方をしてくれるから、私も何とか普通に話せる。
鼓動はドキドキとしているけれど、ああ・・・それは昔も今も一緒か。



「それは悪かったな。」
「ううん。毎日が楽しくてワクワクしたもの。
 手塚君のおかげで幸せな数日を過ごせたわ。ありがとう。」


「そうか。こちらこそ、応援ありがとう。」



向こうで誰かが笑っている。
その声がBGMみたいに感じられ、目の前の人の声だけが私の心に響く。
久しぶりの感覚。心の奥に沈めていた手塚君への想いが急速に浮上してくるのを感じた。


長く長く想い続けている人。
叶うことはないと諦めているはずなのに、会ってしまうと心が揺れる。



「日本でスゴイ人気者になってるのよ。空港でマスコミに取り囲まれたでしょう?」
「ああ。誰か有名人が来日したのかと周りを見ていたら俺だった。」



相変わらず自分のことには関心がないのね。
昔も今も、誰もがあなたに惹かれることを知らないの。



「今の手塚君は日本で一番有名なスポーツ選手よ、きっと。」
「まさか。」


「本当だって。おかげで私は何時でも手塚君に会えるようになった。」
「俺はに会ってない。それを会うとは言わないだろう。」



画面に映る姿であっても好きな人を見られるのは嬉しかった。
そんな一方的な出会いを拗ねたように否定する手塚君に笑顔が零れる。



「一年以上・・・会ってなかったね。」
「それぐらいか。」


「でも良かった。手塚君が優勝決めた時、夜中なのに一人で大騒ぎしちゃったのよ。」
「そうか。」


「本当に嬉しかった。手塚君がプロとして大きな大会で優勝するの・・・私も待ってたから。」
「・・・ありがとう。」



ポツポツと短い言葉を返してくる手塚君の声が柔らかい。
とても手塚君を真っ直ぐは見られないとドリンクメニューに視線を落とすのに、なにひとつ文字が頭に入らない。
近くにある手塚君の体温を感じ、声を、吐息を、仕草をと全身で手塚君のすべてを感じようと躍起になっている私がいる。


もう手の届かない人なのにね。



は何を飲む?」



乾君に声をかけられてハッとする。
メニューも選ばずに手塚君との話に夢中になっていた。



「アルコールは駄目だったっけ?でも一杯目くらいは何か頼んで乾杯しよう。」


「そうね。ちょっと待って、何にしよう。」
「どれか飲みやすい物はないのか?」



手塚君が私の手元を覗きこんでくる。
あまりの近さに体が逃げるけど、隣でメモを片手に膝立ちしてる乾君がいて距離が取れない。
これは?と指される色とりどりのサワーより、手塚君の長くて節のある指の方が目に付いてしまって困ってしまった。


手塚君の選んでくれた綺麗なピンク色のピーチサワーを頼むと、今度は手塚君から話しかけてくる。



「今、何を読んでる?日本で流行っている本で良いものはあるか?」
「手塚君の好みは変わってない?なら、好きそうなのがあるんだけど。」


「特別変わっていないと思う。どんな本だ?」



高校生の時も、こうやってお互いが読んだ本の話をした。
部活の後に本屋へ寄っては、平積みされた新刊を肩を並べて選んだものだ。
付き合っているのかとクラスメイトに聞かれたのも一度や二度じゃない。
だけど私たちの間に部活の仲間以上の関係はなかった。
それでも楽しかった時間が懐かしくて、時計が逆戻りしていく錯覚に眩暈がしそうだ。



「そうか。なら日本にいるうちに探してみよう。」
「いつまで・・・いるの?」


「来週まで。」
「そう・・・短いのね。」



落胆しながらも微笑んだ。
手塚君が私の教えた本の名前をメモしかけて、不意に手を止めた。



「探さなくても借りればいいな。、いいだろう?」
「私のを?」


「ああ。いろいろと忙しくて本屋を回る時間が取れるか分からない。」
「いいけど・・・次に会えるかなんて」


「会えるだろう。約束すれば。」
「でも、手塚君は有名人だし・・・どこででも気軽に会える人じゃないもの。」



乾君から借りたペンを置いた手塚君が眉を寄せて私を見つめてくる。
彼の言葉に戸惑う私の前に頼んだピーチサワーが運ばれきた。


それに乗じて手塚君から視線をそらした私、その時だ。


乾君が声をかけ「さぁ乾杯だ」と盛り上がる中、
グラスを持とうと伸ばした手が突然に自分とは違う手に包まれてテーブルの下に攫われた。
訳も分からず攫われた手を掴んだ人の方を向けば、平然として右手にグラスを持っている。



「て、手塚君!?」
「乾杯だぞ。」


「乾杯って、でも」



右手を大きな手から抜こうとしたら、更に強く握られて逃れられない。
乾君が幹事の挨拶をしていて、部屋にいる全員がこちらを見ていると気づけば
勝手に頬が赤くなって顔が上げられなってしまった。



「手塚が念願の優勝を果たしたし、とりあえず俺たちは何でも飲めればイイということで・・・」


「乾〜、話が長いぞ。早く飲ませろ〜!」
「エージ、乾に挨拶ぐらいさせてあげなよ。」



挨拶している乾君の隣で、私は小さく手塚君に懇願する。



「は・・放して」
「嫌だ。」


「ど・・して、こんな」
「卒業する時の約束を忘れたのか?」


「約束・・・」
「俺が夢をかなえた時にはプレゼントしてくれると言っただろう?」



忘れるはずもない。
早咲きの桜が舞い落ちるテニスコートの脇で確かに言った。
涙の止まらない私に手塚君から言ったのよ。



『俺が夢をかなえられたら・・・くれないか?』
『何を?』


『俺の欲しいものを』
『いいけど・・・何?』


『今は言えない。夢を叶えたらだ。』
『いいよ。何でも・・プレゼントする。』


『ありがとう。』



そう言って、手塚君は眩しそうに瞳を細めると僅かに微笑んだ。
私こそ手塚君は忘れた約束だと思っていた。
アメリカに渡ってからも年に一度はクリスマスカードが送られてくる程度の仲。
帰国すれば大石君や乾君が誘ってくれて、こういう席で手塚君と会う。
私が約束を果たすことはないだろうと思い込んでいたの。



「手塚にも一言と思ったけど、エージが煩いから乾杯と行くか。」



右手は手塚君の手に掴まれたまま、何が何だか分からずに泣いてしまいそうだ。
目の前に置かれたピーチサワーからは透明の泡が美しく弾けていくのにグラスが掴めない。



「じゃあ、せーの」



「俺と結婚してほしい。」



乾杯と大きな声が響きグラスが音を立てる。
瞬きも忘れて見入った横顔がゆっくりと私を向く。


その瞳が真っ直ぐに私を映した時、横からビールのジョッキが突き出されたきた。



「手塚、我慢が出来ないにも程があるだろう。
 せめて乾杯が終わってからプロポーズしようとか思わないのか?」



呆れた声の乾君が手塚君と私のグラスに続けてジョッキをぶつけた。
そんな乾君に手塚君は手にしたビールを一口飲むと呟く。



「早く言わないと気が変になりそうだったんだ。」



突然のことに頭の中は信じられないと思うのに心が勝手に涙を流す。
自由になる左手で滲んでいく目元を押さえれば、波のように拍手が起こった。





後で知ったこと。
あの集まりはテニス部のメンバーが手塚君のために私をプレゼントにした集まりだった。
私だけが知らず、全員の手で手塚君にプレゼントされてしまったのだ。



手塚君に頼まれた本をスーツケースに詰め、私は彼の待つ街へと飛び立つ。
本以上に私の到着を喜んでくれるだろう彼に幸せを感じながら、私は長い片想いにサヨナラをした。




















2007.08.03

サイト3周年記念リク一番目 「プレゼント」 

朝凪ゆさや様に捧げます



手塚国光 「俺と結婚してほしい」とのリクでした。
リクをありがとうございました!




















テニプリ短編TOPへ戻る