侵略者










の恋人は、跡部景吾。


ここ、氷帝学園で知らない人はいないほどの有名人だ。
全国区のテニスプレーヤー。おまけに、育ちもよろしく、容姿端麗、成績優秀。
誰もが憧れる完璧な男。


が・・・性格に難があった。
我儘で、人の言うことを聞かない。恐ろしいほど自信家で。
自分を中心に世界が回っていると勘違いしているようだった。
しかし、その統制力は一流で。一癖も二癖もある部員達をまとめあげ。
大所帯のテニス部を引っ張っていた。


は、テニス部のマネージャーだ。
イケ面テニス部員目当てが多い女子マネージャーの中で。
は、純粋にマネージャー業務に打ち込んでいた。


大好きな兄の影響でテニスが好きだったが、には運動神経がなかった。
だから、せめて・・・と、マネージャーになったのだ。



目にハートを浮かべて仕事をしないマネージャーは次々と首を切られていった。
そして、最後まで残ったのが・・・だった。


は、ブラコンだったから。テニス部のイケ面など興味がなかった。
黙々と働く、気立ての良い彼女に、テニス部員の誰もが好感を持ったが。
テニス部には『女子マネ』との交際を禁ず・・・という規則があった。


だから、部員と恋仲になったら、マネージャーは辞めてしまうのだ。





ある日。俺様の部長が言った。



『部の規則を変える。マネージャーと交際を認める。と、言うことで。は、俺の女だ。』



唐突に。ミーティングの最後、跡部はさらっと宣言した。


部員も驚いたが、一番驚いたのは、本人だ。



俺の女とは、なんだ?



『ちょっと、待って。私、いつ・・・跡部君の女になったの?』



詰め寄る彼女に、跡部は書類をめくりながら答える。



『今だ。』


『今?冗談でしょ?私、なにも聞いてないし。』


『そりゃそうだろ。俺も言った覚えがない。が、今言った。』



二人のやり取りを、部員達は唖然と見つめる。



『何それ?私の気持ちを無視して、横暴よっ。』



の言葉に。やっと、跡部が視線をあげた。ちらっと、を見て。



『お前の気持ちだと?そんなもの関係ねぇんだよ。』


『なっ・・・関係あるでしょっ。私は、跡部君のこと、なんとも・・・思ってないし。』



キッと、跡部の目が鋭くなって、は言葉の語尾か小さくなった。



『今は、どうでもいい。お前は、俺を好きになる。そう、決まってるんだからよ。』


『どっどこから、そんな自信が湧いてくるわけ?信じられないっ』


『ふん。俺が本気で落としにかかるんだ。お前・・・逃げられるわけねぇだろうが。』


『え・・・?』


『俺様が本気なんだ。ありがたく俺のものになればいいんだよ。』



そう言って。跡部は、自信満々に微笑んだ。
は、返す言葉もなく。ただ、唇を震わせたのだった。





それが、3ヶ月前。



と宍戸が話をしていたら、着メロが流れてきた。


ジャンジャンジャジャーン ジャジャジャン ジャジャジャン♪


流れてきたのは、スターウォーズの『ダースベーダーのテーマ』だ。



「あっ、見つかっちゃった。」
「げっ、マジか?じゃあな、。」



宍戸は慌てて逃げていく。


溜息をついて、携帯を開いた。



「はい。」
『出るのが遅せぇんだよ。どこにいる?』


「売店前。何?」
『すぐ、部室に来い。5分以内だ。』


「はぁ?」



プツッ。切られた電話。ムカムカしながらも、足は部室に向かう。
まったく、なんて自己チューなんだ。親の顔が見てみたい。(見たことあるけど。)
などと思いながらも小走りになっている、


部室の前まで来て、息を整えていたら。また着メロが流れてきた。
ヤバッと、思ったときには遅かった。
勢いよく部室のドアが開き、腕を掴まれたと思ったら、強引に部室内に引きずり込まれた。


片手に携帯を持ったままの跡部。
のポケットからは、ずっとダースベーダーのテーマが流れている。



「はーん?お前、俺の着メロ。んなやつに設定してんだな。
 この前、ジローが爆笑してたってのは、それか?」


「だっ・・・誰が。そんなこと。」
「カバヂ」



げっ。隠密が潜んでいたか。やっと、携帯の着メロが止まった。


は、顔をしかめながら、跡部の腕から逃れようとする。
が、更に引き寄せられて鼻先をつき合わされた。思わず顔を背けると跡部の笑い声が聞こえる。



「な・・・何?」



おそるおそる、跡部を見たら。楽しそうな笑顔。



「くっ。確かに俺は侵略者だ。そうだろ?お前の心を侵略したんだからよ。」



その言葉に。は、体の力を抜いた。
今さら、抵抗しても仕方ないことは、この3ヶ月で学習済みだ。



「だろ?」



断定しながら近付いてきた整った顔に。もう、目を閉じるしかないことも学習済み。


冷たそうに見える態度とは裏腹に。熱い手に頬を包まれて、熱いキスを受ける。





そう。私の心は、侵略されて。もう、とっくに征服されてしまった。





この、俺様な侵略者に。





は思いながら。恋人のキスに酔った。




















「侵略者」 

2004.11.28




















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