二人乗り 〜跡部編〜
「なに?もう一遍、言ってみろ。」
跡部君が、不機嫌そのままの顔をして私を睨む。
でもね。これは、クジ。当たったら、たとえ跡部君であろうとも、従うのがルール。
「だから。私の自転車貸してあげるから、買出しに行ってきて。」
文化祭の飾りつけ最中。買出しに行こう・・・と言うことになって。
アミダクジを引いたのは、ついさっき。
「俺は、ひいてねぇ。」
「駄目よ。残りものでもいい?って、聞いたら。勝手にしろって言ったじゃない。」
「・・・お前が悪い。」
「なんで?」
跡部君の片眉が上がった。本当に、意地悪そうな顔。
「お前が残したクジが、はずれだったからだ!責任とって、俺と一緒に来いっ!」
「えーっ、ヤダッ!」
反抗はしてみたけれど。俺様の威力に敵うはずもなく。
クラスメイトに哀れみの目で見送られながら、教室を出た。
「跡部君。自転車さ、一台しかないし。いいよ、もう。私が行ってくる。」
「うるせぇ。行くといったら、俺が行く。」
「じゃあ、跡部君ひとりで行って来てよ。じゃあね。」
背を向けようとしたら、腕を掴まれた。
「逃げんなっ。お前も連れて行くといったら、連れて行くんだよっ。」
「なんで、そうなるの?」
無視された。さっさと、自転車置き場に歩いて行き「どれだ?」と、えらそうに言う。
「自転車は一台。どうするの?」
「決まってんだろ?二人乗りだ。」
「嘘っ。私が、跡部君乗せてこぐの?」
はぁ。と大げさに溜息をつく彼。
「俺様を自転車の荷台に乗せるつもりか?いい度胸だなっ」
「え?ちょっと・・・じゃあ・・・私を乗せるの?」
跡部君は、ニヤっと笑って。視線だけで肯定する。
「いや・・・それは。ちょっと。重いし。」
しどろもどろになって逃げようとする私を。
つべこべ言うなっっと。一喝し、彼は自転車に乗った。
おっそろしく自転車の似合っていない、俺様。
早く乗れ!腰につかまれ!もっと、しっかりつかまらねぇと、落っことすぞっ!などと、言いたい放題。
そして、今。私は跡部君と二人乗りしている。
跡部君の腰につかまり。ぼんやりと彼の背中を見つめる。
なびいている後ろ髪。形の良い耳。ほんのりと香るコロン。
どうしよう。胸が、壊れてしまいそう。ドキドキが止まらない。
彼に知られてしまいそう。
私の恋心。
ガタンッ。自転車が弾んだ。段でも構わずに走るから、お尻が痛い。
「ちょっと。もう少し、後ろの人のことも考えてよ?段は避けるもんでしょ?普通。」
いつもの憎まれ口を叩いて。なんとか、気持ちを誤魔化そうとする。
「ふん。お前みたいな女には、ちょっと刺激が必要なんだよっ。っていうか、お前。重い。」
「えっ、あっ、ごめん。お・・・降りるっ」
「ばーか。冗談だよ。お前、軽すぎ。ちゃんと、食ってんのか?」
「・・・食ってる。」
はは・・。と、跡部君が笑った。
ほんの少し垣間見えた横顔が。とっても、綺麗で。自然な笑顔だった。
あっ、ヤバイ。また、好きになってしまう・・・。
ぎゅっと目を閉じて俯いたら。
「おい。いい加減、素直になれよ?」 と、柔らかな音色の声。
「な・・に?」
「お前、バレバレなんだよ。いつ言ってくるかと思ってたけど、素直じゃねぇ。
俺もいい加減待ちくたびれた。」
私は顔を上げて。表情の見えない跡部君を窺う。
あーっと。ここを曲がるんだったか?なんて。
いつもと変わらない彼から出た、さっきの言葉の意味がはかれずに途惑う。
「おい。」
「・・・・・。」
「好きなら好きって、言えよ。」
瞬きを忘れた私に。彼の低くて、穏やかな声が続く。
「お前が好きだって言えたら。俺も、言ってやる。」
泣いてしまった。
ただただ、胸がいっぱいになって。
目指す店が見えてきた。それさえ、滲んでよく見えない。
「泣いてんじゃねぇよ。さっさと、好きだって言えっ。店に着いちまう。」
「跡部君。」
「ん。」
「好きです。」
胸の中にあった想い。今、解き放った。
「ああ。俺もだ。」
不似合いな自転車をこぐ、俺様の跡部君。
それでも。好きで好きで。憧れていた。
その想いが。彼に届くなんて。彼が応えてくれるなんて。
「おい、何を買うんだったか・・・覚えてるか?」
「うん。大丈夫。」
「もう、泣き止めよ。」
「うん。」
「俺が泣かせたみたいだろ?」
「泣かせた。」
「・・・・・。」
「ホントだもん。」
「てめぇ。あとで、可愛がってやるからな。覚悟しとけ。」
「・・・・・。」
自転車は走る。もうすぐ、目的地。
クラスメイトとして出発した私たちが。
自転車を降りるときには、恋人になっていた。
「二人乗り 〜跡部編〜
2004.12.16
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