あなたにあげる 〜景吾編〜










、寄こせよっ」
「なんで?嫌よ。」



夜の交差点で信号待ち。
その間も言い合いは止まらずに、景吾と私は睨み合う。


何処までもエラソウな景吾はフンと鼻を鳴らすと、
切れ長の瞳に信号の赤を写しながら顎を上げた。



「お前、分かってんのか?この俺様が、誕生日だからくれと言ってるんだ。
 さっきはプレゼントくらいあげると言っただろう?
 さっきだぞ、さっき。忘れたのか?バカっ」

「確かに、誕生日プレゼントをくれくれと子供みたいに言い続ける人がいるから、あげるといいました。
 でもね、それは私が買える範囲。あげられる物なんて、限りがあるでしょう?」

「なら、ピッタシじゃねぇの?タダだぜ?それに、すぐ渡せるだろうよ。」



笑いを含んだ声で言ったと同時に腕をつかまれた。
シマッタ、と腕を振り払おうとした時には抱き寄せられて腕の中。


景吾のコロンが鼻をくすぐり目眩がする。



こんな人の多い交差点で口げんかをしているだけでも目立ってたと思うのに、
場所も考えずに抱きしめられたら顔もあげられない。


近くの若い子が冷やかしの口笛を吹くのが聞こえた。



「離してっ」
「嫌だ。はやく、寄こすと言えよ。お前のすべて、俺にあげると言ったら離してやる。」

「ダメ・・・よ。あげられないわ。」
「なんでだ?」

「どう・・・しても、」



口を開けば開くたび、景吾の腕の力が強くなる。
体が痛い。でも、それよりもっと心が痛い。


直接胸から響いてくる景吾の声。
なんて残酷なのだろうと、涙がこぼれそうになった。



信号が変わったのだろう。
機械的な音が鳴り始め、人々が移動するのを感じる。


この腕から抜け出して、信号の向こうへ逃げなくちゃ。
頭では思うのに、体が動いてくれないの。
離して、と懇願しても、体を縛る手が緩むことなどない。



「お前、まだ聞いてないんだな。」
「なに・・を?」

「婚約なんてのは、もう解消したんだぜ?」



思わず顔をあげると、とても柔らかく見下ろしている瞳があった。


親同士の付き合い。幼馴染。学校の先輩。
そして・・・姉の婚約者。


近くて遠かった景吾が、私を見つめている。



「アイツにはアイツの相手がいる。俺には、お前がいる。
 親の決めた通りになんかならねぇもんだな。
 ま、俺はアイツの妹なんだから、まだいいんじゃね?」

「嘘・・・」

「お前、疑い深いな。気づかなかったのか?
 お前んとこのオヤジの秘書が相手だぜ?あれは、もめるな。」



あ、と思う。
姉が庭でバラの手入れをしている時、横を通りかがった父親の秘書が声をかけていった。
その時、姉がその人に向けた笑顔があまりに綺麗で、見惚れたのはいつだったか。



「ま、しかたねぇか。、お前はボケすぎだ。ちっとも周りが見えてねぇだろ?
 お前の気持ちなんてバレバレなんだよ。もう、いい加減・・・素直になってもいいだろう?」

「本当に?景吾は・・・私で、いいの?」

「この俺様が誕生日にかこつけて口説かなきゃなんねぇほど惚れてるんだ。
 観念しな。」



ああ、どうしよう。そのまま再び景吾の胸に顔を埋めてしまう。
信号は再び赤になったのだろう。
ひっきりなしに聞こえる車の音と周囲のざわめきを肌で感じる。


けれど緩まない腕。
私より頭一つ大きな景吾は、どんな顔をして信号待ちの人に紛れながら私を抱いているのだろう。



「おい、。」
「ん、」



胸に顔を埋めたままで返事をした。



「次、青になったら信号を渡るぞ。」
「ん、」

「だから、返事を聞かせろよ。」
「・・・・」

「俺の誕生日。お前をくれ。一生だ、」
「・・・・」

「早くしろ、青になっちまう。」
「・・・・」





「・・・あげる。」



ヨシ、と。
その昔、テニスをしていた景吾が試合に勝ったとき口にしていた言葉を聞いた。



また機械的な音が鳴り始め、人々が移動し始める。
景吾はポンと私の背中を叩き、腕を解いた。


ホッと、久しぶりに吸えたような気がする空気を胸に入れた途端、
肩を抱きこまれて横断歩道に体を持っていかれる。



「おら、さっさと渡るぞ。オアズケが長かったからな、このままお前を貰っちまう。」
「ちょっ、待って。」

「待てねぇ。」
「心の準備が、」

「んなもん必要ないんだよ。さて、どこに泊まるかな。」



とんでもないことを言い始めた人の横顔を見上げれば、



・・・それは幸せそうな顔をしていた。





















「あなたにあげる 〜景吾編〜」 

2005.10.04 

景ちゃん、おめでとう☆ 




















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