テーマSS Fever 〜跡部編〜
「あ、跡部君が、す、好きです。」
思いっきり噛みながらの告白。
初めての告白に緊張した口は上手く回ってくれなかった。セツナイ。
目の前の男、跡部景吾は腕を組んで仁王立ち。
片眉を少し上げて私の告白を聞き終わると、「へぇ」と言った。
へぇ、よ。へぇ。
乙女の告白に第一声が「へぇ」って。忍足君、聞いてる?
さぁ、今からどんなに酷い言葉でフラレルのか。
心を鋼にして耐えよう。
とにかく罰ゲームはクリアしたのだ。
フラレタあとの言い訳もちゃんと準備してある。タ゛イシ゛ョーフ゛。
私の涙腺、頑張れ!
「で、俺のどこが好きなんだ?説明してもらおうか?」
「へ?」
「俺が好きなんだろ?どこがだ?」
「どこって・・・」
私は黙り込んだ。というより、真剣に考えていた。
この男のどこが好きなんだろうか?
容姿は、まあ十人並みだが派手すぎ。私的には宍戸君くらいが好ましい。
運動、勉強、家柄。何をとっても非のうちどころがないが・・・それも出来すぎてると付き合いにくい。
性格は・・・ハッキリ言って悪い。
「おい、何をそんなに考え込んでやがる?」
「あ、いや。いいところが無いなぁと思って。」
「なに?」
「どこがいいんだろう?」
「てめぇ、俺にケンカうってんのか?」
「そんなこと言っても、急に難しいこと聞くから。」
跡部君はイライラと組んだ手と靴先を動かしてる。
おまけに短気なんだよね。
こんな男なのに、どうして好きになっちゃったんだろう。
「なんか理由は思いつかないけど、摩訶不思議な魅力に惹かれたということで。」
「なんだ、それ」
「とにかくもういいから、さっさとフってくれるかな?」
忍足君や宍戸君、岳人君、ジロー君だって、校舎の影で待ちくたびれてると思うの。
「そんなに俺様にフラレたいのか?」
「そういうわけじゃないけど時間もないし。嫌な事は早く済ませようと思って。」
「ふーん。それほど嫌なヤツに、よく告ろうと思ったな。余程ヒドイ罰ゲームと天秤にかけたのか?」
ギョッとした。
罰ゲームの事をどうして?と頭を駆け巡れば、表情を見てとった跡部君が鼻で笑った。
「ふん、やっぱりな。どうせ、忍足あたりに、はめられたんだろ?お前、とろいからな。」
ぐっと言葉につまった。
『やった〜、罰ゲームはだぁ!』
『酷すぎる・・・みんなグルでしょう?』
『まさか。さて、罰ゲームは何にしようか?』
『が一番嫌がりそうなのがいいよな、』
『俺ら全員を引き連れて焼肉食べ放題とか!』
『無理!絶対、無理だって』
どの罰ゲームも、ありえないものばかり。
ワルノリしたジロー君や岳人君に、忍足君が苦笑しながら提案した。
『そうや、なら・・・跡部に告白でもしてきて貰おうか。
お前、跡部のこと苦手みたいやし・・・ええ罰ゲームになるやろう?』
『あ、それ面白そう!跡部が、どんな反応するのか見てみたいC〜』
もちろん嫌だと言った。
半泣きになりながら嫌がったけど、意地悪な皆は許してくれなかった。
だって、本当に好きな人に罰ゲームで告白するなんて。
私は跡部君が苦手なんじゃなくて、好きだから・・・気持ちを隠すために無愛想になってしまうだけなの。
皆に押し切られてしまった後、すごく迷って考えて。
いいのかもしれないと思った。
このままだったら、絶対に告白なんて出来ない私の恋。
罰ゲームにかこつけて、フラレてすっきりするのも一つかもしれないと思った。
フラレても『実は罰ゲームだったのよ』って、笑って誤魔化せる。
これはある意味、とてもいいチャンスだとも思えた。
そして、今。
私は、ここにいる。
黙り込んだままの私に、ひとつ溜息をつく跡部君。
一言、とても冷たい声で私に言葉を投げた。
「お前なんかに告られても嬉しかねぇ。」
心臓かな、胃なのかな。それとも、心?
とにかく。胸が、ぎゅうーって痛くなった。
痛くて痛くて、我慢できなくて。制服の胸の辺りを無意識に押さえる。
「冗談でも俺に告ろうなんて、百年早いだろ。」
「ウン。そうだね、」
口角を無理矢理持ち上げたつもり。
鏡の前で練習した通りに作り笑顔を浮かべた。
なのに、笑ってる頬に涙が滑り落ちていった。
ハッとして、流れてきた涙を拭う。
「お前・・」
「あ・・、コンタクトがズレちゃったみたい。とにかく、これで終わったから。ご協力アリガトね!」
早口で言うと、すぐに背を向けて走り出す。
涙よ、止まって!
前がよく見えないから。
隠れて見てる他の皆に疑われるから。
お願い!
止まらないどころか、もっと流れ始めた涙はどうしようもなくて。
漏れる嗚咽を抑えながら走った。
「待てよ!」
後ろから肘を掴まれて引っ張られた。
バランスを崩した体を強引に反転させられたら、そこには跡部君の眉根を寄せた顔があった。
「お前、罰ゲームじゃなかったのかよ?」
「そ・・だよ、」
ボロボロ泣きながら取り繕って何になる?思いながらも答えるしかない。
「なのに、なんでそんなに泣いてんだ?」
「だからコンタクトがね、」
「お前、視力いいだろうが。それにコンタクトがズレたくらいで、それほど悲しそうに泣くかよ、フツー。」
「そうだね。おかし・・・ね。」
しょうがないから、また無理矢理に笑ってみた。
そうしたら、眉をしかめた跡部君が心底呆れたかのように呟いた。
「馬鹿。俺が気にいってる笑顔は、んな泣き笑いじゃねぇぞ。」
「気に・・いって、る?」
「お前はもっとノーテンキに笑ってんだろ。最近、俺の前じゃあ・・不機嫌な顔ばっか、しやがって。
嫌われてるのかと思って、本気でイライラしたんだ。
けど周囲のヤツらが、お前がいつも俺を見ているっていうから・・・俺も賭けてみる事にした。」
賭けって?首をかしげる私の頬に、いつもラケットを握りしめている手が伸びてきた。
無意識に逃げようとする体は、掴まれたままの肘を引き寄せられてしまって動けない。
少し硬い手のひらが優しく左頬を包んだ。
そして、そっと親指が涙を拭ってくれる。
「お前の本心を聞かせてみろ。そうすれば、俺の本心を教えてやらない事もない。」
「なに・・それ、」
「言えよ。お前が、本当に好きなのは誰だ?」
「好きな・・・人?」
「早くしろ。俺は、気が短いんだよ」
口はエラソーなのに。
なんて優しい目で私を見るんだろう。
なんて優しく私の頬に触れてくるんだろう。
ああ、そうだ。
私が跡部君を好きになった理由・・・分かったよ。
あなた、本当はとっても優しいの。
優しいのに、それを隠すかのように意地悪言うのよ。
何度も出来の悪いマネージャーの私を叱りながら庇ってくれた。
落ち込むたび、更に落ち込ませるような小言を言うくせに、翌日にはちゃんと失敗をフォローしておいてくれた。
気づかれないように。
他人に気を遣わせないように。
いつも周囲に目を配って、さりげない。
そんな跡部君だから、あれだけの数の部員が集い、信頼し、ついていってた。
だから、私も好きになったの。
「私・・・」
「ああ」
「私は・・・跡部君が・・好き。本当に・・・好きなの。」
「よく出来ました」
笑いを含んだ跡部君の声を彼の胸から聞いた。
優しく、とっても優しく抱き寄せて。ポンポンと頭を軽く撫でられる。
『俺の中にある熱は、これからたっぷり教えてやるよ』
そう耳元で囁かれ、私の体温は既にfeverしていた。
「テーマSS Fever 跡部編」
2006.04.05
終わった!難しかった!
テニプリ短編TOPへ戻る