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Fever 〜観月編〜









「み、観月君が、す、好きです。」





思いっきり噛みながらの告白。
こんなに緊張したのは入試の面接以来ではないかと思う。
心臓が破裂するんじゃないかと思いながら、観月君の顔をおそるおそる上目遣いで見てみる。


彼は・・・これ以上ないというほど不機嫌な顔だった。



「それで?何の罰ゲームなんですか?」
「罰・・ゲーム?」


「いい加減にしてくださいよ。
 君たちの馬鹿らしい冗談に付き合うほど僕は暇じゃありません。
 あなたに『好き』だと言われたら、僕が喜ぶとでも思ってたんですか?
 おあいにくサマ。あなたに告げられても、可笑しくも悲しくもありませんよ。
 そう柳沢と木更津に伝言しといてください。」



観月君は腕を組んだまま、長い前髪を指に絡めながら冷たく言った。


今日が三年生の登校最終日。もう卒業式の前日まで会えない。
おまけに観月君は特別クラスだから、下手したらずっと会えないまま卒業を迎えるかもしれなかった。


だから勇気を出して告白したのに。
酷いフラレかたしちゃった。



「話はそれだけですか?こんな事で貴重な時間を取られて、まったく」
「観月・・・君、」


「なんですか?まだ、何か・・・さん?」



観月君の顔が水の底に沈んでいく。
ちょっと驚いた顔してる観月君、ゴメン・・・泣けちゃう。



「さ・・・三年間、あんまり役に立たなかったけど・・・テニス部の・・マネージャーで、きて・・・よかった。
 ほんと・・に、ありがと、ね。」



最後は言葉が上手く出なくって、つまりながら言い切った。
ペコリと頭を下げると、そのまま観月君の顔を見ることもなく逃げ出した。





走って、走って、避難用の外階段を駆け上がって。
息が切れて、嗚咽と一緒になって呼吸困難になるまで昇った。
激しく咳き込み階段の踊り場で足が止まる。
ゲホゲホと咳をして、しゃくりあげながら顔をあげたら、遠くに青々としたテニスコートが見えた。


今は無人のテニスコート。
緩められたネットが風に揺れている。


あの場所に観月君は立っていた。そして私も。
私は重いボールのカゴを抱きしめて、コートの周囲を走り回っていたんだ。
いつも・・・いつも、観月君の姿を視界の隅に収めながら。



思い出と一緒に、また涙が込み上げてくる。
フラレルのは覚悟していたけれけど、ここまで嫌われてるなんて思いもしていなかった。


いつも観月君は優しかったから。
厳しいようでいて、常にマネージャーの私にまで気を配って労ってくれた。
三年生の引退が決まった最後の試合の日。


観月君は泣いてる私の肩を軽く叩いて『ありがとう』と言ってくれた。
私も『ありがとう』って言いたかったのに、泣いて上手く言えなくて。


振られたけど・・・ありがとうが言えただけでも良かったと思う。
そう思っても、やっぱり悲しくて涙は止まらないけれど。



私は踊り場の冷たい柵に顔を突っ伏して泣いた。
ここは5階。まだ春と呼ぶには冷たい風が体を包むけれど、もうどうでもよかった。





終業のチャイムが鳴る。
下級生達は、これからHRだろう。
三年生は、その殆どが既に下校しているはず。


こんな情けない顔を人に見られる前に帰ってしまおう。
そう考えて、やっと身を起こすとハンカチで涙を拭った。
濡れた頬を風が撫でる。



大好きなテニスコート。
大好きな観月君、バイバイ。



心の中で別れを告げ、階段を降り始めた。
だが、気がついた。
風の音と一緒に下からカンカンと響いてくる靴音。


誰か来る!焦っても上に行くしか逃げ場がない。
各階に入る非常ドアは中から鍵が掛かっていて開けられない。
どうしようと迷っているうちに、慌てた足音は一気に階段を駆け上がってきていた。


翻ったコートが視界に入った。
そのコートを着て息を切らせている人は、・・・なんで?



「・・よくも、こんなに走らせましたね?」



観月君は顔をしかめて言うと、両膝に手をついて肩で息をする。
なぜ彼がそんなに走ってきたのか、今更私に何の用事があるのかは分からない。
頭は真っ白なのに、心臓の鼓動だけが耳に響くほど打ち始めた。



「それもまた分かりにくい所へ身を潜めて。偶然に見上げなければ見逃すところでした。」
「ゴ・・ゴメンナサイ」



頭は回っていないが、彼に迷惑をかけたらしいと謝る。
すると数段下の踊り場から見上げてくる観月君が、ふっと目元を和らげた。



「でも・・・見つけられて良かった。」
「どうして、」


「話しておきたいことがあったんです。」
「なに・・・?」



観月君は足を階段にかける。そして一段、また一段と階段を昇ってくる。
私は徐々に後ろに下がっていった。



「逃げないで!」



急に観月君が大きな声を出したから、私の体は電気にでも打たれたかのように跳ねて動かなくなる。
また、緩くなった涙腺から涙が溢れてきそうで鼻の奥がツンとした。



「あ・・違うんです。僕は怒っているわけじゃない。話を聞いて欲しいから、逃げて欲しくない。いいですか?」



コクコクと頷けば、少し表情を柔らかくした観月君が私の前まで昇ってきた。
向かい合ってしまえば、もう顔が上げられない。



「顔を上げてくれますか?」



駄目。と、頭を横に振ったら、また涙が零れた。
観月君が溜息をつく気配がする。
俯いた私の視界には、観月君のピカピカに磨かれた革靴と風に靡く彼のコート。



「じゃあ、いいです。そのままで聞いてください。
 僕はね・・・ある誤解をしていました。
 数日前、柳沢と木更津が悪巧みをしているのを偶然に寮で聞いてしまったからです。


 それは・・・あなたに関することだった。
 あなたをそそのかして、僕に告白させてみようみたいな話でした。」



そんなこと、知らない。
私は小さく「違う、」と呟いて首を振った。



「分かってます。さっき、二人に確認しました。
 だから、あなたに謝りたかった。僕の誤解で傷つけてしまったのだから。」



そっか。だから、あんなに怒ってたんだ。
少しだけ心が軽くなった。観月君、わざわざ謝るために探してくれたんだ。
安心して零れた涙を指で拭う。



「なんだか頭に血が昇ってしまって冷静さを欠いてしまってたんです。
 僕らしくもない。分かっていたのに怒りを抑えられなかった。
 カッとして、心にもないことを口走ったと自覚しています。


 でもね、それは誰でもない・・・あなたのことだったからです。
 あなたの口から偽りの好意など聞きたくなかった。
 とてもじゃないけど、笑って聞き流すなんて出来なかった。


 だって、僕は・・・あなたを、」





とても強い風が外階段に吹きつけた。
頼りなく立っていた私は風にあおられて一歩よろけた。
その体を瞬時に観月君の手が支えてくれる。
思わず顔を上げれば、とても真剣な目をした彼が私を見つめていた。



「体が冷えきっている。」



呟くと、観月君が自分の着ているコートを脱ぎ始めた。
何を?と見ている間に、そのコートは私の肩にかけられた。



「観月君、でも」
「いいから。少しは温かいはずです。」


「駄目よ。観月君が寒いから、」



着せ掛けられたコートを除けようとしたら、その手に白くて節のある長い指が重なった。
観月君の手、と認識したのは一瞬。
体が自分の思ってる方向とは違う方に傾いて、トンと硬い肩にぶつかった。
気づけばコートごと観月君の胸に抱きしめられていて、あまりの熱に眩暈がした。



「こんなに冷えて。コートぐらい着てから逃げ出せばいいものを。」
「そ・・そんな・・余裕なくて、」


「いいですよ。僕が温めてあげます。」
「み、観月君?」


「僕も、あなたと同じ気持ちだから。
 冗談でなんか許せないほど・・・あなたが好きなんですよ。」





     泣かせてしまって、ゴメンナサイ。





観月君は、そう言うと腕の力を少し強くした。




















「テーマ Fever 観月編」  

2006.04.05 

このテーマ。苦しくなってきた。




















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