テーマSS 
Fever 〜真田編〜










「さ、真田君が、す、好きです。」





思いっきり噛みながらの告白。
言った途端に真田君の目がカッと開いて怖かった。
怒られる!と目をつぶって身を縮めたけれど、いつもの「たるんどるっ」は聞こえてこなかった。
おそるおそる瞳を開けば、そこには眉間に皺を寄せ考えるような表情の彼。



「あの・・・真田君?」
「ん?なんだ?」


「さっき言ったこと・・・あの・・・」



フラレルにしても、受け入れられるにしても(確率は非常に低いだろうけど)、やっぱりキチンとした返事は聞いておきたい。
自分にこんな勇気があるとは思っていなかった。
いや・・・ある意味、破れかぶれとも言える暴挙だと思う。


それでも言いたいと思った。
なぜなら、もうすぐ真田君がアメリカへテニス留学すると聞いたからだ。


私たちは三年生。
今からテニス留学をすれば、もう卒業は共に迎えられないだろう。
そうしたら、ニ度と会えなくなる人かもしれない。


思い至ったら、どうしても想いを告げてみたくなった。
片想いは中等部から続けて5年。
ここで頑張らないと絶対に後悔すると思った。



「返事、欲しいんだけど。」



もう泣き出しそうになりながら声を絞り出した。
相変わらず難しそうな顔をした真田君が「うむ」と言って、曲がってもいない胸元のネクタイを直す。
緊張した。体中が心臓になったみたいにドキドキしてる。


そして、真田君のくれた返事は。



「すまん。さっきのは無かったことにしてくれないか?」
「え・・・?」


「今は無かった事にして、放課後に俺が・・」
「いっ、いいの!真田君の気持ちは分かった。ありがとうね、も・・もう、いいからっ」



私は超早口で捲くし立てると「ホント、いいから」と笑って手を振り真田君の前から駆け出した。



「待て、!」



真田君の声が聞こえたけれど、立ち止まる事も振り向く事も出来なかった。
視界は歪んで前がよく見えないけれど、とにかく一秒でも早く真田君から離れたかった。
しゃくりあげながら体育館の裏に逃げ込み、そのまましゃがみ込む。



失恋した。
ウン。こういう事態になるってことは予想してたよ。


でも・・・無かったことにしてくれなんて。
ずっと長く想ってきたことまで拒否されたような気がして酷く悲しかったの。
せめて『ありがとう。気持ちは嬉しいのだが』ぐらいにソフトな振り方をしてくれるかな、なんて甘く考えていた。
だって実際に隣のクラスの子は、そう言って断わられたと聞いていた。


ねぇ、そんなにも迷惑だった?
会うと挨拶して、少しぐらいは立ち止まって他愛ない話をしてくれたのに。
テニスの応援に行ったときも、翌日には廊下で「昨日はありがとう」って必ずお礼を言ってくれた。
迷惑だったのなら、もっと冷たくしてくれればヨカッタのに。



「真田君の・・・馬鹿、」



小さく呟いてから、思いっきり泣いた。



どれくらい泣いただろう。
始業のチャイムはとっくに鳴って、それでも私は動かずにメソメソしていた。
今日は幸いな事に体育館を使うクラスもないようだ。
こんなに悲しくても、空は真っ青で白い雲がふわふわと流れていて気持ちよさそう。


ハンカチで垂れてくる鼻水を押さえながら空を見上げていたら、急に影が後ろから伸びてきた。



「こんな所に隠れていたのか・・・人騒がせなヤツだ。」



弾んだ息を混ぜて発せられた声に振り返る。
そこには、予想通りだけれど信じられない人物が立っていた。



「どうして・・・もう授業は始まってるよ?」
「知っている。お前だって、サボっているだろう。」


「だって、」



真田君はジッと私の顔を見ると眉根を寄せて目を伏せた。
隠しようもない泣きはらした私の顔に困っているのだと気づく。



「探さなくて・・いいのに」



そうよ。迷惑なくせに、なんで授業サボってまで探しに来るの?
誠意なのかもしれないけれど、今更こんな優しさをかけられても嬉しくないよ。



「いや。どうも俺の言い方が悪かったと思って訂正に来たんだ。」
「訂正?」


「うむ。お前からみればつまらぬコダワリだろうが、俺にとっては譲れない事だった。
 それが誤解を与えたようだったので、訂正をしたいと思ってな。」



意味が分からない。
ハンカチを口元にあてたまま、真田君のほうに体を向けた。
彼も遠慮がちに私の前に立つ。


ああ、背が高くて大きな人だと。
さっきフラレタ相手なのに、胸がドキドキしてしまう自分の恋心が切ない。


もう一回、今度は優しく振るつもりなのかしら。
そんなことされたら、盛大に泣いちゃうんだから。



コホンと、真田君が咳払いをした。
私も覚悟を決める。



「訂正なのだが・・・・」
「はい」


「無しにしてくれ・・・と言ったのは、決して・・・お前がどうのとかいう理由ではない。」
「私が、どうのって。どういう、意味?」


「あ、いや。つまりは、嫌いとか・・そういうことではない。」



とても言いにくそうな真田君が視線を空に向けてから、大きく息を吐いた。
次には意を決したように私の目を見る彼に心臓が跳ねる。



「ここまできたら仕方ない。ハッキリ言う。俺もお前が好きだ。」
「嘘・・・」


「こんなこと、嘘では言えんぞ。アメリカから帰ったら告げるつもりだった。」
「アメリカから帰るって・・・ずっと行ったままなんでしょう?」


「何の話だ?高校の選抜メンバーで渡米して2週間ほどで帰国するんだぞ。うちからは幸村と俺だ。
 この選抜が終われば、ひとまず高校でのテニス生活は終わりだから・・・そうしたら告げようと思っていたのに。
 俺の計画を無視して、お前が先に告げてくるから困ってしまった。」



私は唖然として立ち尽くしていた。
私の悩んだ時間。私の流した涙。あれは、いったい・・・



「ちゃんとケジメをつけてから、やはり男である俺から気持ちを告げたかった。
 だから、今のはひとまず無しにしてという意味で言ったのに、お前は人の話も聞かず逃げてしまったんだ。」



なんだか真田君は先に告白した私が悪いんだと言う口ぶりで胸を張っている。


酷い。なんてことなの?
好きな相手に好きだと言われたのなら素直に受け取ればいいじゃないの!



「さ、真田君の馬鹿!アメリカでも、どこでも行っちゃえ!」
「なっ、なんだ」


「もう知らない!悲しかったんだからっ!アメリカなんて遠くへ行っちゃって、もう会えないって・・・だから、私っ」



だから、わたし・・・好きだと言いたかったのよ



肩を掴まれたのは分かった。
強い力で、肩に鈍い痛みが走ったから。


気づいたら、私の体は大きな腕と胸に包まれて温かかった。





温かい・・・ううん違う。
熱いほど、強く抱きしめられた。





大好きな人の熱に包まれて。
私はシアワセだった。





















「テーマSS Fever 真田編」  

2006.04.04




















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