ふたり・番外編 〜ネクタイ〜
「おい。っ」
「ん?あ・・・はーい。」
トコトコとが近付いてきて俺の襟元に手を伸ばした。
そして、制服のネクタイを締め始める。
慣れた手つきでいい具合に締めると、少し離れて見て満足げに頷いた。
「うん。出来上がり。」
「まっ、こんなもんだろ。」
そう言って、俺はすぐ結んだネクタイに指をかけて緩める。
はじめは『景ちゃん、酷いっ。せっかく結んだのに。』と拗ねていた、も。
もう慣れてしまって何も言わない。用事が済むと、さっさと自分の席に戻っていった。
「跡部。前々から注意しようと思うてたんやけど。
いちいち、ちゃんにネクタイ結ばせるの止めたらどうや?」
また、忍足が文句を言う。コイツは、のことに口を出すから気にくわねぇ。
「お前に指図される理由がねぇ。自分の女に何をさせようと勝手だろ。」
「お前な・・・。自分で出来ることは自分でしましょう。
子供でも知ってるで?甘えるのも大概にせんとな。」
「はぁ?てめぇ。誰に向かって言ってんだ?」
「お子ちゃまの俺様にやっ」
「・・・・。」
忍足と睨みあう。お前が、に惚れてることぐらいお見通しなんだよ。
「ちょっと、どうしたの?ケンカは、やめてよっ」
俺たちの様子に気がついた、が間に入ってくる。
「うるさい。お前は、あっちに行ってろ。」
「景ちゃん?」
「ちゃん。俺のネクタイも結んでくれるか?」
「忍足っ!」
この状態で、にっこり笑った忍足の図々しい言葉にカッとする。
人のいい、を止めようとしたら。
「ゴメンね。私、景ちゃんのネクタイしか結ばないの。そう・・・決めてるから。」
は、すまなそうに忍足に言った。
忍足の目が大きくなる。
アイツも、まさか断わられると思っていなかったのだろう。
幼い子供のは誰にでも優しいから。
「はぁ。いや、なんで?」
「私、景ちゃんの奥さんになるって決まってるから。
景ちゃんのネクタイしか結ばないの。」
「あ・・・さよか。」
俺も一瞬驚いた。けれど次に沸いてくる可笑しさ。
「く・・・・あはははは。残念だったな。忍足。」
「ちゃん。ホンマに、こんな男と結婚するんか?まだ高校生やし、考え直すチャンスはあるで?
親が決めた結婚なんて、今の時代にナンセンスや。」
忍足は、の肩を掴んで説得を始める。おいっ。
「親の決めた結婚だけど。親だけが決めたんじゃないよ。ねぇ、景ちゃん。」
が俺を見上げるから。忍足の手を払い落として、を抱き寄せた。
「そういうこった。人の婚約者に気軽に触るんじゃねぇよ。」
「刷り込みやな・・・可哀相に。ちゃん、最初に見た男が跡部やったんが不幸や。」
「忍足っ」
「ああ、はいはい。邪魔者でした。さいなら。」
「景ちゃん、刷り込みって?」
「バカの言葉を真剣に受け取るな。お前は俺の言葉だけ聞いてりゃいいんだよ。」
「それも・・・なんかなぁ。」
「っ」
が、クスクス笑う。お前、分かってて聞いてるだろ?
刷り込みだろうが親が決めようが、関係ねぇんだよ。
俺とお前。ただ、一緒にいたいから一緒にいる。一生、傍にいたい。いて欲しい。
それだけだ。
「おい。5時間目体育だ。忘れんなよ。」
「移動教室の前だね。じゃあ、渡り廊下で結んであげる。」
「いいぜ。」
中等部から締めるようになったネクタイ。不器用なに教えた甲斐があった。
忍足、知ってるか?
は、俺のネクタイは結べても。自分で自分のネクタイは結べないんだぜ。
俺のネクタイは、俺の女が結ぶ。
最高の贅沢だろ?
ネクタイ
2004.11.7
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