〜「ふたり」番外編〜 唯一の花
「は?」
玄関に入るなり問う。
いつもは俺が帰ると直ぐに出てくるアイツがいねぇからだ。
「様は裏で何やら作業をされております。」
「まったく。出迎えにも出てこねぇで、何やってんだ。」
舌打ちしながら長い廊下を突っ切って、光りが溢れるバルコニーから外に出る。
いた。小さな背中が花壇の前でしゃがみこんでいる。
その隣でアレックスが不思議そうに主の行動を覗き込んでいた。
俺の気配に気づくのは犬のほうが早い。
アレックスは目ざとく俺を見つけて『ワンッ』と吼えると全速力で向かってきた。
おいおい、と思った時には飛び掛ってきている。
まったく・・・主の躾けがなってないから、いつまでたっても頭が子犬のままなんだよ!
顔中をこれでもかっと舐めてくるアレックスを撫でてやりながら顔を上げると、が笑って近づいてきた。
「おかえり。今日は早かったんだね。」
「てめぇ・・コイツなんとかしろよ。訓練所にでも通わせろっ」
「いいの、チョビはこのままで。この子供みたいなところが可愛いんだもん。」
子供のお前が言ってんじゃねぇよ。
「で?お前は何してたんだ?」
「うん?えへへ。チューリップの球根植えてた。」
「はぁ?そんなもん、専門の奴に頼めばいいだろ?」
俺の言葉には呆れ顔だ。
えらそうに俺の前に人差し指を立てるとチッチッと振ってみせる。
覚えてろ。後で泣かしてやる。
「景ちゃん、分かってないねぇ。
自分で植えて、自分で世話して咲かせてこその花だよ。
誰かが植えて誰かが咲かせた花じゃ、特別じゃないでしょ?」
「特別?」
「秋に植えた球根が春には咲くよ。それは私が育てた・・・唯一の花でしょ?」
秋の陽射しの中で、がニッコリと微笑んだ。
俺に飽きたアレックスは芝生の上を走り回って遊んでいる。
クッ・・と笑いがこぼれた。
「なに?」
不思議そうに俺を見上げてくる恋人。
幼馴染のお前。
幼いお前。
何年も・・・ずっと見てきた俺。
お前と生きていくことはもう決まってる。
いずれは親が決める事だったかもしれない。
けれど、違う。
親が決めなくても俺が必ず決めていた。
「俺も育ててるぜ。唯一の花を、よ。」
「ええ?景ちゃんが?へぇ、意外。なにを育ててるの?」
「さぁ、な。とにかく手がかかる花だぜ、バカだしな。」
「手がかかって・・・バカ??????」
?マークを飛ばしている姿も愛らしい。
お前は俺が育ててやるよ。
誰にも触れさせはしない。
俺だけの手で綺麗に咲かせてやる。
お前は特別。
俺にとっての『唯一の花』だから。
「おいっ。手袋しなかったのか?爪に土が入ってるだろうが。」
「だって・・・面倒くさかったし。土って感触がいいじゃない?泥んこ遊び思い出しちゃって、つい。」
「お前はバカか?肌が弱いんだから考えろ!おらっ、中に入るぞ。その爪、さっさと綺麗にしろっ」
「まだ、チューリップに水をあげてないもん。」
「ほっとけ。もうすぐスプリンクラーがまわるだろ。」
「えー。自分であげたかったのに。」
「明日からにしろ。とにかく手を洗えっ、手!」
嫌がるの手を引きながら、本当に手のかかる女だと溜息がでる。
まぁ、それも悪くねぇ。
春。
お前の植えた唯一の花を俺も楽しみにしててやるよ。
部屋に入る俺たちに気がついてアレックスが慌てて走ってくる。
そんな、秋の午後。
「唯一の花」
2004.11.3/2007.02.04
テニプリ連載TOPへ戻る