「もう一つの花」番外編  〜もう一度〜










バカなことを言ってしまったの?


ううん。でも・・・あの日、言わなかったとしても。


きっと、いつか口にしてしまっただろう。


切実な願いだった。


心から・・・願ったことだったから。





  『片岡さんの声が聞きたい』





泣いてしまった私を片岡さんは優しく抱きしめてくれた。
あたたかい腕だった。
大きくて広い肩に額をつけた私をずっと抱きしめて髪を撫でてくれた。



嬉しかった。
体の中に片岡さんの優しさが注がれて満ちてくるような。
そんな抱きしめ方だったと思う。




けれど。



じゃあ・・・また。とポプラ並木の下で、いつものように手を振って別れたまま。


片岡さんとの連絡は途絶えた。





メールを送っても返事が来ない。
始めは忙しいのかな?と、思った。


毎日几帳面に朝と夜、送られてきていたメール。
それが何の前触れもなく、パタリと消えたことに不安が募った。


まさか、事故とか?
毎朝、新聞に目を走らせるが、そんな記事はない。


海外に出張になったのかな?
だけど、今までそんな時には必ず行く前にメールをくれていた。
急に何かトラブルがあってメールする間もなく海外に・・・とか?
そう。きっと、そうだ。



自分を無理矢理に納得させて5日が過ぎた。





返事が来ないとメールも打ちにくい。
何度も携帯を開いてアドレスを呼び出しては溜息を落とす。



どうしよう?
まさか・・・避けられてる?



掠めた不安。
あの日。自分の感情を片岡さんにさらしてしまった自覚がある。


はっきり『好きです』などと伝えたことはないけれど。


メールの端々に表される気持ち。


あの日、『片岡さんの声が聞きたい』と泣いたことできっと私の気持ちは片岡さんに伝わったと思う。


だから?



そう思うと胸が苦しくて苦しくて
うまく笑えなくなってしまった。





6日目に。思い切って片岡さんの会社に寄った。
始めから片岡さんの会社に行こうと出かけたわけじゃなかった。
けれど『次の駅で降りたら片岡さんの会社だ・・・』と思ったら足が勝手に降りてしまった。


迷いながら躊躇いながら見上げたビル。
でも『確かめたい』と言う気持ちのほうが『怖い』に勝った。


片岡さんが日本にいるのか。元気なのか。それだけを確認しよう。
そう、心に決めてビルの自動ドアをくぐった。





帰り道。
夕焼けが、とっても綺麗だった。


西の空に大きな太陽が沈んでいく。
空は燃えるような朱色と黄色に染められて。
ビルが、窓が、車が、木々が。みんな、みんな。黄金に輝いていた。



『綺麗・・・』



世界は美しかった。
そして、どんなに私が悲しくても。
世の中は、いつもと同じように回っているのが切なくて。それでいて慰められた。



片岡さんは日本に居て仕事をしている。



受付で、それだけを確認して逃げるようにビルから飛び出した。
答えは出た。



連絡を絶ったのは彼の意思だ。



私の想いは迷惑だったのだと。



片岡さんから見れば幼い私から恋心をぶつけられても困っただろう。
優しい人だから・・・直接に断わることができなかったのだろうか。


ううん、だって。まだ『好き』とも言ってなかった。
雰囲気では伝わっても、告白もされてないのに断われないよね。


気持ちを察して、離れたんだ。



私が障害を持っているから?
頭を掠めた思いは、浮かんでくるたび打ち消して。





その日から。片岡さんにメールを送るのは止めた。



それでも時々思ってしまう。



もしも・・私の耳が聞こえていたなら
あなたは愛してくれましたか?と。



そのたび、自分に刃を向けている気がして・・・泣いてしまう。


こんなことで泣いちゃダメ。
こんなことで傷ついちゃダメ。


私はもっと強いはずよ。



ただ想いが重ならなかっただけ。そんな事だってある。



夕暮れに店の前の枯葉を箒で掃く。
あれから私は夕焼けに背中を向けている日々。


後ろから街中の色を変えていく夕焼けは、今の私には痛すぎる。




ふたりで見たポプラも夕焼けに染まっていた。





もう一度
あなたに会いたい。
あの優しさに触れたいと思ってしまう。


叶わない想いと知りながら。
すぐには、あなたを知らなかった頃の私には戻れない。
ううん。きっと、二度と戻れないね。





もう一度。
もう一度。





ただ、見つめるだけでいい。



会いたいよ。



見上げた黄金のポプラは歪んだ視界に輝いていた。




















「もう一つの花・番外編〜もう一度〜」  

2005.04.19  

もしも、なんて無いことは知りながら。考えてしまう、もしも




















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