確率は100パーセント 新婚編2












乾には時々だが出張がある。
私とは全く職種が違うので良くは分からないが、乾はそれなりにデキる男らしい。



、いいかい?インターフォンが鳴っても簡単に出ちゃ駄目だ
 宅配業者になりすましていることもあるから、荷物は俺が帰ってから受け取ること」


「はぁ?生ものだったら困るじゃない」
「生ものは向こうが管理してくれるさ。それにウチに生ものを送ってくる奴なんかいないだろう?」



溜息が出る。
しかし乾は更に続ける。


明日の朝は早い。
さっさと寝てくれと心の中で念じるが、乾は淡々と留守中の心得について語り続けている。



「あと俺がいないからって飲みに行くのは禁止だ」
「なんでよ!?」



久しぶりに飲みに行かない?
そう職場の同僚に誘われたのは昼のことだった。


まさか、盗聴?
思わず自分の体をバタバタと探ってみた。



はアルコールが入ると危なっかしいから」
「いくらなんでも泥酔するまで飲もうなんて思ってないわよ」


「泥酔なんてもってのほかだよ。それに、ほろ酔いが危ないんだ」
「もういいから寝なよ」



アホらしくなって手を振った。
乾を置いてソファーから立ち上がり、寝室に向かう。
当然の如く乾もついてきて、人の後ろから顔を覗きこんでシツコイ。



「この前のことを忘れたのか?」
「この前って、どの前よ」



虫でも追い払うように乾の顔を押しのけて、寝室のノブに手をかける。



「ほら、お花見の時」



ハッとする。
振り返ると嫌になるぐらいニヤけた乾がいた。



「貞治・・キスしてって、から」
「わあぁぁぁぁぁ。あ、あれは日本酒を飲み過ぎて」



乾の口を両手で押さえる。
だけど直ぐに大きな手に捕らえられ、目の前には蕩けそうな笑みを浮かべた乾がいた。



「ああいう顔を見せるのも、言うのも俺以外には許さない。だから、駄目」
「い、言うわけないでしょ?それに女友達と」


「それでも駄目だよ。どこで誰が見てるとも分からないし、あんな可愛いは絶対に見せたくない」
「でも、でもね」






優しく名前を呼ばれ、その声の良さに鼓動が跳ねる。
身長差のある乾が体を軽く折って瞳を覗きこんでくるから恥ずかしいったらない。
今更なのに赤面するのが分かって視線を逸らせば、乾が思わずというふうに笑った。



「ほら、そんな顔も。どうするかな。心配で出張に行けないよ」
「・・・馬鹿」


「こんな馬鹿にしたのは、君だ」



ああ、もうマイリマシタ。降参です。白旗だって。
両手を小さくあげれば、意味を理解した乾が満足げに頷く。



「じゃあ、ご褒美に」
「え?いや、そんなもの」いらないから



最後まで言わせてもらえず、強引に唇を塞がれると寝室へ引きずり込まれた。



きっと私は噂されるんだ。
結婚して付き合いが悪くなったねとか、旦那さんが大事なんだねとか。
それで段々と誰にも誘われなくなり、気付けば乾だけを相手にする生活になるかもしれない。
嫌だ、それ。そう思うのに、どこかで幸せに思う自分がいる。


溺れそうなほどの愛情。
真綿で包まれるように愛される心地よさ。


乾を選んだ自分を少しだけ褒めてやりたい。
そして私を想い続けてくれた乾を山ほど褒めてやりたくなる。










、行ってくるよ」
「ん・・・」



呼ばれて、意識が浮上してきた。
寝ぼけ眼のベッドの中、あたたかく大きな手が私の頬に触れてくる。
乾は既にスーツ姿で、もう出かける直前なのだと知れた。
爽やかな水玉のネクタイは私が選んだものだ。



「あ・・ゴメン、もう出る時間?」



起きようとしたら、唇が額に落ちてきて止められた。



「もう少し寝てていいよ。目覚まし、かけてあるから」
「でも」


「いいから。その代わり、ココ」



乾は子供のような笑みを浮かべて自分の唇を指さす。
起きてそうそうにコレか、そう思わないでもない。
でも眠いし、期待に満ちた目で待ってるし。どうせ拒否しても奪われるのなら同じだ。


布団から腕を伸ばし、乾の首にまわして引き寄せる。
素直に近付いてきた乾がご丁寧にメガネを外してくれた。



ああ、大好きな瞳だ。



「いってらっしゃい」
「いってきます」



早く帰ってきてねは、心の声。
そっと自分から重ねたキスはとても優しいものだった。





独りの部屋で朝食をとり、仕事に行く準備をする。
いつもと同じなのに、背中にひっついてくる彼がいないだけで無駄なくできる。
可笑しいような、寂しいような、奇妙な感覚。


目についた卓上カレンダーを眺め、乾の帰ってくる日までを数えようとして気がついた。
カレンダーの脇に置かれたメモ。


並んだ文字は乾のもので、さっき別れたばかりなのに酷く懐かしく思える。
が、中の文字を追って吹きだしてしまった。



戸締りのチェックから始まって、火のもと、不審者対策、
最後は出張先のホテルの電話番号で締めくくられた細かなメモ。



「お留守番する小学生じゃないってば」



それでも捨てる気にはなれない。


さて、心配症の夫を困らせない程度に独身生活を楽しまなくては。


だって乾のいない時間は寂しそうだ。
ううん、きっと寂しい。
もう・・・寂しくなってるんだから。



洗面所の鏡の前、
乾が残した鎖骨の上のキスマークに溜息をつく私だった。




















確率は100パーセント 新婚編2

2009/04/18  

心配症の夫




















テニプリ連載TOPへ戻る