ずっと傍にいて 〜菊丸編〜
「ちゃん、これ・・菊丸君に渡してくれない?」
「ゴメン。そういうのは受け取っちゃいけないって部内で決まってるのよ。だから直接渡して?」
「それが出来ないから頼んでるのよ、お願い!」
「大丈夫よ。エージは絶対に受け取ってくれるって。そういう奴だから。」
「いいなぁ、ちゃんは。菊丸君と仲がいいから。」
「あれは仲がいいって言うんじゃないの。
マネージャーやってるとお互いに遠慮がなくなるってだけのことよ。」
去年同じクラスだったコに粘られたけれど、最後までプレゼントの橋渡しは断わった。
人からのプレゼントをエージに渡す、それだけは避けたい。
せめてもの私の気持ちだった。
朝練の時から可愛い紙袋を持った女のコたちが待ち伏せしていて、
私の目の前でプレゼントが渡されていく。
エージは人好きする笑顔を浮かべ「ありがとね!」と屈託がない。
今ごろは教室でもプレゼント攻勢にあっていることだろう。
勝手に零れる溜息に気づき、また続く溜息。
窓際の席でボンヤリと外を眺めていたら、下から私を呼ぶ声がした。
この声?
視線をおろせば思ったとおりの人物が体操服姿で手を振っていた。
「なに?次、エージは体育?」
「みりゃ分かるでショ。ね、の赤白ハチマキ貸して!俺、忘れちゃってさ。」
「はぁ?」
「早く!上から落としてよ!」
下から手を広げて急かすエージ。
慌てて机の脇にかけてあった手提げ袋の中からハチマキを探しだし、
窓枠に手をかけ下を覗き込む。
「落とすわよ!」
「オッケー♪」
さっと結んだハチマキを二階から落とせば、軽々とエージがキャッチした。
眩しそうに私を見上げニッコリ笑うとハチマキを振る。
「さんきゅう!」
「私、午後の一番が体育だからね!」
「そうなんだ。なら、昼休みに部室へ取りに来てよ。俺、避難してるからさ!」
「ちょっと!なんで貸した私が取りに行かなきゃなんないのよ!」
「だって俺、皆に追われてるんだもん!じゃあねぇ〜」
そう言うと私のハチマキを手にエージはグラウンドへ駆けていった。
たくさんの女のコに追われるほど祝われる誕生日。
お日様みたいに明るくて気さくなエージは人気があるから当然だ。
そう頭で思ってはいても、彼女たちと同じようにお日様が大好きな私はツライ。
近すぎて言えない想いは、近いからこそ苦しくて胸が張り裂けそうになることもある。
でも絶対に言えない。知られちゃいけない。
エージに知られたら、もうハチマキを貸してなんて気軽に声をかけられる事もなくなる。
友達というポジションさえ失ってしまうのは絶対にイヤだもの。
乱れた手提げの中を片付けながら、
今ごろエージが巻いているだろう私のハチマキを思って胸がドキドキした。
好きな人が身につけたものは特別だから。
きっと午後の体育は何も手につかずに終わってしまうだろう。
手提げの中には秋限定のマロンチョコが入っている。
リボンも何もかかっていないけれど、これが私からエージへのプレゼント。
憎まれ口をたたきながら「ホラ、これでもあげる」と軽く渡せてエージが喜ぶものっていったら、
新製品か限定商品のお菓子が一番だと思って買った。
恋心は、こっそりと。
私だけが知っているエージへの想いを180円に込めて。
お昼休み、いつもより早めに食事をすませて部室に向かう。
部室には馴染みのメンバーが揃って賑やかに昼食を食べているだろうと想像しながらも、
エージに会えると思うだけで私の胸は弾んでしまう。
手にはコンビニの袋。
差し入れのふうを装って『お誕生日おめでとうね』と軽く言ってみよう。
そう計画を立てながら部室のドアをノックした。
暫しの沈黙後、
僅かに開いたドアから覗くネコみたいに大きな瞳。
「エージ?」
声をかければ突然に扉が開き、いきなり手首を掴まれ部室に引っ張り込まれた。
勢いで部屋の中に引きずり込まれ、背中でドアの閉まる音を聞く。
「ちょっと、なに?痛いじゃない!」
「人に見られるとヤバイからさ。」
なんでよと、言いかけて気がついた。
部室には大石も不二もいない。
シンとした部屋の中に、遠くのグラウンドで騒ぐ生徒達の声がくぐもって聞こえているだけだ。
「他のメンバーは?」
「俺だけ。」
俯き加減のエージが唇を親指で擦りながら答える仕草に目が留まった。
それは試合前に見せる仕草。
あれが出るときは緊張してるんだよと、隣で不二が教えてくれたのは何時だったか。
「どうしたの?」
「何が?」
「エージ、緊張してるでしょ?」
ハッとして顔をあげたエージが目を丸くして私を見つめる。
けど、そういう私だって突然二人きりになったシチュエーションに、
さっきから鼓動が走って息が苦しいほど。
「いや。ま、うん。そうかな?そうだろうな、きっと。」
「なに?わけ分かんないこと言って。」
「あ〜、えっとさ。今日、俺の誕生日じゃん?」
「そ・・そうね。」
「さ、朝も何にも言わなかったし。その・・忘れてるっていうか、シカトしてる?
いや。別に誕生日プレゼントが欲しいとかってわけじゃないけど、オメデトウもないし。
なんか気になるって言うか、なんでだよとか思わないでもないっていうか。」
ビックリした。
エージがそんなことを気にするとは思ってもみなかったから。
「あ、あの・・ゴメン。
本当は朝練の時に言おうと思ってたんだけど・・その・・人がたくさん居て言いそびれた。
でも、コレ。ちゃんと準備してたのよ。ハイ、」
渡りに船だとマロンチョコレートの入ったコンビニ袋を差し出した。
気まずそうな顔をしたエージが袋を受け取り、ガサガサと中のものを覗き込む。
でも、箱を確認すると笑顔も見せずに袋を脇のテーブルに置いてしまった。
胃がギュッと縮む感覚。
こんなもの要らなかった?呆れられた?
だって去年は強請るように
新発売のマロンポッキーを誕生日プレゼントに買ってくれって言ったじゃない。
「ゴメン。き・・にいらなかった?」
唇をかみ締め何かに耐えるよう、エージが首を横に振る。
「去年がマロンポッキーだったから、今年もチョコにしたんだけど・・・」
なに言い訳してるんだろう私。
力を抜いたら泣いてしまいそうだ。
「違う・・」
「ろくなもんじゃなくて・・ゴメン」
「違う・・、違うって!」
突然の大きな声に息が止まる。
エージは大きな瞳を更に大きくして、拳を握り締め立っている。
私は体が震えて、ただ唖然とエージを見つめながら「ゴメン」と呟いていた。
「お、俺・・言うからな!
それでがノーだったとしても、友達はやめないから。
だから、お前も直ぐに忘れろよ?いいな!」
息継ぎもしてないほどの速さで捲くし立てられ、その迫力に頷いた。
怖くて、わけが分からなくて、じわっと目元が熱くなる。
エージは今まで私が見たこともない顔をして口を開いた。
「去年はチョコでも良かった。そ、それでも俺にしたら嬉しかったから。
けど、あれから一年たったし。なんとなく期待もしてて。
なのに朝から『オメデトウ』の言葉さえ貰えなくて。
なんかムナシイっていうか、
それだけの存在かよって思ったりして凹んで・・・不二に慰められたりして。
脈はあるとかって不二が言うけど・・・、あ・・っていうかそんなことはいいんだけど。」
どういう意味?
どうしよう。エージの顔が見たいのに、どんどん滲んで綺麗に見えないよ。
エージったら私のことなどお構いなしで、よそを向いたまま喋り続けているの。
「と、とにかく、俺はチョコなんかじゃ全然足りなくてっていうか、
ああっもう!俺、なに言ってんだ?」
「おめでとう」
「え?」
「お誕生日おめでとう、エージ。」
「ちょっ、・・なんで泣いてんの?
あ、俺が怖かった?ゴメン、そうじゃないんだ。怒ってるんじゃなくて、ゴメン!泣くな!」
「ううん、大丈夫。」
「ほ、ホントに怒ってなくて、俺はが・・・」
零れる涙を指で拭い微笑んだ。
エージはオロオロとして私に近づき覗き込んでくる。
「ど、どうしよう・・・泣かせちゃった。」
「大丈夫、嬉し泣き。」
「嬉し泣き?」
「で?エージは何が欲しいの?何でもあげる。」
エージは私の顔をマジマジと見つめたまま、暫く動かなかった。
表情を見てるだけで分かる。
今、言葉の意味を考えてるのね。
考えて、ひとつの答えに行き当たったでしょう。
私たちの気持は同じだったってコトに。
パッとエージが笑った。
そして照れたように鼻の頭をかくと、ポケットから赤いチェックのハンカチを出してきて差し出す。
「ありがとう」
そのハンカチを受け取ろうと手を出せば、素早く手を握られた。
ヒンヤリとした手が私の手を包み、手の主は小さく希望の品を口にした。
「俺・・・が欲しい。」
ウン、分かった。
あげるよ。ずっと傍にいる。
「ずっと傍にいて 菊丸編]」
2006.11.28
Happy Birthday!エージくん♪
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